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英雄の奥様と王子妃

すみません、久しぶりの更新でした。

 マリロード王国の英雄の奥様スーザンは、ある日、王子妃ナリスに王宮へ呼び出された。


 正確にいうと、「呼び出し」というより、普通にスーザンはナリスに遊びに来るように誘われた。

 スーザンとナリスは、お互いが王族の姑連中(ナリスの姑はクリスティーナ王妃、スーザンの姑は元王女のカーラ)に振り回される嫁同士として、仲良しである。

 しかし、スーザンにとって、今回の「お茶のお誘い」を、「呼び出し」のように感じていた。

 それは、スーザンの3番目の子供シモンが生まれてから、国王陛下やサイラスまでもが、シモンを王や英雄になるなどと、何の根拠もない多大な期待をしている。

 そして、王子エドワルドとその王子妃ナリスの間にできた子供が女の子なら、シモンと結婚させることがほぼ決定してしまっている。

 そのせいで、スーザンは「まだ生まれてもいない王子妃ナリスの子とシモンとの強引な婚約」の件に関して、ナリスが苦言を呈するための「呼び出し」ではないかと悩んでいた。


「スーザン!よく来てくれたわ。ゆっくりしていってね!」


 にこやかなナリスに出迎えられたスーザン。

 ナリスは、王妃主宰のお茶会のレギュラーメンバーであったが、いつものお茶会の時より嬉しそうだった。


「あ、あの、本日はお招きいただきまして、ありがとうございます」

「こちらこそ、お忙しい中、ありがとう!

 今日は、王妃様やカーラ様がいらっしゃらないお茶会だから、好きなだけスーザンを独り占めできて、嬉しいわ!!」


 ナリスは、いつものお茶会の際、王妃クリスティーナや、スーザンの姑カーラがスーザンの魅惑肌を堪能しているなか、いつも大人しくしていた。

 けれども、本当はスーザンのもちもち肌を堪能したかったらしい。

 スーザンは片手をナリスに拘束されながら、お茶会は和やかに過ごしていた。

 ナリスは大変幸せそうで、スーザンはてっきりシモンのことで文句を言われるかと心配していたが、杞憂であったかと思えた。

 ところが……。


「……実はね、スーザン」

「ええ。どうされました?」

「私、スーザンがシモンくんを生んでくれたことを、とても感謝しているの!」

「え?え、その、シモンを、ですか?」


 スーザンは、(やっぱりシモンの話題がきたー!)とドキドキしながらも、ナリスの話を聞く。


「そうなの!シモンくんが生まれてくれたおかげで、私への次期王太子を生むようなプレッシャーが全くなくなったの!!

 本当に助かりました~」

「……そ、そうだったのですか。

 ナリス殿下は、王子妃ですから、そのようなプレッシャーがあったのですね」

「まあ、王子に嫁ぐ時点で、当然、その覚悟はしていましたけど、王妃様から、さらに魅惑肌の孫まで求められて、一時は悩んでいました。

 でも、男の子ならタチアナちゃんをお嫁にもらえばいいかなって考えたら、気が楽になったし、むしろ、女の子だったら困るなと思っていたの。

 しかも、私の祖国の王族は、女系家族というか、女の子を生む確率がやけに高いから……」

「女の子を生む確率ですか?そんなことがあったのですね」

「そうなの~。

 おかげで、私達姉妹は、王女といえど、王子を望む各王国から人気がなくてね……。

 ちなみに、私は7人姉弟だけど、男の子は弟一人だけなの。

 いとこや親戚も8割以上が女性なのよ。

 だから、この国に嫁いだ際、王子が無事に産めるか不安でしょうがなかったの……」


 そう言って、悩んでいた頃を思い出したのか、ナリスは、涙ぐんだ。

 スーザンは、ナリスに同情し、一方で自分はサイラスに甘やかされていたせいか、王族に生れた女性の厳しい状況を把握していなかったと感じた。


「子供は授かり物なのに、生み分けを求められても困りますよね……」

「そうなのよ。

 私の祖国みたいに男女関係なく生まれた順に王位継承する国ならともかく、マリロード王国は、一応、王族の男子が優先的に王位継承するからね。

 もちろん、エドワルド様は、もし女の子しか生まれなかったら、法律を変えてくれるって、おっしゃってくれたけど、そう簡単なことではないのよね。

 でも、それが、シモンのおかげで、解決したわ!」

「えっと、そ、そうなのですね。

 あの、もしや、ナリス殿下は今……」


 そう言って、スーザンは、ナリスのお腹辺りをちらっとみた。

 ナリスは、お腹は目立ってこそいないが、いつもよりゆったりしたドレスを着ており、やや違和感がある。


「ふふ!さすが、スーザン!!

 わかったかしら?

 私、無事に懐妊しました!」

「まあ!おめでとうございます!!」

「まだ公式発表はしていなくて、来週に発表予定だけど、スーザンには早く知らせたくて!」

「まあ、とても光栄です!」

「いえいえ、スーザンのおかげで、私はストレスなく子供が生めるわ。

 だって、たぶん、生まれてくる子が女の子な気がしてたから、王子になれる男の子じゃなかったらと心配するのがストレスだったの。

 だから、心から感謝しているわ!

 それに、もし、初めに生んだ子とシモンくんが上手くいかなくても、私、沢山の女の子を生みそうだから、その中からシモンくんは選び放題よー」


 そう言って、明るく笑うナリスは本当に幸せそうで、スーザンは、現在進行形でシモンのことに関して沢山気苦労しているが、少し、報われたような気持ちになった。

 そんな風にほのぼのと過ごすスーザンとナリス。


「あ、そうだわ!

 私、スーザンに渡したいものがあるの」

「まあ、なんでしょう?」

「これなんだけど……」


 そう言って、ナリスは小袋に入った茶葉をスーザンに渡した。


「これは、私の母国の美肌にするお茶なの。

 私の国では、嫁入り前に美肌を目指して、未婚のご令嬢が飲むことが多いわ。

 王妃様から美肌を目指すように言われて、たくさん国から取り寄せたの。

 だけど、このお茶は、飲むと妊娠しにくくなるし、妊婦は飲んではいけないから、今は飲まないようにしていてね。

 スーザンは、美肌教室を開いているって聞いていたから、美肌を望むお嫁入り前のご令嬢や、もうお子様を生まない高齢のご婦人向けに、どうかしら?」

「美肌のお茶ですか……」


 スーザンは、このお茶で美肌にするよりも妊娠しにくくなるという薬効が気になった。

 サイラスからとても愛されているスーザンは、シモンに続き、次の子を妊娠しそうな勢いである。

 ところが、スーザンは、できれば子供は3人までにして、特に将来が心配な子供達を平和に生きられるように、育ててあげたいと考えている。

 どうしても、子供が増えると、一番、手のかかる子に集中してしまい、他の子供の教育が行き届かないことがしばしばある。

 今回、シモンだけでも、キャパオーバー気味のスーザンは、サイラスにもその意向を伝えているが、案の定、通じない。

 姑のカーラにいたっては、「スーザンの子供なら、もっと欲しいわ!サポートするから、お願い!!」と頼んでくる。


 密かにこのお茶を飲んでみようかしら?

 内緒にして飲んでいれば、私が妊娠しないのは、年齢のせいと考えてくれるかも!?


 スーザンが密かに、「子供は3人まで」計画をたてていると、ナリスが心配そうにスーザンをみてくる。


「スーザン?」

「え、あ、はい!」

「……ねぇ、スーザン?

 もしかして、そのお茶、自分で飲もうと考えている?」

「う、実は……」

「さすが、スーザン!

 さらに美肌を極めるのね!!

 でも、そのお茶の効果は、スーザンほどの美肌になると効果がわかるかしら?

 もともとは、湿疹とかを起こしやすい、肌が弱い人の治療に使われていたものだから、肌ががさがさの人はかなり美肌になるけど……。

 うーん、更にレベルアップできるかしら?

 しかも、妊娠しにくくする作用があるから、カーラ様やサイラス将軍は、たとえ美肌になるとしても、飲むのを許さないと思うわ……」

「えっと、妊娠しにくくなることはサイラス様には黙っておいて、飲んでは駄目でしょうか……?」

「んん?

 もしかして、スーザン、美肌より妊娠したくなくて、そのお茶を飲みたいの?」

「実はそうなんです!子供は、シモンまでにしたくて……」


 その後、スーザンは、ナリスに子供は3人まで計画を打ち明け、相談にのってもらった。

 スーザンは、事情をよく知るナリスと、姑カーラ対策や夜もやんちゃなサイラス対策について、色々と検討してみた。

 しかし、最も良い平和的解決策は、選択肢が少なかった。


「スーザン、その、スーザンの気持ちはわかるけど……」

「難しいですか……」

「……ええ、平和的に実行するなら、そう思うわ」

「でも、今いる子供達を大事にしたくて……」

「うん、そうよね。

 その気持ちもよくわかるわ!

 でも、スーザン、あなたはサイラス将軍に愛され過ぎているのよ。

 それに、スーザンはもう王族同然、いえ、それ以上に影響力があるの、自覚している?」

「えぇ!?いえ、そんな、そこまでの影響力なんかは……」

「あ、自覚なしなのね……。

 スーザンは、あの英雄が溺愛する奥様なのよ?

 スーザンの態度ひとつで、国際問題になることもあるから……」


 ナリスは、友人として、スーザンの影響力の大きさを直球で伝えようかと考えたが、王族内の機密もあり、また、スーザンの心労を増やすのも本意ではないので、やんわりと伝えた。

 もちろん、あまりスーザンには伝わらず、ナリスは悩んだ。

 そして、ふと、ナリスの夫、エドワルドから聞いた二人が最終的に結ばれたきっかけのフレーズを思い出した。


「スーザン、あの英雄サイラス将軍と、王妃殿下とはる位に最強で、美肌帝国の設立を目論むサイラス将軍の母君カーラ様に対抗するのは難しいわ。

 正直、スーザンがまだ子供3人で済んでいるのが奇跡な位なのよ?」

「え?それって、奇跡ですか……?

 うーん、でも……」

「そういえば、この前のお茶会でも、カーラ様ったら、スーザンに『これから毎年子供を作っていって、少なくともあと、10人以上は欲しいわ!』て言ってたわよね?

 最近だと、サイラス将軍は、『スーザン似の女の子をあと、5人は欲しい!!』とかエドワルド様に本気で話していたのを聞いたわよ~」

「いや、そんな無理!!

 10人どころか、5人でも、無理です―!」

「うん、うん、そうよね、普通はね……。

 でも、スーザン、あの方達、普通の方々ではなくってよ?」

「あ、そういえば……」

「スーザン、エドワルド様に倣ってこんなことを言うのは心苦しいけど、幸せになるためにも、あの英雄たち相手に対しては『あきらめと開き直りが肝心』よ!」

「……た、確かに!」


 スーザンは、タチアナ、レオナール、シモンと子供達の騒動に気を取られていて失念していたが、そもそもサイラスの結婚も、その心意気でやり過ごしてきたことを冷静に思い出した。


 英雄の奥様は、初心を思い出し、色々と吹っ切れた!


 こうして、スーザンは、無駄な抵抗もなく、子供達によく目を配り、平和に生きてもらいたいという願いは、もうあきらめた。

 そして、子沢山になろうと、子供が将来、英雄になろうと、「私、子沢山ですが、何か?」「私の子供、英雄になりますが、何か?」っと開き直るのもいいかと、ちょっと心が軽くなった。

人生ってままならない。

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