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英雄の奥様と花嫁

すみません、久しぶりの更新です!

 マリロード王国の英雄の奥様スーザンは、友人エリザベスの結婚式の準備を頑張っていた。


 エリザベスは、スーザンの友人でもあり、スーザンの夫サイラスの副官であるセドリックと結婚する予定である。

 結婚式は、サイラスの采配もあり、盛大に行われることになった。

 盛大に行われる予定であるが、セドリックがラタナ王国から帰国後、何故か焦ったように結婚式を早めたせいで、準備する時間が十分に取れなかった。

 ちなみに、セドリックは、帰国以来、時々、「金の猛獣が!」と転寝して悪夢を見て、魘されるようになっていた。


 スーザンのことを姉のように慕うエリザベスのためとあり、スーザンも喜んで、エリザベスの結婚式の準備を手伝ってあげていた。

 マリロード王国の貴族の伝統である、花嫁の母親が花嫁のドレスの刺繍をデザインし、贈ることになっているが、エリザベスの母親は、エリザベスと同様に、デザインのセンスが壊滅的だった。

 そのため、エリザベスの母親やエリザベスよりは、まだ才能のあるスーザンが代わりにデザインをしてあげることになった。

 そのデザインは、エリザベスのイメージに近い美しい白薔薇に、可憐な小さな花を散らし、エリザベスの美しさを存分に引き立たせ、計算尽された絶妙なデザインをされており、仕上がり予想はとても華麗になりそうであった。

 しかし、その刺繍はやや複雑なため、デザインしたスーザンが責任をもって刺繍するお針子達と相談して、微調整を加えながら作成している。

 本当に式の日取りが迫ってきたので、とうとうその準備のために、スーザンは泊まり込みで、エリザベスの実家ハリエット公爵家に行くことになった。

 サイラスは、スーザンがエリザベスの家に行くことを大反対していたが、サイラスの副官であるセドリックのためでもあると説得すると、しぶしぶ許可してくれた。

 スーザンにべったりできなくなったサイラスは、娘のタチアナを抱きしめながら「なるたけ早く帰ってきておくれ~」とスーザンに懇願していた。

 タチアナは、よしよしと落ち込んでいる父親サイラスを慰めて、「エリザベスお姉様のために頑張ってね、お母様!」とスーザンを応援してくれた。


 エリザベスの家で、ドレスの準備をするスーザン達。

 そんな作業をしている時に、ふと、スーザンは自分とサイラスとの結婚式を思い出した。

 その時、スーザンの花嫁衣装は、貴族令嬢にしては珍しく露出の多いドレスであった。

 どうやら、スーザンの母親にサイラスがリクエストしたせいで、そうなってしまったようである。

 スーザンは、自分の母親から「おかげで、デザインが楽だったわ!」と喜ばれた。

 スーザンの母親にとっては、二度目のことなので、姉のエミリーの時ほど、気合が入っていなかったのもある。

 その結婚式で着たドレスは、肩や腕がでるようなデザインで、人目がある時は、上からケープのようなものを羽織っていたが、基本的に、そのむき出しの肩や腕をサイラスに式の間中、撫でられていることが多かった。

 でも、スーザンとしては、その当時、あまり嬉しくないドレスであったが、英雄の奥様がきたドレスとして、そのデザインが貴族の社会で大ブームになった。

 そして、スーザンは、そのドレスを着ていたことが、それほど苦にならない出来事が結婚式中にあった。


 そうだった。

 結婚式の時の誓いのキスをした後のサイラス様の顔が……。


 懐かしく思い出している時に、エリザベスがそんなスーザンの緩んだ表情を読んで、聞いてきた。


「スーザンお姉様、もしかして自分の結婚式の時を思い出しているのでは?」

「まあ!わかる?そうなのよ。

 懐かしいわ~」

「スーザンお姉様の結婚式。見たかったわ~。

 その頃はまだセドリック様にも出会っていなかったもの。

 どんな結婚式でした?」

「そうね……。

 実は、その結婚式中に、サイラス様に恋に落ちたの」

「ええー!もともと結婚前から、愛し合っていたのではないのですか?

 あんなに仲がよろしいのに!?」

「ふふふ、そうね。

 結婚式の時に恋に落ちたけど、結婚前はあきらめての結婚だったの」

「そうだったのですね~。

 てっきり、英雄とのなれそめとして聞いたお話で、転んで足を痛めたスーザンお姉様を、サイラス様が助けた時に、恋に落ちたのかと思っていました。

 結婚前のサイラス様を好きになれなかったのですか?」

「うーん、あの頃のサイラス様は、既に将軍職で、国王の甥っ子という立場だから、高嶺の花で、好意をもつ以前に、恐れ多かったのよ。

 しかも、サイラス様からプロポーズをされた際に、何で私なのかと聞いたら『肌』と言われてしまって……。

 なんだ身体目当てかと思って、どうやったら断れるかと考えて冷静だったのよね」

「あ!それはわかります。

 私も自慢ではないのですが、ひどい求婚者に求婚理由は『顔』とか言われて、嫌でしたね」

「貴族同士の結婚は、家同士の利害で決まることが多いから、お互いよく知り合えての結婚は難しいし、表面的な事柄が求婚理由なのは、よくあることだし、しょうがないけどね」

「でも、それで、よく承諾されましたね~」

「それが、サイラス様ったら、求婚前からもう根回しされていたし、プロポーズを断るのも難しそうだったから、いつか愛せるかなと思いながら、あきらめが肝心と思ったの」

「じゃあ、結婚式のどのタイミングで恋に落ちたのですか?

 礼装姿を見て?」

「いえ、誓いのキスの時よ」

「わ~、それはロマンチック!

 キスして恋が芽生えるなんて素敵!!

 やはり、運命の人だったのですね~。

 さすが国一番のおしどり夫婦!」

「ふふふ、今度はエリザベス達が国一番のおしどり夫婦ときっと言われるわよ?」

「はい!是非、そうなりたいです!」


 エリザベスは、そう力強くいうと、さらに気合を入れて、結婚式の準備作業に戻った。

 その姿を微笑ましく見ていたスーザンは、あらためて自分の結婚式のことを思い出していた。


 サイラスとスーザンの結婚式で、誓いのキスをした後。

 サイラスは、すごく顔を赤らめて、最上の笑顔でスーザンに微笑んでいた。

 その笑顔と似た笑顔を、スーザンは以前、見たことがあった。


 ああ、その笑顔は!


 確か、まだ赤ちゃんである友人の弟に、ミルクをあげさせてもらった際、その赤ちゃんが「これはうまい!極上じゃ!!」と言わんばかりに、やや興奮したように顔を赤らめて満面の笑みを浮かべていた。

 その赤ちゃんの笑みに似た笑顔をサイラスが、しかもスーザンとキスした後に浮かべていたので、つい、スーザンは母性本能をくすぐられたせいなのか、その瞬間、サイラスを愛しいと感じてしまった。

 その後は、多少、肌を触られても、ちっとも気にならなくなり、むしろ懐いてきて可愛いとさえ思えるようになったのだった。

 まあ、時には、ちょっと控えて欲しいと思うこともあるが……。


 あの瞬間があったからこそ、スーザンはいまだにサイラスと仲睦まじくいられると思え、早く、サイラスの元に帰ってあげようと作業を頑張るのであった。


 丁度、同じ頃、タチアナやレオナールと一緒に、スーザン不在の自宅で過ごすサイラスは、子供達にねだられて、二人の結婚式での思い出話をしていた。


「スーザンと結婚式で、誓いのキスをしたのだが、その時、私は、これほどまでに素晴らしいものを、今まで口に触れたことはなかった!!っと感動したんだ。

 いやー、あの時は、あまりの感激で、人目がなければ床に転がるほど、悶えたぞ」

「ああ、それわかる!

 僕もリンディに初めてキスした時、お母様やお姉様以上に気持ち良くて、感動した!」

「そうか、そうか、わかるかって、お前!

 まだ赤ちゃんのリンディに何してんだ、レオ!?

 ハリーにばれたら、ぶっとばされるぞ!?

 もっと大きくなってからにしなさい」

「は~い」


 それを聞いたタチアナは、首を傾げる。


「ふーん、誓いのキスって、そんな感激するほどのものなの?」

「いや、これはスーザンだからこその出来事だぞ、タチアナ。

 だから、間違っても家族以外の者とキスしては駄目だぞ、いいな?

 何なら、タチアナとのキスは、父様限定でもいいよ?」

「父様とはいや~」

「ええ~!!そんなタチアナ~」

「じゃあ、姉様、僕とは?」

「レオか~」

「ね、僕とキスしようよ!」


 レオは、うちゅ~とタチアナとキスしようと迫るが、当然、サイラスに止められる。


「こら、レオ!

 さっき、リンディへのキスの方がタチアナよりもいいと言っていただろう?

 その歳でもう浮気か!?」

「ううん。姉様は家族だから浮気に入らないよ~」

「じゃあ、タチアナの父親である私が許可しない!」

「姉様とのキスを父様に許可してもらう必要ないもん。

 いるのはタチアナ姉様の許可だけです~」


 当然、タチアナならきっと、自分にはキスの許可をしてくれると思っているレオナール。

 それに対して、タチアナは……。


「じゃあ、レオにも許可しな~い」

「ええ!そんなぁ~姉様~」


 小悪魔な笑みを浮かべたタチアナに、二人はその後も色々と翻弄され、スーザンの不在による寂しさが、随分と紛れたのであった。


 英雄の奥様は、結婚式の誓いの後に、英雄に恋に落ちた!

 そして、英雄の娘は、小悪魔な技をどこかからか、仕入れていた!?

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