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英雄の奥様と幼馴染2

 マリロード王国に英雄の奥様の幼馴染みミハイルがやって来た。


 ミハイルのマリロード王国来訪の一番の目的は、スーザンであった。

 実は、ミハイルは子供の頃から、スーザンと結婚をしようと思っていたが、サイラスに先を越されてしまった。

 しかし、それでもスーザンをあきらめられず、そろそろ夫婦間も冷めた頃かと狙った来訪であったが、予想外にサイラスのスーザンへの溺愛は継続していた。

 そこで、本当にスーザン達の間に隙はないかと、マリロード王国にきてから、毎日のようにスーザンのところを訪れるミハイル。


 サイラスは、初回以降、ミハイルとスーザンが二人きりで絶対に会わないように、スーザンにつきまとってガードをしていた。

 当然、サイラスはスーザンへ、もうミハイルに会わないで欲しいというお願いもしていた。

 けれども、スーザンンにしては珍しく、サイラスのお願いをなかなか聞いてくれず、ミハイルはわざわざ遠い国から来てくれた弟みたいなものだから、そんなことを言わないで欲しいと、むしろサイラスの方を説得してきた。


 これには、サイラスも危機感を覚え、さらにスーザンにべったりするようになった。

 べったりしていても、四六時中というわけにはいかず、サイラスもマリロード王国の将軍という地位にあるため、ミハイルがいる間、仕事をずっと休むことは難しかった。

 とうとう、副官のセドリックに強制連行されて仕事に向かわないといけない日があり、サイラスは、代わりに息子のレオナールを見張りに置いておくことにした。


「いいか、レオナール。

 あの男をスーザンと二人きりにしては駄目だよ。

 そうしないと、スーザンがあの男の国に連れて行かれるかもしれないから、気をつけてガードするんだぞ!」

「はい、父様!

 母様をとられないように僕、頑張るね!!」と元気よく答えるレオナール。


 ところが、レオナールはしょせん子供であった。

 ミハイルの社交術にあっさり陥落し、ミハイルとすっかり仲良しになってしまった。


「ラタナ王国ってどんなところ?」とミハイルへ無邪気に聞くレオナール。

「マリロード王国のように古い歴史のある国だよ。

 布の染料技術は大陸一と言われていていてね。

 この国の王侯貴族が着るドレスにも、ラタナ王国の染料技術を使ったものが多数あると思うよ。

 もちろん、スーザンも持っているよね?」

「そうね。私も何着か、ラタナ王国の染料技術が使われたドレスを持っているわ。

 とっても綺麗な色合いで気に入っているの」と楽しそうに答えるスーザン。

「へえ~、凄いんだね、ラタナ王国!」と純粋に感心するレオナール。

「食べ物も、マリロード王国のものより、美味しいものが多いよ。

 甘みの強い果物アリアロンがたくさん取れるから、それを使ったお菓子がラタナ王国の名産なんだ」

「あ!そういえば、王妃様とのお茶会で、ラタナ王国名産の焼き菓子を食べたことあるよ~。

 干した果物が乗っていて、すっごく美味しかった!」

「それなら、たぶんアリアロンのパウンドケーキかな。

 この国だと王侯貴族しか食べれないけど、ラタナ王国にくれば、庶民でもそのケーキをよく食べているよ」

「おお、そうなんだ~。

 他にもマリロード王国と違うところはある?」

「そうだな、他はこの国と違って、武闘に優れた勇敢な女性が多いよ。

 女性用の士官学校が数校あるくらいだから。

 男女の体格差も関係ないような武術が発達がしているから、女性に男性でも、下手すると負けることもあるよ」

「あら、そういえば、そちらの国では、女性が将軍をされているのよね?」

「いや、彼女はまだ将軍ではなく、副将軍だよ、スーザン。

 まあ、彼女が実質の将軍の仕事全般をされているが、一応、諸外国への対策で、将軍には王弟のアロイス殿下が兼任で就いているんだよ」

「ふーん。

 ラタナ王国には強い女性がいるんだね~。

 この国の女の子も積極的な子が多いけど、武闘の強い子はいないかな」


 いつも肉食系貴族令嬢に恋の襲撃をされているレオナール。


「レオナールは、強い女の子が好きかな?」

「うーん、どうかな?

 会ったことないからわからないや。

 まあ、間違いなく僕は母様が大好き!」と子供らしい返答のレオナール。

「お、私と一緒だね。気が合うな~」とミハイルに言われ、「へへっ」と笑い合うミハイルとレオナール。

 そんな二人に、微笑みながら、やれやれとため息をつくスーザン。


 仲良く3人で和気あいあいとしているところを、またもやセドリックの包囲網を突破して、まだ昼間なのに急いで帰宅したサイラスが目撃してしまった。


「!!」言葉にならない怒り心頭のサイラス。


「あれ?父様、もうお帰り?

 早かったんだね~」とサイラスからの任務を忘れて、ミハイルと仲良くしていたレオナール。

「まあ、サイラス様!?

 お仕事は終わりましたの?」と、早くに帰宅したサイラスに対して、仕事の心配をするスーザン。

「わ~、この国は平和だね~。

 将軍が早退できるほど、軍事職が暇なんて!」


 サイラスを揶揄う命知らずなミハイル。

 スーザンからめっと怒られて、にやにやするミハイルに、サイラスは我慢の限界であった。

 サイラスは、物理的にミハイルとレオナールをぽぽいっとアルバート家の屋敷から追い出した。

 邪魔者と使えない息子を追い出したサイラスは、やっとスーザンと二人きりになれたが、不機嫌な気持ちを隠しもせずにスーザンにべっとり張り付いた。


「……サイラス様?」

「……」スーザンを抱きしめながらも、拗ねて無言のサイラス。

「本当にお仕事は終わったのですか?

 それとも、家で休まれてから、またお仕事にお戻りですか?

 それなら、私もご一緒に王宮に参りましょうか?」

「……大丈夫だ。

 私がやらないといけない仕事だけは、とりあえず全て終わらせてきた。

 まだ、他の仕事もあるが、それは私でなくても大丈夫な内容だったから、セドリックとダリアン副将軍に押し付けて帰ってきた」


 サイラスは、ふてくされながらも、スーザンを心配させないために言い訳した。


「まあ、こんな短時間にお仕事を終わらせられるなんて、さすがですね、サイラス様!」

「……まあな」

「では、今日は家でゆっくりなさいますか?

 あの、それならミハイルとレオナールも呼び戻してみんなでお茶会でも……」


 今度は、追い出されたミハイル達を気遣うスーザン。


「……スーザン、君はミハイルと話をする時は随分、砕けた口調になるな。

 私以上に心を許しているようだ」といまだに拗ねているサイラス。

「口調が違うのは当然ですよ。

 気安い弟のような幼馴染みと大事な旦那様とでは、対応も変わります。

 でも、最も心を許しているのは、家族ですから」と優しく微笑むスーザン。

「つまり、私の方があの弟もどきの幼馴染みより大事にされている上に、奴以上に心も許されているということだね」

「ええ。それはもちろん!」

「スーザン!!」


 感極まったサイラスは、スーザンにさらにぎゅっと抱きついてきた。

 そして、そのまま抱き上げて、スーザンを寝室に連れ込もうとするサイラス。 


「ちょ、ちょっとお待ちをサイラス様!まだ昼間ですけど!?」


 スーザンが必死に止めるが、すっかり機嫌の直ったサイラスは、にこにこしていた。


「そういえば、私には奴と違って、心ばかりか体も許されているのだった。存分に身も心も私にゆだねてくれ、スーザン!」

「よ、夜までお待ちください~!」


 スーザンがそう訴えても聞いてもらえず、そのまま寝室に直行された。 

 おそらく、スーザンが3人目の子を身籠る日も近かった。


 一方、サイラスに追い出されたミハイルは、レオナールと一緒に、ハリーとエミリーのいるムスファ伯爵家に行くことにした。


 道中でさらに仲良くなる二人。


 楽しく会話しながらも、ミハイルはスーザンに関してサイラスには敵わないことを実感し、ちょっと落ち込み気味であった。

 そんなミハイルを慰める優しいレオナール。


「僕も母様が大好きだから、あなたの気持ちもわかるよ。

 父様の存在はかなり邪魔だもん。

 しかも、父様は母様だけでなく、僕の婚約者のリンディにまでべったりするから、本当に腹立つよ!」

「……リンディ?ああ、ハリーとエミリーの娘か。

 レオは従妹と婚約したのか?」

「うん!従妹のリンディが僕の婚約者だよ。

 すっごく可愛いんだよ~」

「もしかして、ハリーというか、スーザンにその子は似ているのか?」

「うん!母様に似ているね。どうしてわかるの?」

「ああ、まあね。……レオは女性の好みまで父親似だな」

「うーん、それハリー伯父様達にも言われたよ。

 父様に似ていると言われるのは、ちょっと嬉しくないな。

 だって、僕は父様のようにしつこくないし、心も狭くないよ」

「はは、そうか!そこはスーザンに似て、レオはクールなのかな。

 それはよかった。まあ、サイラス将軍はちょっと特殊だからな……」


 そう言って、レオナールの頭を撫でるミハイル。

 レオナールと話したおかげで、少し気持ちが落ち着いたミハイルは、レオナールに入れ知恵をした。


「もし君の父親がスーザンを困らせることがあったら、こう言いな」


 サイラスストッパーになる言葉を教えるミハイル。  


「レオナールが大きくなったら、私の国のラタナ王国に遊びにおいで。

 歓迎するよ!

 あと、これからはレオも手紙をくれる?」

「うん!大きくなったら、ラタナ王国に行ってみたい!

 楽しみにしているね。もちろん手紙も書くよ!」


 レオナールとミハイルは、友情のようなものを築き、文通の約束をするのであった。

 ミハイルが帰国する日、スーザンに別れの挨拶をしたミハイルは、またもや帰り際に、不埒な発言をしていった。


「永遠に思われる人の心はいつでも変わるものだから、まだ私にチャンスがあると思っているよ。

 これから、私の君への気持ちが先に変わるか、サイラス将軍の君への気持ちが先に変わるか、わからないけどね。

 後者の場合は、すぐに手紙で知らせてね。

 君の元に飛んできて、君をラタナ王国へ攫って行くから!」と妖艶に微笑むミハイル。

「また~、ミハイルったら。

 そんなことはないから大丈夫よ、心配しないで!」


 スーザンはミハイルの愛の言葉をさらっと流した。


「それよりも、ミハイルもラタナ王国で素敵な伴侶を見つけてね!

 ミハイルったら、相変わらずちょっと意地悪なんだから、好きな子をあえてからかったりして、嫌われないように気をつけてね!!」

「……それは、私の気持ちが変わったらね」


 ミハイルの新たな恋愛を応援する天然スーザンに、寂し気にそう言って去っていくミハイル。

 そのやりとりを全て見ていたサイラスは、聞き捨てならないミハイルの発言に対して、とっても怒っていた。

 ちなみに、サイラスにとって、スーザンの不貞を疑う可能性は全くなく、スーザンに興味や気のある発言する男は、身分に関係なく排除対象となる。

 そんな怒っているサイラスに気づいたスーザンは、サイラスを一生懸命になだめながら、さすがに英雄でも、ラタナ王国の副宰相であるミハイルに何もしないわよねと少々、心配するのであった。


 英雄の奥様は、遠い国の幼馴染の身も心配する!

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