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英雄の奥様と偽王子

 マリロード王国の英雄の奥様スーザンには、スーザン似の地味平凡顔の従兄ハリーがいる。


 ハリーは、スーザンの実姉と結婚してムスファ伯爵を継いでいる一児の父親でもある。

 そして、平凡地味顔でありながら、魅惑肌持ちのため、何故か多くの肌フェチ野郎共に狙われるという不幸な目によくあっていた。

 そんなハリーにイメ-ジチェンジするチャンスが訪れた。

 スーザンは、姉のエミリーに化粧名人の王宮侍女ベリーナからのお願いで、「地味な男性を王子のように変身させる」という企画依頼について、話を通したところ、エミリーはとっても喜んで、話に乗ってくれた。

 早速、エミリーがハリーにお願いしてみると、ハリーは初めは大変嫌がっていた。

 しかし、ハリーも愛する妻エミリーのお願いにはめっぽう弱い。

 場所はアバート公爵家で、ハリーの王子様変身企画が行われることになった。

 ベリーナは、ハリーの素顔をみた瞬間、「まあああああ!奥様の男性版!!」と歓喜して、持てる技術の限りにハリーを王子様姿に変身させていった。

 待つこと数時間。

 ついに、ハリーが王子様姿になって現れて、見た者達は驚愕した。


「ほ、本物の王子様のようだ……」

「あの地味さから、差が凄い」

「思わず、『殿下』て呼びたくなりますね~」

「あれ?我が国王太子『エドワルド殿下』に似ている……」


 そう、王子様姿のハリーは、本当のマリロード王国王太子のエドワルド(サイラスの母方の従兄)かと思わせる変身ぶりであった。

 しかも、エドワルドの従弟のサイラスよりもずっと似ており、何だか兄弟と言っても信じそうなレベルで似ていたので、ハリーの素顔を知る人々は、とても驚かされていた。


「ああ、それは、エドワルド殿下をモデルにしておりますから」と答えるベリーナに、みんなが「なるほど!よく似ている」と褒める。

 その横で、サイラスの母親(スーザンの姑)カーラもハリーの王子様姿を見物にきていた。


「ねえ、サイラス。彼なら、エドワルドの影武者にできそうね?」

「うーん、確かに。

 あとは髪色はかつらで同じにすれば可能ですね、母上。

 でも、エドワルドに影武者が必要なのですか?

 エドワルドの身に何か危険が?」

「いえ、そういうわけではないけど、ほら、有事の際に備えてね。

 ふふ。これは大きな収穫だわ!

 早速、クリスティーナに知らせないと!!」


 そんな不穏な会話を親子でしているのを聞いたスーザンは、ハリーの身を心配する。


 エドワルド殿下の影武者だなんて、そんな物騒なこと……。

 そもそも、ハリーお義兄様はそういうプレッシャーにとても弱いのよ!

 クリスティーナ王妃に知らせるのだけは、止めてあげて!!

 私がこんな提案したばっかりに……。

 もし、本当に影武者になれといわれたら、きっと私が逃げ道を作るから、ハリーお義兄様は、超逃げて!!


 ハリーが万が一、王太子エドワルドの影武者にされそうなったら、全力でハリーを逃がそうと責任を感じるスーザンであった。

 一方、皆、ハリーの王子様姿について好き放題に批評していて、どちらかと言えば、普段のハリーを「地味平凡」とおとす発言が多くて、少しへこんだハリーであったが、愛する妻子のエミリーとリンディには大好評だった。


「もう、ハリーったら!やっぱり、こういう格好しても素敵だったのね~!

 私の王子様~!!」とエミリーは大絶賛であった。

「きゃわ~、ぱっぱ~!」とリンディも大喜び。


 いつも、レオナールやサイラスがいる時は、そちらにばかり愛想を振りまくリンディが、偽王子になったハリーには、愛らしいぷにぷにの手を広げて、ハリーに抱っこをねだってきた。


「リ、リンディ~」とハリーはでれでれしながら、リンディを嬉しそうに抱っこする。

「あらあら、リンディったら、格好良いいパパは気に入ったのね~。

 ハリーは、このままリンディのためにも、いつも王子様風になっておく?」とリンディの母親のエミリーは、娘リンディの豹変ぶりに笑う。

 その様子をみて、焦ったレオナールは、リンディの気を惹こうとする。


「リンディ、僕のところにおいで! 

 僕が抱っこしてあげるよ?」

「ん~ん」

「ほら、この綺麗なリボンあげるから、おいでよ」

「ん~」と首を横に振って断るリンディ。

「僕の方がハリー伯父様より好きでしょう?

 ハリー伯父様じゃなくて、僕と遊ぼう?」とレオナールが必死になってリンディの手をとろうとするが……。

「やっ」とレオナールはリンディに手を振り払われた。

「ええ~、リンディ!?」


 リンディにふられて、ひどいショックをうけるレオナール。

 どうやら、リンディが本当に王子顔好きの面食いであることが判明した瞬間であった。

 だからこそ、王子顔負けのレオナールにもリンディは懐いていたのだが、レオナールは、自分がハリーに負けたことでショックを受ける。

 そんなレオナールを、ハリーは大人気もなく、どや顔で笑う。


「くくく。ちょっ~と、うちのリンディに懐かれているからって、調子に乗るからだよ~。

 私が本気を出せば、こんなもんさ!」


 いや、ハリーお義兄様、自分は何もしてないでしょう?

 リンディが懐いているの、今だけだし、それもベリーナのおかげですよ~。


 後ろでその様子を見ながら、スーザンはハリーのどや発言に心の中で内緒のつっこみを入れる。

 そんなハリーに対して、初めて負けたレナールは、涙目でサイラスに助けを求める。


「父様!どうしよう!!

 リンディが大きくなったら、今みたいに僕以外の男を、美形だからって選んでしまうかも知れない。

 そうなったら、僕は相手を……」

「だ、大丈夫だ!!

 そんな物騒なことを考えなくても、大丈夫だぞ!

 お前はもうリンディの正式な婚約者で、ちょっとやそっとで婚約破棄はもうできないしな。

 それに、リンディが適齢期になったらすぐに結婚させよう!」


 それを聞いたハリーは「何、勝手なこと言っているんだ、そこの魅惑肌大好き変態親子!結婚するかはリンディ次第の約束だろう!?」と本気で怒るが、そんなハリーを見事にスルーするサイラスとレオナール。


「うん、僕はもちろんそのつもりだよ。

 でも、まだあと15年もあるから、その前に浮気されたら困るな……」

「よし!万が一、そうなったら、セドリックに相談して、策を練ろう。

 セドリックの考えた作戦で、負けたことはほとんどないぞ!」

「わあ!本当!?セドリック様って凄いんだね~」

「ああ。セドリックは自慢の副官だからな!」


 サイラスとレオナールがいかにリンディをレオナールのものにするかの話をしている横で、スーザンはこちらでも心配でハラハラしていた。


 ああ、夫と息子が変な結託をしている。

 セドリック様に仕事以外のことをお願いしても、いいのかしら?

 あと、息子のリンディへの執着がちょっと心配……。 

 将来、物騒なことにならないように、教育していかねば!

 

 レオナールのリンディへの不穏な執着を感じ取ったスーザンは、平和な未来のために、レオナールの再教育と、レオナールがリンディとうまくいくように対策を今のうちから練ろうと決意するのであった。


 英雄の奥様は、息子と姪っ子の幸せのために頑張る!


 ちなみに、スーザンは、偽王子風のハリーの変身ぶりは凄いと素直に思うが、好ましいかといえば、正直、天然美形のサイラスの素顔の方が何倍も恰好良いなと思うくらいに、実はサイラスと両想いであった。

もちろん、レオは成長したら、ヤンデレ予備軍になりますよー!

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