英雄の奥様とおねだり
マリロード王国の英雄の奥様は、今でも英雄に手を焼いている。
今日も、英雄サイラスのおねだりに困らされているスーザン。
普段は軽く受け流すスーザンであったが、本日のサイラスは、しつこかった。
「スーザン!どうして、私の言う事を聞いてくれない!?」
「でも、サイラス様……」
「ほら、また『でも』と言ったりして、そうやって、よく受け流してしまうのだから!」
「ええっと……」
「スーザン、君はまるで風のようだ!
私の言うことを風のようにすり抜けてしまうんだから!」
「そんなことは……」
「もっと私の言うことを聞いて欲しい!!」
そこへ、タチアナが、サイラスがまたスーザンを困らせているのをみて、父親をとがめる。
「もう、お父様は、いい大人なのに、どうしていつも、お母様を困らせるの?」
「何を言うタチアナ!私はスーザンを困らせてなんかいないぞ!」
「……今度は、何をおっしゃったのですか?」
「いや、その、私はもっとスーザンとの接触を……」
「ああ、またですの……。
お父様は、3人目の子が欲しいのですね?」
「そうなんだ!王妃でもあるクリスティーナ伯母上からも催促されておるのだ。
タチアナやリンディみたいな女の子が欲しいんだ~。
今でも幸せだけど、更に幸せになれること、間違いなし!」
そういって、昼間からスーザンを寝室に連れて行こうとするサイラスであったが、タチアナが明らかに困っている様子のスーザンを見て、ため息をついた。
「お父様、今日はお母様もやることがあるんですよ?
だから、お母様の意見もきちんと聞いてあげてくださいな。
しかも、3人目の子が女の子でなく、私やリンディに似ず、お父様以上に困らせる男の子だったら、どうするのですか?
きっと、お母様を独り占めにして、お父様の入る隙もなくされるかも知れませんよ」
「う、それは考えなくもないが……」
「子供は望み通りの子が生まれるとは限らないのですから、きちんと覚悟を決めた上で、望まないといけないのですよ。
こんなこと、子供でも知っているのに、お父様ったら、自分の欲望にばかり支配されて、それでも英雄なのですか!?」
タチアナから、正論かつ厳しい言葉に刺されるサイラス。
「ぐ、タチアナ!お前は風どころじゃない。
鎌鼬のようだ!私にその言葉が鋭く刺さる!!」
「ええ~?鎌鼬って何ですの?」
「つむじ風にのって現れて人を切りつけて、刃物のような切り傷を残すやつだよ」
「ふ~ん。あら、私の言葉ってそんなに厳しかったですか?
でも、そこまで言ってさしあげないと、お母様はお困りだし、お父様は聞かないですもの~」
「……スーザン、タチアナの私への風当たりが強過ぎる~」
スーザンに助けを求める程、嘆くサイラスに、そのうち、タチアナがサイラスにもっと冷たい態度になっては、お互いに良くないと思ったスーザンは、タチアナには「タチアナ、ありがとうね。でも、いつものことだから大丈夫よ」と笑顔で安心させて、サイラスには、別の日に夜の約束をしてあげる。
「本当だな、スーザン!約束だからな!!」
約束を取り付けたサイラスは、嬉しさのあまり、「やったー!スーザン、大好き!!愛している~」と思わずローリングサイラスになって、転げまわって喜んだ。
「まあ、サイラス様、お止めくださいな。
子供たちが真似したら、どうされるのですか?」
「ええ!?お母様ったら、そんなこと真似しないわ!」と否定するタチアナ。
「僕も~。お父様みたいなこと絶対、しないよ~」とクールな対応のレオナール。
子供達の方が、大人であった。
そんな中、じぃっと転がるサイラスを見つめているものがいた。
いつもスーザンにまとわりついている護衛のようなペット、リンナである。
よく転がるサイラスは、本来、喜びの余り転がるのだが、ちょっと賢いリンナは、願いをかなえた時に転がるのではないかと推測した。
そして、リンナは、良いお肉が出された時、サイラスの真似をするようになった。
そうすることで、良いお肉が自分の願いだと主張するつもりである。
ローリングサイラスの真似で、ローリングリンナである。
コロコロコロ~
「まあ、リンナ!?転がって、一体、どうしたのかしら?」
「ああ、もうしかして、父様のまねかもよ~。ほら!」
ローリングサイラスは、さほど可愛くなく、むしろ、うざいが、ただでさえ可愛い兎に見えるリンナが、ローリングリンナになると、最強に可愛らしかった。
リンナがコロコロと転がる様に、スーザンですら、思わずきゅんっとなってしまった。
そのローリングリンナの姿が見たいために、スーザンはつい、リンナに良いお肉を出す頻度が高くなってしまい、リンナの思惑にまんまと嵌ってしまっている。
逆に、出されたお肉が気に入らないと、ダンダンと不満げに後ろ足を踏み鳴らすので、ますます良い肉の出現率が上がる一方であった。
あんまり、贅沢をさせては駄目かしら?
でも、可愛いから、いいわよね。
サイラス様と違って、周囲に迷惑をかけたり、影響がないもの。
それに、リンナは命の恩人だしね!
そう思い、スーザンは、今日もリンナをローリングリンナにして、密かにサイラス以上に甘やかすのであった。
英雄の奥様は、英雄よりもペットを甘やかしている!
ローリングリンナが見たい!と思って書きました。うさぎって可愛いですよね。




