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英雄の奥様と息子達の婚約者2

 マリロード王国の英雄の子供シモンは、この国の王太子の娘チェルシーと婚約している。


 シモンを含めたアバード公爵一家5人で、まだ生まれて1年にもならない王太子の娘チェルシーに会えることになった。

 王宮内の王太子一家が住む塔がある。

 その一室でアバード公爵家一家とチェルシーがやっとご対面のはずが………。


「シモーン!ようきたな!」と何故か国王陛下が待ち構えており、孫が遊びに来た時のおじいちゃんのようになっていた。

 もちろん、クリスティーナ王妃も待機していた。

「もう、シモンったら、まずは私達に会いに来てくれないと!」

 そして、さっさとスーザンに抱っこされていたシモンを奪い、抱っこした王妃は、国王陛下とシモンの取り合いになっていた。

 しかし、誰も彼らの争いを止めることがしばらくできなかった。


 今回の目的であるチェルシーは、その部屋で、金細工が施された豪華な揺りかごに入れられて大人しくしていた。

 チェルシーの容姿は、美男美女の王太子夫妻の間の子供なので、当然、赤ちゃんのうちから、とても美しく整っており、全体的に愛らしい。

 金髪、緑色の瞳は、王太子エドワルド似であった。

 ちなみに、エドワルドとサイラスは、従兄であるが、金髪以外は、あまり似ていない。


「わー!とても可愛いわ!

 ドレス、沢山着せたいな~」とタチアナ。

「さすが、お姫様だね。可愛い。

 まあ、リンディほどじゃないけど」とレオナール。


 タチアナは、ナリス王太子妃殿下とチェルシーにはどんなドレスが似合うかと盛り上がった。

 レオナールは、親馬鹿のエドワルド殿下に「ほぅ、我が娘が、お前の婚約者より劣るだと?いい度胸だな、レオ……」と、こめかみをグリグリされて、ちょっと制裁を受けた。

 サイラス夫妻も赤ちゃん、可愛いなっと、チェルシーを愛でていた。

 そう、サイラスはもちろん、スーザンですら、シモンのことで無駄に争っている国王夫妻を、しばらく放置してた。

 何故ならば……。


「けんかは、めー、よ?」と争う二人にシモンがやっと声をかけた。

 すると、二人は、打ち合わせしたのかと思うくらい、ピタリと争うのをやめた。

「きょうは、チェーにあいにきたのよ?」というと、二人して、「そうね!」「そういえば」と、我先にと、シモンを二人で抱えるようにして、チェルシーのいる揺りかごまで連れていった。

 国王夫妻に抱えられ、見守るなか、やっと、本当にやっと、チェルシーに会えたシモン。


「わ~、チェルシー、はじめまして。

  チェーてよぶね。

 ぼく、シモンよ!!」


 早速、シモンもチェルシーに挨拶している。

  シモンは、前から、チェルシーのことを愛称のチェーと呼ぶことにしていたようである。

 初めて会えたチェルシーに、誰よりも嬉しそうにしていたシモン。

 シモンとチェルシーのご対面シーンは、何とも微笑ましい光景だった。

 シモンは、ずっと揺りかごの傍から離れず、チェルシーの頬をつついたり、「はわ~。チェーのおてて、ちっちゃいねー」と、自分の手もまだちっちゃいのに、チェルシーの手を宝物のようにそっと握ったりしていた。

 しばらくしたら、チェルシーは眠くなってしまい、傍にいたシモンの指を逆にきゅっと掴んで、そのまま寝てしまった。

 シモンは、そんなチェルシーに、手をそのまま預け、お腹のあたりを空いた方の手で優しくポンポンしながら、あやしていた。

 ふと、何かチェルシーに向かって囁いているシモン。

 スーザンは、子守歌でも歌っているのかと、耳を澄ましたら、次の瞬間、蒼白になった。


「し、シモーン!?

 ちょっと待ってーーー!!」


 慌てて止めるスーザンに、シモンはもちろんキョトンとして、周囲も何事かと驚いた。


「まぁま?なーに?」

「なーにじゃないわ!

 今、チェルシーに、その、洗脳?

 いえ、暗示ををかけようとしていたでしょう!?」


 スーザンのその言葉に、一同、シーンとなった。

 そう、確かにシモンは、眠るチェルシーに「シモンのこと、すきになってね」という言葉を繰り返し囁いていた。

 1歳児にして、間違いなくサイラスの子供であった。

 けれども、怒られたシモンは、何故怒られたかわからず、首を傾けた。


「……こんやくしゃには、はやいうちにいうものよ?」

「えっ?何ですって!?

 誰がそんなことを言ったの?」

「にぃにも、リンにいっていたのよ?」

「レオがそんなことを……?

 レオナール?」


 くるっとレオナールを怖い顔で見るスーザン。

 さっと、目を素早くそらすレオナール。


「レ~オ?

 前に暗示なんかかけないように言ったわよね?ねぇ?」

「えっ、やだなー、母様!

 それは、暗示なんかじゃないよ?

 伴侶への愛の言葉だよ。

 ね、父様?」

「え、サイラス様も?」

「いやいや、違うぞ、スーザン!!

 レオも誤解を生むような言い方しないように!

 私が教えたのは、例え愛する人が寝ていても、起きている時のように、惜しみない愛を伝えるべきだと言っただけだ!

 決して、操ろうなどとは……」

「いえ、寝ている時に、愛の言葉は結構ですわ。

 静かに寝かせてくださいませ」

「そ、そんなスーザン!

 私の惜しみない愛を理解してくれ!!」


 スーザンは、サイラスを無視して、シモンへ目を合わせて、注意した。


「シモン。それはもう、寝ている時にしなくてもいいわ。

 あと、起きている時も、そんなに言わなくても大丈夫よ。

 愛を伝えることは大事だけど、必要な時だけでいいの。

 今は、よく眠れるように、子守唄か、静かに寝かせてあげるべきよ」

「……でも、まーま。

 ちぇーに、おしみないあいをつたえなきゃ」と不安そうなシモン。

「惜しみない愛ね……。

 それは、こんな風に一方的では、意味のないものよ。

 そうね……。

 例えば、まず、受け皿のないお水は、沢山あっても流れ落ちるだけでしょう?

 受け皿があってこそ、沢山注いだ水で、満たされるのよ。

 でも、受け皿があっても、自分が注ぐだけでは、駄目よ。

 相手からもお水を貰わないと、いつか自分は乾いてしまうの。

 そのお水と同じように、愛も受け取ってもらえたうえで、自分にも注いでもらわないとね。

 つまり、愛は、双方向型のもので、お互いのやりとりが大事なのよ。

 お互いに愛を育んだ上で、価値あるものとなるのよ」


 スーザンは、セドリックのアドバイスのおかげで、1歳のシモンにも理解できると考えて、きちんと言い聞かせる。

 たとえ、スーザンの後ろで、サイラスが何か言っていようとも。

 スーザンの話を聞いたシモンは、きちんと理解したようで、ほうっと納得したように頷いた。


「……あいは、おたがいなのね。

 わかった!

 あいをつたえるの、ひつようなときにするー!」

「そうよ、シモン。

 いい子ね!」


 スーザンは、シモンが、婚約者相手にエゴイスティックな愛を押しつけないように教育していく。

 そして、それに反する時は、厳しく対処をしていくことにしたスーザン。

 とりあえず、レオナールは教育的指導。


「レオは、私の言うことを理解できるまで、とりあえず、1週間、リンディと会うの禁止よ。

 その空いた時間は、サリー先生とジル先生の授業を増やすから」

「ええ!?リンディと1週間も会えないなんて、無理ー!!

 しかも、その代わりがサリー先生とジル先生の授業なんて!」


 サリー先生やジル先生とは、レオナールにとって、古風でお堅くも厳しい家庭教師なので、苦手な先生方である。

 しかも、二人とも、レオナールに古典的なガチガチの道徳観を説くので、レオナールには受け入れ難いところがあった。

 しかし、スーザンに言わせれば、その二人の先生は、とてもまともなことを言っているだけで、これを機に、レオナールをみっちり仕込んでもらうことにした。


「えっと、母様?

 もうしないので、せめて、2日位にしませんか?」

「あら、しないのは当たり前だし、本当は、1ヶ月は必要だと思ったのよ。

 じゃあ、1ヶ月にするわね?」

「いや、それ、増えているし!

 せめて、3日で!」

「しょうがないわね、減らして、2週間にしてあげるわ」

「いやいや、2週間も会えないなんて辛すぎる!

 それに、リンディをそんな期間、放置したら、またリンディにたかる虫どもが……」

「あら、リンディったら、モテるのね。

 じゃあ、1週間ね」

「……はい、1週間で、お願いします」


 レオナールは、いつもと違うスーザンの本気を察して、受け入れることにした。

 レオナールを叱るスーザンに、王太子夫妻ばかりか、国王夫妻まで、サイラスの子供たちを育てるスーザンの苦労が垣間見えて、同情し、いつでも力になるとスーザンに約束してくれた。

 こうして、アバード一家とチェルシーの対面は済んだ。


 スーザンは、国王夫妻などがいた手前、我慢していたが、自宅に帰るや否や、一番にやるべきサイラスへ、教育的指導をする。


「サイラス様は、子供たちへの影響をどうお考えですか?」

「え?そりゃあ、父親だから、影響はあるだろう。

 子供というものは、父親の背中を見て育つからね」

「そうですか。

 では、その影響力を考えて、今回の件は、反省されていますよね?

 レオナールばかりか、シモンまで……」

「うっ、いや、それは、誤解だよ?

 あれは、暗示なんかじゃないよ?

 思わず溢れる私のスーザンへの愛がね、その、抑えきれずにね……」

「私もサイラス様を愛しておりますわ」

「す、スーザン!!

 私は世界中の誰よりも愛しているよー!」

「でも、その愛の伝え方が子供たちへ悪影響を与えていることは、おわかりですか?」

「あ、ああ、そうみたいだね。

 すまない、なるべく自重するよ」

「では、2週間、私と寝室を別にいたしましょう。

 その間に、何が悪かったか、毎晩、よく反省してください。

 2週間後にお話合いしましょう。

 わからなければ、さらに2週間です」

「ええ、無理だー!

 スーザンと1日でも、離れて寝るのは、無理だ。

 スーザンも、わかっているだろう?」

「……本当は、1ヶ月と考えておりましたが」

「いやいや、それ、王宮でのレオとのやり取りと同じー!

 しかも、レオの時は、1週間だったのに、何で!?」

「……では、2ヶ月にします」

「えぇ!?さらに増えているよ、スーザン?

 減らして!頼むから減らして!!」

「……サイラス様の場合は、相手が私ですので、さらに期間が延長するシステムになっております。

 夫婦別室、3ヶ月になります」

「な、何だって!

 ほ、本気か、スーザン!?」

「本気です。

 どうされますか?」

「むむ、私は、かなり、反省したぞ!

 だから、初めの2週間で頼む……!

 2週間したら、話し合いしよう?」

「……わかりました。

 とりあえず、2週間ですね。

 2週間後に話し合いです」

「……ああ」


 しょぼんとするサイラスに、つい手を伸ばしたくなるスーザンであったが、ここは子供たちの将来のためにぐっと我慢した。


 英雄の奥様は、子供たちのために英雄に教育的指導をする!


 流されやすいスーザンであったが、シモンにまで及んだサイラスの悪影響を、徹底的に排除しようと頑張るのだった。

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