英雄の奥様と副官4
マリロード王国の英雄の副官セドリックには、最近、新しい仕事が増えた。
それは、英雄サイラスの息子達へのある分野への教育である。
娘のタチアナはまだ問題がなかったが、特に長男レオナールに関しては、その教育が必要と考えられた。
何故かというと…。
まず、レオナールは、まだ幼いにもかかわらず、貴族令息として、とてもモテている。
それは、レオナールが英雄の息子で未来のアルバート公爵家の跡継ぎであり、幼くても容姿端麗、勉学もできて、誰がみても将来、有望だからである。
一方、レオナールの婚約者リンディは、ムスファ伯爵家の娘であるが、国内のまさにど真ん中に位置する貴族である。
もちろん、リンディが魅惑肌とは、両親の近しい友人までにしか知られていないが、容姿は平凡との噂がでまわっている。
そのためか、ムスファ伯爵家より上位の爵位の貴族達は、今ならまだ自分の娘をレオナールに嫁がせられるのではと、野心を持たれている。
そして、それらの輩から、まだ嫌がらせレベルではあるが、レオナールとの婚約が破棄されるように動き、少々被害が出始めている。
もちろん、ムスファ伯爵現当主であるハリー(スーザンの従兄かつ義兄で魅惑肌持ち)は、学生時代、ハリーの魅惑肌に虜になったという黒歴史をもつ有力貴族の友人達に、密かに脅迫……ではなく、お願いして、そういう輩に対して報復している。
けれども、レオナールのモテっぷりは、それに追いつかない勢いであった。
このままでは、年頃には、もっとレオナール争奪戦が激化することが予想され、その対策・対応を今から必要と考えられた。
また、別問題で、レオナールは、すでに、サイラスのミニ版コピーかと思わせるようなリンディへの執着と溺愛ぶりを見せており、もうレオナールもサイラスのように手遅れかとも思われた。
それについては、何とかしたいと思っていた英雄の奥様スーザンは、サイラスの副官セドリックの存在を思い出した。
セドリックなら、レオナールに伴侶への常識的な対応を教えることができて、レオナールをまともに軌道修正できるのではないかと思われた。
しかも、かつて、王国内でも有数のモテる貴族男性だったセドリックなら、モテる男として、伴侶を守るべき術も教えてもらえるのではないかとスーザンは考えた。
こうして、忙しいセドリックの都合に合わせて、レオナールへの家庭教師形式の教育は始まった。
「リンディを守るためなら、僕、頑張るよ!」とレオナールは気合い充分。
「そうだね。
今日は、大切な人を守るために必要な情報を得る方法、対策を教えるね。
まず、レオは、レオの婚約者として、リンディの弱点は何だと思う?」
「リンディの弱点か……。
うーん、リンディ自身は、僕にとって完璧なんだけど、父親の爵位が伯爵なことかな。
だから、伯爵家より上位の貴族達に足を引っ張られやすいよね
でも、僕が公爵になるなら、あまり高位の貴族と結婚すると、政治的な釣り合いが悪くなるから、伯爵令嬢との方がパワーバランスとしては悪くないって、父様や政治学の家庭教師の先生は言っていたけどね」
「さすが、よく知っているね、レオ」
「うん!僕、リンディと結ばれるのに良い条件はできる限り言えるようにしていて、邪魔される可能性も考えているんだ!
だって、リンディ以外とは、結婚したくないもん!!」
「そうなんだ。
でも、リンディに会う前は、タチアナ嬢と結婚すると宣言していたのにね~」
「ああ、あれは、その…。
ほら、まだ、リンディに出会う前だったからね」
「レオは、リンディ以上の魅惑肌を持つご令嬢にもし出会ったらどうする?
やはり、魅惑肌が優先?」
「まさか!今は、リンディ以上の魅惑肌の子に会っても、リンディを選ぶよ!
もう僕は、リンディの全てに虜だからね」と胸を張って宣言するレオナール。
セドリックは、その返事に安心しながらも、スーザンといい、リンディといい、どうしてここまで高スペックの男性を惹きつけるのか、魅惑肌ってそんなに凄いの?と疑問に思った。
ところで、レオナールにセドリックが講義している同室内に、なぜかシモンがいる。
スーザンやシモンの乳母が、シモンを別室に連れて行こうとしても、「にーにのとこ、ここ、ここにいるの!」と強く訴えて、なかなか動かなかった。
騒いだり、おねむになったりしたらすぐに別室に連れて行こうと、シモンの様子を伺っているスーザンやシモンの乳母であったが、シモンはおねむにならず大人しくしていた。
すると、まだ1歳なのに、シモンは、まるでセドリックの話をふんふん言いながら、聞いているように見える。
あら?まさか……。
もしかして、シモンったら、セドリック様の話を聞いている?
まあ、将来、あなたにも必要な話ではあるけど、まだ早いのよ~。
なんて、まさか、そんなことはないわよね?
ねえ?
なんで、絶妙なタイミングで頷いているの、シモン?
セドリック様、レオナールが相手だから、結構、難しいお話をしているのよ。
それをまるで理解しているようなんだけど。
もしそうなら、ちょっと、怖いんだけど……。
スーザンは、セドリック様の話を頷きながら聞いている様子のシモンのことが心配になり、「シモン、そろそろベッドに行って、ねんねしようね?」と話しかけてみた。
しかし……。
「まま、しーっね?」
「え?」
「シモン、きいてるの。
だから、しー、してね!」
可愛らしい笑顔で、スーザンを制するシモン。
ちょっとー!
やっぱり聞いているってば!!
え?どうすればいいの?
思わず呆然としたスーザンに構わず、セドリックの講義を最後まで聞いていたシモン。
セドリックのレオナールへの講義が終わった後、シモンは眠気に耐えられなかったらしく、その場でスーザンに両手を向けて「だっこ」とおねだりされて、慌ててスーザンがシモンを抱っこした途端、眠りについたシモンであった。
スーザンは、そのままシモンの部屋に連れて行き、ベッドに寝かしつけて、後は乳母にまかせてみた。
いまだにスーザンは、シモンの奇行の分析ができていなかった。
英雄の奥様は、2番目の息子のハイスペックさを垣間見て、理解が追いつかない!
その後、スーザンは、帰りがけのセドリックを引き止めて、シモンのことを大至急、相談してみるのだった。




