英雄の奥様とお茶会
マリロード王国の英雄と呼ばれる将軍サイラス・アバード
彼の妻、スーザンは、将軍の妻になったことで、知名度が一気に上がり、多くの夜会やお茶会に招かれるようになった。
しかし、男性と接触を持つ可能性のある夜会はサイラス同伴でない限り、サイラスが絶対、許さなかったが、断れないような女性だけのお茶会にのみスーザンの参加を許可していた。
特に、断れないお茶会とは、この国の王妃クリスティーナ・マリロードと、王妹の前アバード公爵夫人であるカーラ・アバードと3人での王宮で開かれるお茶会であった。それぞれ、サイラスにとって王妃クリスティーナは義理の伯母であり、カーラは実母のため、サイラスもなかなか断れず、スーザンは毎回、参加をしなければならなかった。
「まあ!スーザン。よく来てくれたわね!!」
「今日も楽しくすごしましょうね?」
「はい、お招きありがとうございます。王妃様、お義母様」
「今日は隣国からの贈り物のお菓子があるから、一緒に楽しみましょう」
「はい!とても光栄です!!」
いつも和やかに始めるはずのお茶会であったが、今日はちょっと揉めてしまった。
「あら、スーザンの左隣は、今回はわたくしの席よ!」
「いえ、この前、あなたが左隣だったのだから、今度は私よ!」
そう、スーザンの左隣の席に座ると、スーザンの右の利き手ではない方の左手を握ってぷにぷにと楽しめる特典がついている。
以前、サイラスがスーザンの左隣に座り、スーザンの左手をずっと密かにぷにぷにと楽しんでいるのを見てしまった二人が、冗談で面白がってしまい、ついに、自分達もやってみたところ、非常に気に入ってしまった。
「なんですの、これは!?とても癒されるわ~!!」
「本当!!癒されるし、気持ちいいわ~。この弾力と肌触り!サイラスが絶賛するはずね~」と義母のカーラもうっとりする。
姑と嫁の仲は、嫁が望む以上に大変良好であった。
それ以来、お茶会ではずっとスーザンの手は弄ばれるようになった。こういった、スーザンの左隣の席取り争いが起きるほどである。いつもは交互に座っていた二人であるが、王妃があることに気付いた。
「そうだわ!いい考えがあるわ!!」
「まあ、何かしら?」
「……」スーザンには嫌な予感しかしない『いい考え』の気がする。
「それぞれの手をもてばいいのよ」
「あら、でもそれだと、スーザンがお茶も飲めないし、お菓子も食べられないでしょう?」
「それは、私達が飲ませて食べさせてあげればいいのよ!」
「!!」(そんな!!)と心の中で叫ぶスーザン。しかし……。
「あら、それは名案ね!それなら私がお茶を担当するわ」
名案、違いますー!
なんですか、それー!!
心の中で叫ぶスーザンであったが、すぐに二人に両腕を取られたスーザンはお茶会なのにお茶も飲めなければ、お菓子も食べられない状況である。
「じゃあ、私がお菓子ね。ほら、スーザン、あーんして?」
「それとも、お茶の方がいい?」
クリスティーナとカーラの二人は、本当にスーザンへ飲ませて食べさせようとする。その様子に、戸惑うスーザン。
「ほら、お口をあけて。ね?」と王妃からの威圧感半端ない口調に、スーザンはとうとう大人しくひな鳥のように口を開け、お菓子を食べさせられるのであった。
しかも、王妃は食べさせたついでに、指で唇をぷにぷにとして、さらに手以外の弾力も楽しんでいる始末。
勘弁してー!
スーザンは全力で拒否したいが、二人はこの国のトップレベルの地位にある女性で断るのも難しい状況である。
でも、国の重要な仕事をされているこの方々が、これで癒されたり、楽しんだりとお役に立てるのであれば、ある意味、国への貢献?と自分を納得させて、あきらめて好きにさせるスーザンであった。
「ねえ、スーザンにはお姉様もいらっしゃるのよね?お姉様もスーザンみたいなお肌かしら?あとはお母様とかも」と言ってくるクリスティーナ王妃。
やめてー!母や姉にまで被害を広げないで!!
心の中で、叫んでいるスーザンであったが、そこでカーラから助けが入った。
「いえ、この子のお母様もお姉さまも、美肌でしたが、普通の肌触りでしたわ。以前、ご挨拶した時に確認しました」と言ってくるカーラ。
え?いつのまに、お母様達の肌触りを確認したの?
助かったが、そのカーラの発言に驚くスーザン。
「まあ、じゃあ、スーザンのこの肌はムスファ伯爵由来なのかしら?それとも突然変異かしら?」
「そうねえ。ムスファ伯爵は、どちらかというと肌質は悪そうにみえたわ」
おおー、父の肌まで、評価済みとは……。
サイラス様の肌への拘りは、間違いなくカーラ様由来ですね?
話していて、もう驚きすら過ぎ、遠い目になったスーザン。
「ねえ、スーザンの親戚にスーザンのような肌質の方はいないの?やはり、早くサイラスとの子供を作ってこの肌は残さないとね」と獲物を狙う鷹のような目で聞いてくるカーラに、これ以上、親戚も含めて将来の我が子へ無駄に被害が及ばないように気を付けるスーザン。
「……あの。そういえば、もう亡くなったのですが、母方の祖母が私よりもずっときめ細かい綺麗な肌を持っておりました」
「まあ、スーザンのお婆様?」
「はい。私が10歳の時に、祖母から教わって作った化粧水を試す際に肌を比べてみたのですが、色の白さやきめ細かさが私よりも優れていたことを覚えています」
「まあ!それはすごいわ!!10歳の頃のスーザンを超える肌の方がいらしたのね」
「お会いしたかったわ!亡くなられているなんて、とても残念。ところで、その方から教わった化粧水って?」
おお!予想通り、そこに食いついてくださいましたね!
実は、二人へ、その祖母から教わった化粧水のお試し用分まで用意してあるスーザン。
スーザンはこのお茶会が始まってから、どのように肌を保っているかなどを二人に根掘り葉掘り聞かれるので、お茶会前は肌に関する良い話や情報、お試し用のものなどを事前に色々と準備するようになった。
「そういえば、スーザンが教えてくれた、化粧水や保湿クリームの塗り方は本当に良いわ!前までのやり方よりも、スーザンの方法の方がしっとり感が前よりも長持ちするようになったもの」
「まあ、私もよ!!」
「では、その際に使用する化粧水のひとつとして、こちらの祖母より教わりました化粧水を……」
「まあ、わざわざ持ってきてくれたの?」
「やっぱり、そういう特別なものを使っていたのね!」
「これは、肌の乾燥がひどい時に使いますが、普段は先日お伝えいたしました化粧水を使っておりますよ。
まずは、お肌に合うかどうかは個人差がございますので、どうぞ、腕の内側でお試しくださいね」と言ってお試し用の化粧水を取り出し、二人へ試させる。
このお茶会での会話は、多くが美肌講習のような会話であった。
そして、その間も絶えず、空いている手は揉まれるスーザンであった。
そこへ、第一王子のエドワルド殿下がお茶会に顔をだした。
「失礼いたします。私も少しだけご一緒してもよろしいでしょうか?」
そう言って、このお茶会に参加しようとしたエドワルドであったが、クリスティーナとカーラの二人がスーザンの両手を両側からそれぞれ握っているのをみて、驚いた。
「母上、せめて片手だけでも離してあげては?そうしないと、彼女がお茶もお菓子も食べられないではありませんか?」
「あら、それは大丈夫よ。ほら、こうして食べさせてあげているわ!」と言って、スーザンの口にお菓子を入れる王妃。もうお互い慣れたものであった。
「……」(ちょっとかわいい?) とエドワルドは思いつつも、一応、「小さな子供ならともかく、大人の女性にそれはさすがに失礼ですよ!」と王妃を止めてくれる。
左手だけの拘束になり、快適と感じるスーザン。
しばらく4人でお茶をして、忙しいエドワルドは、すぐにまた席を外すことになった。
帰り際にまず、王妃、カーラに挨拶した後、最後にさりげなく、スーザンの手を握り挨拶して退席するエドワルド。ちなみに、スーザンの手を握った上に、さらにその手をぷにぷにと揉んでから離すので、エドワルドも密かにスーザンで癒しを求めているようであった。
スーザンは地味で平凡な女性であるが、一度でもその肌に触れると、ずっと触っていたくなる魅力をもつ魔性の美肌を持っている。
特に、その魔性の美肌の虜になったこの王族女性の二人は、その後も我先にとお茶会ではスーザンの手をそれぞれとるようになってしまい、スーザンは両手拘束状態で、お茶会なのに普通にお茶すらも飲めないようになった。
そして、たまにエドワルドまでそのお茶会に参加することがあり、彼が来ると一時的に二人が大人しくなるのでスーザンとしても助かるが、彼も最終的な目当てはスーザンの手のようである。
そのうち、国王陛下まで参加しにくるかとハラハラするスーザンであった。
……王族って、ストレスが凄いのでしょうね。
私で、そのストレスが少しでも緩和されるのならば、喜んで受け入れないとね。
だから、私のストレスなんてまだまだ序の口……。
そう思って、あきらめてサイラスだけではなく、彼らも受け入れるスーザン。
英雄の奥様は、魔性の美肌で王族の癒し担当の人気者!
でも、このお茶会はつ・ら・いー!!
実はこの話の方が先に書いたものでした。
一応、連載にしていますが、近いうちに完結予定。