英雄の奥様と3番目の子供
マリロード王国の英雄の奥様が、英雄の3番目の子供を無事に出産した。
英雄サイラスとその奥様のスーザンとの間の子供であるため、今回も親族を始めとする多くの人々からも期待されていたのだった。
そして、期待通りに、3番目の子供は、スーザンにも負けない位の魅惑肌で生まれた。
「でかしたわ~、スーザン!!
また美肌帝国に一歩、近づいたわね~」
上機嫌の姑カーラは、今までにない位の魅惑肌の子に、大興奮して喜んだ。
しかし、約2名、顔を曇らせている者達がいた。
「でも、男の子か……」とスーザンの従兄で義兄のハリーが痛まし気に、ため息をつく。
「そうですね。しかも、見た目がサイラス様そっくりで……」と心配そうに3番目の我が子を見るスーザン。
そう、英雄サイラスの3番目の子は、超美形のサイラスのミニチュア版であった。
もうその姿は、絵画から抜け出てきた天使のように愛らしかった。
皆は改めて、中身はあれだが、サイラスの美形具合とその遺伝について、再評価した。
顔立ちは間違いなく非常に整っており、しかも、まだ赤ちゃんのせいか、魅惑肌質は極上レベルであった。
製造元のスーザンですら、一度抱っこすると、離れがたくて困ってしまうくらいの魅惑肌。
さらに、赤ちゃんでありながら、すでにきゃっきゃっと笑顔も多く、愛想も良く、何だか人を惹きつけるフェロモン的なものを発生させているようであった。
戦場にこの赤ちゃんを置いておいても、絶対に助かるレベルで、人を魅惑する子供である。
名前は「シモン」と名付けられた。
「うわ~、可愛い、シモン!
男の子でもドレス、着せてもいい?」とタチアナは、早速、従妹のリンディにも着せていたフリフリのとても可愛いベビードレスを沢山用意してくる。
「うーん、我が弟ながら、可愛い!
僕に似ているけど、タチアナ姉様にも似ていて、凄く可愛い!!
でも、将来、リンディの大好きな美形になりそう!
ああ、どうしよう~。
リンディが奪われそうで怖い!!」と既に弟を、面食いの婚約者を奪う脅威とみなすレオナール。
ちなみに、ハリーが一緒に連れてきたリンディは、シモンと会って、一瞬、瞳を輝かせて喜んだが、しばらくしたら、レオナールと系統は一緒の美形なので、慣れたのか、それほどはときめかなかったようである。
幸い、リンディは金髪よりもレオナールやハリーのような茶色の髪が好みのようで、そのリンディの様子や反応にほっとするレオナールであった。
「この子も、将来、英雄になってしまうかもな……」と勘の良いサイラスは、シモンの未来を予測する。
「それだけじゃないわ!
シモンは、きっと帝王になると思うの!!
だって、シモンったら、かつて『偉大なる帝王』と呼ばれた私の祖父をも超える王者の相をしているわ~」と元王女の姑カーラは確信したように言う。
以前、スーザンは、王宮に飾ってある歴代の王の肖像画をサイラスに見せてもらったことがある。
カーラの言っているマリロード王国の『偉大なる帝王』と呼ばれた王様の肖像画は、サイラスを更に格好良くして、賢気にしたようであったが、確かにシモンは赤ちゃんにして、将来、彼のようになりそうな気配というか、雰囲気がある。
しかし、スーザンはこの子が平凡な自分の血を引いていることを皆忘れているのかと思う位のシモンフィーバーに、心配になってきた。
「まあ、まあ、お義母様。
まだ赤ちゃんですので、そんな過剰な期待はなさらないでくださいな。
幼いうちから、あまりプレッシャーを与えても……」
「もう!スーザンったら、保守的ね~。
今の時代は、攻めに攻めた方が戦いに勝つものよ!!」と息巻くカーラ。
ええっ!?
お義母様ったら、一体、何に勝つつつもりなの?
そもそも、何の戦い?
魅惑肌vs普通肌?
それとも、魅惑肌の普及争いかしら?
どちらにしろ、巻き込まないで欲しいような……。
いえ、今さら、無理ですよね、はい。
つっこみに疲れ気味のスーザンは、カーラの横でうんうんとカーラに賛同している夫サイラスを遠い目で見つめる。
一方、スーザンの横で「間違いなく、こんな美肌好き達に、私達よりも群がられて苦労するのだろうな、シモン……」とシモンに同情の眼差しを向ける従兄ハリーの方に、むしろ賛同するスーザンだった。
英雄の奥様は、3番目の子が将来、苦労するのが目に見えてわかる!




