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英雄の奥様と英雄2

 マリロード王国の英雄であるサイラスはふと、考えたことがある。


 もしも、自分の人生にスーザンがいなかったら……。


 あのスーザンと出会った日に、スーザンが転んでいなかったら、そのままスーザンのことを意識するどころか、スーザンの存在自体を認識せずにあの日の夜会は終わっていただろうとサイラスは考えた。

 いや、もしスーザンが転んでいたとしても、見つけたのがサイラスではなく、別の誰かであったのならば、サイラスがスーザンの肌に触れることがないので、やはりスーザンに気づくことなく終わっただろうとも考えた。


 そして、このマリロード王国の英雄には自分は決してならなかっただろう。


 もちろん、サイラスは将軍と言う立場の元、優秀な副官とともに戦い、最終的には北の蛮族は殲滅できたとしても、ここまで犠牲も少なく終わらせることができただろうか?

 たとえ、他の女性と結婚して、その女性との間にできた自分の子供を、宝物ように愛しているタチアナやレオナールのように愛することができただろうか?


 スーザンのいない世界を、自分はもはや受け入れられないことに気づいた。

 サイラスにとって、スーザンは、今のサイラスを作り上げた源そのものであった。


 ああ、あの時の自分とスーザンとの出会いは、このマリロード王国の行方をも左右する運命だったのだ!


 だから、サイラスは運命と思われた相手を追いかける人の気持ちがよくわかり、このアードナ王国からお忍び(密入国)でこの国にきた国王アンセルムの想い人を追う気持ちを、このマリロード王国の誰よりもわかってあげていた。

 そのせいか、この王にサイラスは嫌悪も感じず、地位があっても、ただ愛しい人間が手に入らない辛さには、とても同情していた。そして、何だかこじらせまくっている恋心のために、新婚早々、密入国をしてまでマリロード王国に来るとはと彼に感心した。


 ただ、この王がスーザンの姉夫婦の幸せを壊す存在であり、もしもこの王の希望通りになるのならば、スーザンまでも悲しませる結果になることは確かであったため、それを防ぐためにもサイラスが動いていた。しかも、アードナ王国の王アンセルムという高位身分であることもあり、サイラスがしかたなく、王宮の高位貴族用の取調室で事情聴取を自ら行っていた。


「それで、こちらまでお一人でいらしたのですか?アンセルム殿下」とサイラスが確認すると、むっとした表情で答えるアンセルム。


「おい!英雄だが、将軍だがしらないが、私がアードナ国王と知りながら、この扱いか?」


「そうですね。アードナ国王だから私が呼ばれました。お忍びで来ずに、正式に訪問してくださいな。不審者と思われてしまっていますよ」とため息をつくサイラス。


「ふん。そういえば、サイラス将軍殿はハリーの義弟になったそうだな?あのハリーと結婚した女の妹と結婚したのだったな?」


「ええ、まあ」


「……その、サイラス将軍の奥方は姉に似ているのか?」


「え?妻がエミリー義姉上に似ているかということですか?いいえ、全然似ておりませんよ」


「あと、ハリーの従妹でもあったな。ハリーに似ているか?」


「……いいえ。似ていませんが、何なのですか!?今度は私の妻を狙う気ですか?」と苛立ち始めるサイラス。


 サイラスのスーザン危機察知センサーが鳴り始めた。

 サイラスのセンサーは、絶対、この男とスーザンを会わせてはいけないと告げていた。


「いや、まさか!君の奥方への溺愛ぶりは知っているよ。彼女を狙って、アードナ王国を滅ぼされたら困るからね。だけど……」


「だけど?」


「だけど、君達の娘やハリーの娘が気になって、居ても立っても居られなくて、ここまで来てしまった……」


「は?娘?」


「ああ。将来、私の子供に嫁いできてもらおうと思っているが、すぐに婚約者ができてしまうだろうから、一刻も早く我が国と婚約の約束をしないといけないと思って。この国の隣国であるツェルード王国に新婚旅行を兼ねた外交の途中であったが、シャーロ王子との婚約も断った聞き、それなら我が国が先約しようと思い、急ぎ訪れたのだ」


 さらに「君の娘やハリーの娘に会わせろ!ついでに君の奥方も」とぬけぬけと言ってくるアンセルムに、サイラスはさっきまでのアンセルムへの同情心などは消え失せた。


 何だ、この愚かな男は!

 国力を使って、私の大事な家族に手をだそうというのか!?

 タチアナばかりかリンディにまで。しかも、スーザンに会うことを『ついでに』だと!?


 ……こんな男が賢王と呼ばれているなんて何かの間違いだな。きっとアードナ国にとっても害なんじゃないだろうか。

 よしっ、消そう!

 ハリー義兄上にも頼まれていたしね


 そう思ったサイラスは本気の怒気と殺意を放ち、確実にアンセルムを仕留める方法を考えた。その覇気にサイラスの周りにいた護衛騎士達のうち、ベテランの者以外は腰を抜かす程であった。


 アンセルムもサイラスの様子に気づき、(あれ?もしかしなくても命の危機?)と感じ始め、顔を青褪めさせた時であった。


「サイラス将軍!奥様が執務室の方へお昼を届けに参られました!」と空気を読まなかった連絡係がサイラスのいる取調室にやってきた。もしスーザンが訪れたら、優先的に報告するように指示を出していたサイラスが悪いが、その報告で周囲の者達に戦慄が走り、アンセルムは思わず立ち上がり、サイラスは……


 サイラスは、アンセルムの首に目にも止まらない速さで手刀を入れて気絶させた。


 次に、倒れたアンセルムの息の根を確実に止めようとしたが、ベテランのサイラスの護衛騎士が3人がかりでサイラスがアンセルムを殺そうとするのを防いだ。


「将軍!さすがにこの方は駄目です!!」

「そうですよ!国際問題になります!」

「お気持ちはわかりますが、お止めください!」


「ちっ」と舌打ちをしたサイラスは、意識を失ったアンセルムをつま先で小突いた。


「こいつは隣のツェルード王国にでも捨ててこい。おそらく捜索が隣国でされているだろうから。

 あと、こいつがマリロード王国へ二度と入国できないように国王に交渉するぞ!」

 と言い放ち、執務室に戻るサイラスであった。


 執務室に戻ったサイラスは「あ、サイラス様!お仕事は大丈夫ですか?」と優しく微笑むスーザンにお出迎えされて、「……ああ、ちょうど切りがよかったのでな」と言って、スーザンに癒されながら一緒にスーザンと昼食を取ることで、ご機嫌になったサイラス。


 今日は、タチアナ達は王族・貴族の子供達が集まる会に参加しているため、スーザンだけがサイラスに昼食を届けにきていて、久しぶりに二人きりであった。


 二人きりの昼食もいいものだなぁと幸せを感じていたサイラスであったが、ふと、もしスーザンがサイラスよりも先にあのアードナ国王に会っていたのならば、ハリーにそっくりな上に、ハリー以上の魅惑肌であるスーザンにあの王は夢中になっていたのではないかと気づいた。

 そして、ついサイラスはスーザンがアードナ国の王妃になる姿を想像してしまい、とんでもなく胸が苦しくなったサイラスは、スーザンに聞いてみた。


「……なあ、スーザンは王妃になれる機会があったら、なりたかった?」


「え?突然どうされました?

 そんな王妃なんてとんでもないです!そもそも、サイラス様の妻になることにもかなり抵抗がありましたよ」


「……そういえば、初めてのプロポーズの時は否定的だったね」


「サイラス様こそ、他国の王女や公爵令嬢とご結婚できる身分、能力、実績をお持ちでしたのに……」


「私にはスーザン以外の女性を妻にする選択肢はなかったよ。私に迷いはない!」


「そうですか……。今の私なら同じ言葉を返せますわ!」と言って、スーザンはまれにみせる心からの笑みをサイラスに向けた。


 そんなスーザンの笑みに、サイラスの胸の苦しみは嘘のように消えて、思わず「スーザン!!」とサイラスはがっしりスーザンを抱きしめ、「たとえ、どんな大国の王が君にプロポーズをしようと、私は君を絶対、渡さない!」と言い切った。


「スーザンにとっても私が一番だよね?」と更にスーザンを強く抱きしめながら、スリスリと頬をすりつけて、スーザンに甘えるような仕草をするサイラス。


 まあ、サイラス様ったら、何かあったのかしら?

 でも、今日のサイラス様は何だか可愛くみえるわ!

 英雄になるほど凄い人なのに、たまに私の前では可愛いのよね~。


 そう思い、サイラスの様子を微笑ましく思うスーザン。


 英雄の奥様は時々、英雄の愛情表現に胸がきゅんっとする!


 その後、サイラスは本当に国王の承諾を得て、アンセルムがマリロード王国に入国できないようにするのであった。

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