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英雄の奥様と恋する乙女

 マリロード王国の将軍サイラスの副官、セドリック・マートイは、一応、マートイ侯爵家の三男という身分で、見た目もそれなりに良い容姿であり、しかも、セドリック自身の能力だけで王宮においても重要な地位に就いている。

 そのため、サイラスが既婚者になった今、エドワルド王子ほどではないが、かなりモテていて、セドリックも毎日のように肉食系貴族令嬢達に恋の襲撃を受けていた。


 もちろん、セドリックは肉食系貴族令嬢達にも上手く対処していたが、その中にはセドリックでも苦手とする令嬢がいた。


 エリザベス・ハリエット


 有力貴族の1人であるハリエット公爵の娘で、現在、社交界で一番の美貌を持つと言われているエリザベス・ハリエットであったが、セドリックは、彼女が苦手だった。

 エリザベスが望めば、エドワルド王子の婚約者候補にも問題なくなれる身分にも関わらず、セドリックに恋した彼女は、毎日のようにセドリックの元を訪れる。


 そして、最近はセドリックへのアピール方法を間違ったやり方でするようになったエリザベス。


 エリザベスがそうなってしまったのは、エリザベスが社交界一の美貌をうたわれ、自信満々でセドリックに恋の突撃をしたところ、その場にたまたま居合わせたサイラスが余計なことを言ったせいである。


「おお、セドリック、社交界一の美女に迫られて凄いな!結婚は素晴らしいものだぞ~。私も応援するからな!」とサイラスがエリザベスを援護するようなことを言うものだから、エリザベスもいい気になっていた。しかし……。


「まあ、社交界一の美女でも私のスーザンには敵わないがな!

 セドリックも密かにスーザンみたいなタイプが好きだろう?

 あの優しくて聡明で、おしとやかな性格や、絹のような肌触り。あのすっきりした容貌に、破壊力満点な笑顔は本当に素晴らしい~。うーん、どこをとってもスーザンは私の好みだ!!世の女性は皆、スーザンを見習えばいいのに」と、サイラスのいつもの奥様自慢が始まった。


 周囲の者達は、将軍の奥様自慢はいつものことだと聞き流していたが、それを聞いて衝撃を受けたエリザベス。


『セドリックも密かにスーザンみたいなタイプが好きだろう?』ですって!?

 セドリック様は英雄の奥様がタイプなの?

 セドリック様から相手にされないのは、私が英雄の奥様タイプではないから??


 スーザンといえば、地味な容貌であったが、男性達から英雄の武功をささえる聡明で癒し系の理想の奥様として名高かった。

 明らかにエリザベスとは反対のタイプである。


 エリザベスは、何度もアタックするセドリックの反応が悪かったのはそのせいかと気づき、そこからかえってセドリックにますます苦手と思われるような努力をしだした。


 ある日のエリザベスは、全身を絹の布で覆うような衣装でセドリックの元にやって来た。


「さあ、セドリック様!

 これならどこを触れても、間違いなく絹でなめらかな肌触りですよ~」と言って、絹の手袋をはじめとするほぼ全身に絹をまとってセドリックに迫るエリザベス。


 絹のような肌触りを目指して、本物の絹を全身にまとう発想って……。

 何というか、せっかく社交界一の美女なのに、アホで不憫な子……。


 セドリックはエリザベスのことをそんな風に残念に思いながら、その日もセドリックに絡んでくるエリザベスをスルーするのであった。



 また別の日は、スーザンの地味な容貌を目指して、いつもの華やかで派手な化粧をやめて、ほぼすっぴんの状態でセドリックに挑むエリザベス。

 ただし、これは社交界一の美女だけあって、ほぼすっぴんでも、それなりには美しかった。


「さあ、セドリック様!今日こそ色よいお返事を!!」


「……」(こうしてみると、顔はとても好みなんだがな~。中身が残念すぎる……。)とエリザベスに対して失礼なことを考えるセドリック。

 そして、この日もセドリックから相手にされないエリザベスであった。



 とうとう、エリザベス的に万策尽きたため、セドリックの好みのタイプと思われる本家本元のスーザンへ突撃することにしたエリザベス。

 ちなみに、エリザベスは身分が高いうえに、サイラスの知り合いということで、突然の訪問でもスーザンに会ってもらえた。


「初めましてスーザン・アバート様。

 わたくしはエリザベス・ハリエットと申します。

 本日は、私の想い人を振り向かせるために、あなたの魅力を教えていただきたくて参りました!」といきなり訪ねてきて、スーザンにそんなことを頼むエリザベスに、驚くスーザン。

 しかも、エリザベスは緊張のせいか、想い人がセドリックであるという説明が抜けてしまい、そのせいでスーザンはエリザベスのことを、サイラスに恋して奪おうと突撃してきた相手かと勘違いした。


 つ、ついに来たわ!

 サイラス様を奪いにきた肉食系貴族令嬢!!

 何て美しい女性なのかしら。

 このような方のほうがサイラス様にはふさわしいわよね……。

 でも、今はもう、サイラス様を失うわけにはいかないわ!


 スーザンは、切ない気持ちで美しいエリザベスのことをみつめながらも、闘志を奮い立たせて撃退する対処法を考えていた。

 すると、今日は仕事が休みのため屋敷に居たサイラスが、いきなりエリザベスがスーザンを訪ねて来たと聞き、彼女がスーザンに失礼なことをしていないか心配して、二人のところに現れた。

 そして、サイラスはエリザベスの用件を聞き、呆れた。


「いきなり何なのだね、エリザベス嬢?

 スーザンからその魅力を教えてもらったからといって、君がスーザンのようになるのは、難しいだろう。

 ちょっとやそっとで、私のスーザンは超えられんぞ!

 それよりも、セドリックも私と同様に今日は仕事が休みだから、セドリックの元にでも、行きたまえ」


「え?セドリック様の元ってどういうことでしょう?」と状況がよくわからなくなったスーザンがサイラスに尋ねる。


「ああ、やはり、スーザンは彼女のことを誤解しているようだね?

 彼女はセドリックにまとわりついて……いや、片想いしているご令嬢の1人でね。

 以前、私が彼女にスーザンを見習うように言ってしまったことがあってね……」とエリザベスがセドリック目当てであることをスーザンに教えるサイラス。


 それを聞いたスーザンは、とても安堵した。


 よ、よかった~。

 この方とサイラス様の取り合いになったら大変と思われたから、彼女がサイラス様目当てじゃなくて、本当に良かった!!

 しかも、彼女はあのセドリック様を好きなのね。

 男性を見る目が、とてもあるわ!

 彼女なら恋の応援をしたくなるかも……。


 スーザンは、勘違いからの安心感からか、つい初対面のエリザベスに好感を持ってしまった。


 一方、エリザベスは、意気込むあまり、勢いで思わずスーザンの手を握りしめてしまい、そのため、新たな衝撃を受けた。


「わあ!何て素敵な肌!このなめらかな手触り!!

 しかも、透き通るように綺麗で、きめ細かいわ~。

 凄い!!

 これですか?これがセドリック様をも魅了する魔性の肌ですか?

 今、私も魅了される気持ちがわかりました」


「……セドリック様がお好きなのね?」


「はい!私、セドリック様の奥様になりたくて!!

 でも、セドリック様はスーザン様が好みのタイプらしく、私もスーザン様のようになろうと努力してみましたが、難しくて……。だから、スーザン様に直接、教えていただこうと思い、参りました。

 スーザン様のように素敵になるために、どうかご教授ください!」とエリザベスはアホな子であるが、実は素直で良い性格をしているため、何の腹積もりもない様子に、スーザンも快く承諾するのであった。


「ふふふ、私でよろしければ!

 では、まずはこの屋敷の女性達にも教えている美肌教室に参加しませんか?」


「はい!是非、参加させていただきます!ありがとうございます!!」


「うーん、エリザベス嬢。君の場合、美肌もいいが、まずはスーザンのような性格を目指したまえ!スーザンほど、参考になる最高の女性はいないだろう?」としまいにはサイラスまで口出しする始末。


 こうして、スーザンと時々、サイラスまで参加して、彼らの協力の元、エリザベスの新たなセドリック陥落作戦が始まった。



 しかし、それでも、なかなか落ちないセドリックのせいで、エリザベスはたびたびスーザンに相談することになった。


「スーザン様、また駄目でしたの……。セドリック様に全く相手にされませんでした……」


「まあ、肌もさらに綺麗になって、ますます美しくなったのに……。

 では、今度は私おすすめのナチュラルメイクをしてみませんか?」


「はい!やります!!」と喜んでスーザンの勧めに従うエリザベス。


 エリザベスの間違ったやり方だったセドリックへのアピール方法が、スーザンのおかげで、やっとまともな方法に修正されてきた。

 しかも、もともと社交界一の美女のため、普通に男性達からモテていたが、さらに賢げで清楚に変わってきたおかげで、セドリック以外の男性達にはさらにモテるエリザベスであった。


 また、妹のいないスーザンも、新しく妹ができたようで、ちょっとお馬鹿でも美人で素直な性格なうえ、自分をとても慕い尊敬してくれるエリザベスとの交流を楽しんでいた。



 スーザンのような魅惑肌になろうと日々、自分を磨き、またスーザンの穏やかな口調を一生懸命マネしてマスターしようとするエリザベス。


 エリザベスがスーザンのようになったというよりもむしろ、そういった健気な努力をしている事実をスーザンから直接、聞いたセドリックは、苦手だったのに、エリザベスへの好感度が徐々に上がってきた。

 また、エリザベスがスーザンのことを崇拝していることもセドリックにとってはポイントが高かった。

 しかも、スーザンを慕うエリザベスのことを、サイラス将軍までもセドリックの妻にいいのではと思い、セドリックに結婚相手として薦めることもあった。



 そんなエリザベスに、セドリックがほだされるまで、あとちょっと!



 英雄の奥様は、英雄と一緒になって、恋する乙女(肉食系)のために恋のキューピットにもなる!

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