英雄の奥様と副官5
マリロード王国の英雄の副官セドリックはちょっと悩んでいた。
英雄サイラスの二番目の息子シモンについての問題で、英雄の奥様スーザンがとても悩んでいて、セドリックは相談されていた。
奥様の主張では、どうやらシモンは、尋常じゃないと感じるらしい。
実は過去に、1歳にして言葉を話し、2歳にして政治を理解して、3歳にして政務や外交をもこなし、マリロード王国を発展させたレジェンド級の人物がいる。
その人物とは、サイラスの曾祖父であり、「偉大なる帝王」と呼ばれた王様であった。
シモンは、その子孫であるので、しょうがないかなとも思うセドリックであった。
また、スーザンも、普段からサイラスの相手をしているのに、ちょっと大袈裟に捉えすぎなのかなともセドリックは思っていた。
だから、どのようにスーザンを宥めるべきか、セドリックはちょっと悩んでいた。
スーザンは、平凡な自分の息子なのにっと、とても心配して、セドリックへ真剣に相談していた。
「シモン、まだ1歳というか、赤ちゃんみたいなのに、セドリック様の授業を理解して聞いているんです。
……やはり、異常ですよね?」
「……まあ、あのサイラス将軍の息子さんでいらっしゃいますし、あり得ないことではございませんよ」
「そうですが……。
確かに、サイラス様の子ならあり得るかも知れません。
でも、いくら賢いといっても、レオ位の優秀さならまだ理解の範疇なのですが、シモンはそれを遥かに越えているような……」
「あの『偉大なる帝王』の直系のご子孫でいらっしゃいますから」
「あれは、お伽噺なのでは?」
「うーん、どうなんでしょう。
シモンくんの噂を聞くと、実は、本当なのかも知れませんよ?
サイラス将軍も、とんでもない逸材で、凡人の私では理解し難い方ですしね、いまだに……」
「そんな、セドリック様こそ、凡人なんかではいらっしゃらないですよ!」
「いえ、そんな……」といいながら、セドリックは心中で(奥様も魅惑肌に限らず、凄い方なんですけどね……。そんな両親の子ならね)と思っていたが、言うと更にスーザンが悩みそうなので、敢えて言わなかった。
「今後、どうすれば……」と悩むスーザン。
「とりあえず、本人が望むなら、先取りと考えて、レオナールくんと同じ教育をしていっても良いのではないでしょうか?
色々、わかっていることは、わからないより、良いことですよ?」
「そ、そうですか?まだ、1歳なんですよ?」
そんな風に、シモンのことで、スーザンがセドリックに相談している時だった。
「いやーー!うわ~ん!」
シモンの大きな泣き声がした。
何事かと、スーザン達は、シモンが昼寝している部屋に急いだ。
「シモン、どうしたの?」
「うぇ、うえーん、やー!」と泣くシモン。
「あ、お母様!
見て見て、シモン、可愛いでしょ?」とタチアナがはしゃいでいた。
シモンは、どうやら昼寝しているところを、シモンの姉であるタチアナに襲撃され、フリフリのベビードレスを着せられていた。
シモンは、これでもかっと、髪飾りから靴まで全身を着飾られていた。
しかも、部屋にタチアナが持ち込んだドレスが何着も散乱している様子から、シモンは、どうやら何度も着せ替えられたようで、さすがに泣いて抵抗していたようだ。
ちなみに、兄のレオナールは、そんな姉達を側で微笑ましげに観察しているだけだった。
レオナールは、タチアナが大好きなので、むしろタチアナのやりたいことを補助するくらいなので、シモン的に役に立たない兄であった。
シモンの乳母も、タチアナを止めようとしたが、レオナールから大丈夫だからと言われ、相手はシモンの姉と兄なので、これ以上、止めて良いのかと迷い、おろおろしていた。
「ままー!うわーん!」とスーザンに助けを求めるシモン。
「まあ、タチアナ!
シモンが嫌がって泣いているわよ?」
「え~、でも、可愛いし、いいでしょ?」
「シモンは着せ替え人形じゃないのよ。
泣かせるほどはしちゃ駄目よ」
「だって、シモンったら、最近、レオの後ばかりくっついて狡いわ!
たまには、私にも懐いて欲しいのに!
これだから、弟はつまらないのよ~。
だから、見かけだけでも、妹にしようかと……」
「そんなことしたら、ますます懐かないわよ」
「でも、今のうちから仕込めば、この楽しみに目覚めるかも?」
「これ以上、シモンを何かに目覚めさせないで!
まだ赤ちゃんなのよ!?」とタチアナを叱るスーザン。
スーザンに救出されたシモンは、すぐに泣き止み、つけられた髪飾りを外して、えいって放り投げている。
セドリックから見たシモンのそんな様子は、スーザンに抱っこされ、一見、赤ちゃんらしくも見えるが……。
あれ、シモンくん、赤ちゃんのふりをしている?
その髪飾り、1歳児が外すには、ちょっと難しいよ?
力任せじゃなくて、確実に外し方をわかってやっているね。
腕輪も、その複雑な留め金を、よくそのちっちゃい指で器用に外せるな!
やっぱり、奥様のおっしゃる通りだ。
本当に只者じゃないね、この子……。
セドリックは、そのやりとりから、スーザンの杞憂ではないことをよく理解した。
スーザンは、セドリックにちょっと待ってもらい、シモンを着替えさせて昼寝の続きをさせることにした。
そして、シモンがまた昼寝してくれたので、相談の続きをすることになった。
一方、スーザンを待っている間、セドリックは、レオ達からもシモンの普段の様子を詳しく聞いて、結論をだしていた。
「お待たせいたしました、セドリック様」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
「あの、それで、シモンのことですが……」
「はい、私もシモンくんの様子を実際、見たり、聞いたりして、考えてみました。
結論から言いましょう」
「はい!」
「シモンくんは、私から見ても、予想を遥かに上回った賢さなのは間違いないですね。
もうそれは、赤ちゃんだろうと関係ない、明らかな事実です。
なので、そういう存在だと理解して受け入れて、対応しましょう」
「あれを受け入れて………」
「はい、そうです。
あのサイラス将軍を受け入れられる奥様なら、大丈夫ですよ。
それよりも、戸惑って、対応が遅れる方がお互い良くないかも知れませんよ。
開き直りましょう!」
「でも、まだ、赤ちゃんなのに……」
「そうですね。
身体は、まだ幼いですから、それだけは年齢相応の対応をしてあげましょう。
しかし、本人が求めるのなら、教育するのは早すぎても問題はございません」
「……問題ないですか?」
「むしろ、中身に合わせた教育の方が良いくらいですよ。
今度から、私の講義はレオと二人で受けてもらいましょう。
他の家庭教師も、とりあえず、レオのレベルに合わせてみて、様子をみてはいかがでしょうか?」
「え、レオのレベルですか?」
「最初はね。おそらく、急成長する可能性も考えて、それ以上のレベルも対応できる家庭教師をつけられた方が良いですよ。
私から、サイラス将軍にも報告しておきますから」
「え、そんな、えっと……」
「奥様、そんなにご心配なさらず。
急成長したとしても、大人になってしまえば、普通レベルということもありますし。
まあ、期待し過ぎるのも良くないですが、普通の赤ちゃんのような扱いをシモンくん自身が望んでいないなら、それに応じましょう。
もし、本人が年齢相応に甘えたい時や、さっきみたいに困っている時だけ、そのように扱ってあげればいいんですよ」
「……そうなんですね。
わかりました。
まだ、色々と私の中で消化しきれておりませんが、セドリック様のアドバイスに沿って対応してみます」
「また、お困りでしたら、いつでもご相談ください」
「ありがとうございます。
こんなこと、セドリック様位しかご相談できず……」
「サイラス将軍で慣れておりますから、いいんですよ」
セドリックは、爽やかに笑って、次回からシモンを含めた息子達への講義のスケジュールをたて直してくれることになった。
スーザンは、まだ、私の子なのに、あそこまで尋常じゃないなんてと思い悩んではいたが、セドリックから聞いたアドバイスのおかげで、随分、柔軟に考えられるようになった。
そもそも、サイラスとの結婚から、新たなことに対しても受け入れる体制を作らないといけなかったなと反省するスーザン。
そこへ、帰宅したサイラスは、セドリックから話を聞いたのか、「スーザン!何故、一番に私に相談しない?私はそんなに頼りないか!?」とセドリックへの嫉妬丸出しで言ってきた。
それで、スーザンとしては、初めからサイラスに相談する選択肢がなかったことに気づいた。
それは、尋常じゃない人に尋常じゃない子の相談をしても、「え?普通だろ?」と言われそうで、解決しないかなっと考えていたからだ。
そして、理解した。
自分は何故、こんなにシモンのことを思い悩んでいたかを……。
自分の生んだ子供だから、赤ちゃんのうちは特に、自分の分身のように考えてしまっていたのだ。
けれども、シモンは、肌以外、ほぼサイラス要素でできているのだと思ってみたら、とても納得がいった。
英雄の奥様は、子供が片親だけに似ることもあるとやっと受け入れた!
そういえば、タチアナやレオナールも、自分よりサイラスの要素が明らかに多かったし、シモンは、それがほとんどを占めていただけと考えられた。
こうして、スーザンは、やっとシモンのハイスペックさを受け入れられるようになった。
そして、嫉妬するサイラスをうまく宥めて、今日も英雄一家は平和であった。
次回、シモン、婚約者に会う編です。お楽しみに!




