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英雄の奥様と不眠

 マリロード王国の英雄の奥様、スーザンは最近、不眠に悩まされていた。


 先日、サイラスがスーザンに寝ている間に暗示をかけていたことが発覚し、夜中にまた暗示をかけられていないか心配で、眠りが浅くなっていることもあったが、それだけではなかった。

 どうもスーザンは体調があまりよくないようであった。


「あの、お願いがあるのですが……」

「何だい、スーザン?何でも言ってくれ!」

「あの、最近、少々、体調が悪いのか、よく眠れなくて……。

 どうか寝室を別にしていただいてもよろしいでしょうか?」

「だ、駄目に決まっているーーー!!」

「でも、その、本当に眠れなくてですね……」

「そうだったのか!すぐにこの国で最高の医師を連れてくるぞ!!」

「いえ、その前に、できれば試しに1人寝させていただけますか?」

「却下!一晩でも、辛すぎる!!

 スーザンのいない夜はもう耐えられん!!

 医者にかかろう!そして、元気になってくれ」

「……わかりました。お医者様にかかります」とため息をつきながら、渋々と承諾するスーザン。


 そこで、サイラスが連れてきた高名な医師に受診したスーザンは、不眠事情を医師に話し、その医師の口から「今晩は、奥様を1人で寝かせてあげてください」と指示を出してもらった。

 それを聞いたサイラスは、絶望の淵に落とされたような顔をしたが、もともとは自分の連れてきた医師の言葉のため、「ひ、一晩!一晩だけだからね!!」とスーザンに約束させてきた。

 その夜、嘆くサイラスを可哀想に思った子供達に囲まれて、サイラスは休むことになった。


 一方、スーザンは、1人寝の幸せを満喫していた。

 もちろん、スーザンの不眠は治り、久しぶりのすがすがしい程の快眠であった。


「あの、もう一晩、お願いいたします」

「駄目だー!お願いだ、スーザン!!

 愛しているんだ。

 愛する君が夜も側にいないと、私は辛すぎて……」


 必死にスーザンを説得するサイラスに、タチアナは優しく「お父様、お母様のご希望を聞いてあげて!それまで、私達がお父様と一緒にいてあげるから!!」と言ってサイラスを止め、レオナールは呆れたように「お父様、たまにはお母様を自由にしてさしあげなよ~。しかも、夜だけでしょう?」とサイラスを窘める。

 子供達のおかげで、スーザンは一週間もの間、一人で寝ることができた。

 時々、サイラスが1人寝ているスーザンが寝付いたのを見計らって、ベッドへ侵入してきた。

 すると、今度はサイラスが寝付いた頃に、目を覚ましてしまうスーザンは、(あら?やだわ。これが倦怠期かしら?)と首を傾げていたが、さっさとサイラスを置いて、違う部屋に移動するのであった。

 最近のスーザンは、自分の変化に対して、自問自答してみる。


 サイラス様を、間違いなく、愛している。

 でも、何故か最近になって、サイラス様が私に引っ付いてくるとたまにお腹がキュウ~っと絞られるような痛みが走って、しんどいし、夜も横にいられるだけで眠れなくなってしまった。

 こんな症状、原因は何かしら?

 まるで、私以外の意思がどこからか、動かそうとしているような……。

 これは一種の精神的なストレスかしら?

 あのお茶会よりは、辛くないですけどね!


 スーザン自身も不眠の原因がわからず、サイラスと一緒に眠ろうとすると寝付けなくなる不眠が続いた。

 そのため、不眠が続くと1人寝をするスーザンと、何が何でもスーザンと一緒に寝たくて、眠りやすくする果実ジュースを飲ませたり、スーザンが1人寝する部屋に侵入したりするサイラスとで、二人の攻防も続いた。

 そんなある日、また医師にかかってみると、満面の笑みを浮かべて、医師が告げてきた。


「奥様、3人目のお子様を身ごもっておりますね。

 やっとわかるようになりました」

「まあ!そうだったのですね」

「あまりない例ですが、もしかしたら、ここ最近の不眠は、3人目のお子様のせいかも知れませんね?」


 医師は、いたずらっぽく笑って軽口のつもりのようだが、スーザンはそれを聞いて青褪めた。


 あ、これ、お医者様の言う通りかも?

 もし、ここ最近のサイラス様が側にいると不眠になるのが、この3人目の子のせいなら……。

 いえ、でも、まだわからないから、悪いことを考えるのは止めましょう。


 不安に思いながらもスーザンは、サイラスに3人目の子の妊娠を告げた。

 もちろん、サイラスは大喜びする。


「スーザン、凄く嬉しいよ!

 でも、最近の君の不調は、そのせいだったんだね?」

「はい、そのようです」

「良かった!

 いや、まだ不調が続いているからその点ではよくないけど、原因がわかって安心したよ~」

「ご心配をおかけしました」

「本当にわかってよかった、ソウジャナカッタラ……(原因が他の男だったら、そいつは、ただじゃすまさなかったな……)」

「え?今、なんて?」

「いやいや、何でもないよ。

 それより、子供も3人目となると、スーザンにとっては負担なのかも知れないな。

 今まで、タチアナやレオの出産の時には、そんなことはなかったからね」

「ええ、そうですね。

 まあ、私も前に比べて年を重ねておりますので。

 でも、出産自体はタチアナの時ほど不安はないですよ?」

「そうか!でも、無理しては駄目だよ。

 子供も大事だけど、それ以上に私はスーザンが大事だ。

 万が一、スーザンの身に何かあったらと心配でしょうがないよ」

「まあ、サイラス様、ありがとうございます」

「私にできることがあったら、言ってくれ」

「では、しばらく、落ち着くまで一人寝を……」

「それは駄目だー!!できないことは、言われてもできない!」

「えぇ~、サイラス様、本当にできませんか?」

「本当に無理!できないの!!」

「う~ん、サイラス様なら、もう1人寝も、で・き・ま・す・よ~?」と微笑んで小首を傾けてみるスーザン。この技は娘のタチアナから伝授された技である。

「そ、そんな可愛く言っても、無理なものは無理!

 こんな可愛いスーザン無しじゃあ、私が不眠になる!

 将軍の私が不眠になったら、この国の防衛に影響が出るぞ!いいのか!?」

「え~っと、それなら、サイラス様が寝付くまでは側におります。

 それでも?」

「無理ー!それでも、む・り・だー!

 一晩中、ずっと一緒じゃないと無理ー!

 あと、朝起きて、スーザンが横にいないと駄目だ!」

「えぇ!?そんなに、駄目なのですか……」


 スーザンは、一人寝できるように、サイラスにお願いを聞いてもらう方法をランダード王国きっての小悪魔になりつつある娘のタチアナより伝授されていたので、サイラスにその技を駆使したり、なだめすかしたりしてみたが、むしろ逆効果で、寝室に強制連行されそうになってしまい、慌てて、医師より安定するまで止められていると説明し、何とか逃れた。

 その後、スーザンが子供達に3人目の子のことを話すと、「わー!!弟?妹?どちらでも嬉しい!!」と大喜びしてくれた。

 しかも、タチアナとレオは二人とも、スーザンが不眠にならないように協力してくれて、スーザンの横で寝ようとするサイラスを妨害して、スーザンを守ってくれて、しばらく平和に一人寝ができる日もあるスーザンであった。

 また、サイラスの母親カーラに3人目の妊娠を伝えると、「やったわ!これで美肌帝国にまた一歩、近づくかしら!?」と喜んでくれて、無事に元気な子を生むために、スーザンの希望をできるだけ通すようにサイラスに忠告してくれた。

 結局、サイラスも流石に少々我慢することを覚えてくれたので、スーザンは、何とか重症の不眠にはならずに過ごせるようになったが、重症化しないようにするだけで、スーザンに余力があるようなら、やはりスーザンとできるだけ一緒にいたがるのは変わらなかった。

 スーザンも、最終的には、これも一緒の愛情表現?と考えて、サイラスに根負けするのであった。


 英雄の奥様は、3人目の子の出産前に、一苦労する!

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