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英雄の奥様と息子2

 マリロード王国の英雄の息子レオナール・アバートは、最近、暇さえあれば、ムスファ伯爵家によく入り浸るようになった。


 従妹のリンディが生まれてから、レオナールは魅惑肌のリンディのことがとても気に入ってしまい、会いたくて、会いたくて、しょうがなくなっていた。


「リンディ、かわいいな~。触っても母様達みたいに気持ちいいし、すごくかわいいな~。妹ってこんな感じなのかな?

 ……前に会ったエルーダ侯爵家の姉妹は、やたら『私の方が可愛いからレオ君のお嫁さんに!』って二人で喧嘩ばかりしていて、特に妹の方が泣きわめいてうるさくて、こんな可愛くもなかったのにな~」と言ってリンディのちっちゃい手をつつくレオナール。

 リンディもレオナールの顔を覚えたようで、レオナールが来ると嬉しそうに手足を動かし、「あー!うー!」と反応し、笑顔になるようになってきた。


「もしかして、将来はリンディをお嫁にもらいたいと思っている?」とにやにやしながら聞いてくるリンディの母親エミリー(スーザンの姉)。


「そっか!!リンディとなら、従妹だから法律を変えなくても結婚できるね!

 しかも、あのやっかいな父様にも邪魔されないしね。

 タチアナ姉様と結婚できなかったら、リンディと結婚する!

 だって、僕、母様やタチアナ姉様以外では、リンディが一番好きな女の子だもん!!」


「まあ、リンディを気にいってくれたのね!

 そうね。タチアナは姉弟だから、結婚はやめておきなさい。

 それにたぶん、王妃様あたりがタチアナを王族と結婚させようと考えているかも。そうするとサイラス様の邪魔よりやっかいよ。

 だから、リンディがムスファ伯爵領を継ぐことがなければ、お嫁にあげてもいいわよ!!」と快く答えるエミリー。


 それに対するリンディの父親ハリーは……。


「へえ、レオ。

 今のところ、君は私の娘と一番に結婚するつもりではなく、タチアナが優先なのかな?

 私としてはリンディを本当に一番好きな男にしか、お嫁にあげるつもりはないよ」と暗黒の微笑みで答えるハリー。


「え?うーん。本当は、僕の1番は母様だけど……」とつい正直に答えるレオナール。


「……そうか。しっかりしているからつい忘れていたが、レオはまだ幼児だったな。

 そりゃあ、まだ母親が一番だね。

 ごめん。私も大人気なかった。

 でも、正直、リンディが大きくなって自分で意思表示できるようになるまでは正式に婚約もさせるわけにいかないからね」と言って、抱っこをねだるレオナールを抱っこしてあげて、冷静に答えるハリー。ここがサイラスとは大違い。


 でも、普通に考えてアバート公爵を継ぐと思われるレオナールは将来有望ということで、既に王子並みに競争率も高く、レオナールと縁を結ぶことは、ムスファ伯爵家にとっては非常に有利な縁談であった。そのため、両家でリンディが生まれてから密かに縁談の話し合いが進められていた。


 ある日、ハイハイが上手になってきたリンディを前に、レオナールはハリーに勝負を挑まれた。


「いいかい。リンディが今の時点で父親の私か、レオか、どちらを選ぶかの勝負だ。

 部屋の真ん中にリンディを置いて、私とレオはそれぞれ部屋の反対側の端っこで待機してリンディへ呼びかける。もう上手にハイハイするリンディがどちらに向かうかで勝敗を決めるよ。

 もし、これでリンディがレオの元に向かったらレオとリンディの仮婚約を認めてあげよう。でも、もし私の元にリンディが来たら、この話は延長で、次は歩けるようになったリンディで勝負するまで婚約はお預けね」


 そう言って、ハリーとレオナールは部屋の反対側の端と端に分かれた。


「うん。わかった!リンディが僕のところに来てくれたら、結婚してもいいってことだね。リンディは僕のこと大好きだから、僕の方に来ると思うよ。ほら!リンディ、こっちにおいで!!」と言ってレオナールは素敵な笑顔で両手を広げて待ち構える。


 ハリーも負けじと「こっちだよ、リンディ!!父様のところにおーいで!!いつものように!」とリンディに呼びかける。


 エミリーに抱えられたリンディは二人の呼びかけに対して、キョロキョロと二人を見比べていた。

 エミリーがリンディを部屋の真ん中へ床におろしてあげて、おさえていた手を離すと、待っていましたとばかりにリンディは動き出す。

 しかも、高速ハイハイするリンディ。

 父親のハリーには目もくれず、リンディはレオナールの元へ一直線に向かった。


 ハイハイ勝負はレオナールの圧勝であった。


 この勝負はハリーの主張で3回行われたが、3回とも負けてくやしがるハリーをよそに、さっさと、仮婚約が決められたのであった。


 もちろん、最後の抵抗とばかりに、ハリーは仮婚約にあたり、多くの条件を提示してきた。

「リンディが自分の意思表示ができるようになって、君と婚約破棄したいと言ってきたら無条件ですること。結婚するまで一切、リンディに口づけなども含めて手をださないこと。もし君が他の女の子が良くなっても、リンディがまだ婚約破棄したくないと言ったら、リンディの意見を尊重すること。どんなことがあってもリンディの名誉を傷つけないこと。ちなみに、リンディ以外の子と浮気をしたら私の制裁を大人しく受けること。それから……」と延々とエミリーが止めるまでそれを続けるハリー。


「うん、わかった!要は父様が母様を大事にするように愛せばいいってことだね?」とリンディと結婚する約束ができて嬉しいレオナールは満面の笑顔で言い放った。


 それを聞いて、一瞬、シーンと静まりかえるムスファ伯爵家一同。


「うっ、そこまでは求めてないから。普通に大切にしてくれ」とあのサイラスのスーザン溺愛っぷりを思い出し、青褪めるハリー。


「え?」と首を傾けて、サイラスのスーザン溺愛さがひどいとわかっていない無邪気なレオナール。


「くっ、あのサイラス将軍の奥様溺愛っぷりが普通じゃないってレオにどうやって説明しよう……」と頭を抱えて悩むハリー。


「そうね。リンディも溺愛されて、スーザンのような苦労をかけてしまうかしら?

 ちょっと心配。

 でも、あれだけ愛されれば女冥利に尽きるわ!もう、あなたも開き直りなさいな、ハリー」とエミリーは心配もするが、さっさと開き直る。


 こうしてレオナールとリンディは無事に仮婚約をした。

 おかげで一つスーザンの心配事が減った。実は姉弟で本当に法律を変えて結婚してしまうのではと心配していたが、それがなくなり、ほっとしたスーザンであった。

 サイラスも、レオナールの高スペックを見抜いていたため、このままでは本気でタチアナが奪われると真剣に悩んでいたので、非常にこの婚約を喜んだ。

 もちろん、タチアナも「リンディは可愛いし、レオナールいいなー!おめでとう!!」と軽い調子で了承し、祝福した。


 英雄の奥様は、たまに心配事が減ることもある!


 レオナールとリンディとの仮婚約の報告を聞いて、「義理孫も魅惑肌―!!」と歓喜するカーラはもちろん、エドワルド王子などの他の両家関係者達もとても喜んだ。約1名を除いて……。


「くっ、私に男の孫がいれば、そのリンディも孫の嫁にしたのに!!タチアナがまだいるけど、とりあえず早く、ナリスが男の孫を生んでくれないかしら~」と嘆く王妃クリスティーナであった。

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