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往く河の流れは  作者: 数日~数ヶ月寝太郎
一章 案ずるより絡むが易し
9/110

6

 この世界の美的感覚、平たく言えばモテるルックスの話をしよう。

 一歩街の外に出れば賊や魔物、肉食獣などが闊歩している。街の中でもゴロツキ、盗人、危険は掃いて捨てるほど転がっている。

 そんな社会で求められるのはそう、筋肉。胸板は厚ければ厚いほど抱きしめられると熱を持ち、包み込むように肩に感じる力瘤にたとえ圧殺されようと、それは乙女の本望。

 僕みたいなヒョロヒョロ坊主は まっ たく 簡 単 に 袖にされる。

 顔も強面にギリギリ届かないぐらいが頼り甲斐がありそうで、素敵!!睨まれたわ!違うわ、あたしを睨んだのよ!ああ~ん!!となるらしい。

 僕みたいな大人しそうな顔立ちは特殊な性癖のお兄さんが熱い視線を送ってくるぐらいだ。

 ま、これはあくまでも一般的な恋愛感情をもたれやすい男性、という話だ。そしてガルさんはその一般的な感性では色男の部類に入るだろう。

 そんな彼がこんな僕に引きずられるような形でアリーシャさんの目に入ればどうなるか。


「お帰りなさい、シュウ君。お部屋に案内するわね。そこにコートハンガーがあるからその飲んだくれは吊るしといてくれればいいわ」


 こういう反応になるわけです。 

 姐さん、ご希望ならこの男、亀甲にふん縛って天井から吊るしましょうかウヒヒ、等の軽口も許されない冷たい視線に、決死のフォローを試みる。


「いえ、昼間散々お世話になったのにそういう訳には……そこの待合用のソファ、大丈夫ですか?」


「他のお客様の目に入る場所だから……仕方ないわね。従業員用の休憩室まで蹴り転がしてきてもらえる?」


 おお……言葉のトゲが捩れてドリルになってらっしゃる……


「こんな飲んで……まさか、支払いもできてないんじゃないでしょうね?!!」


「あ、いえ。入店時に先払いで結構な額を渡してたみたいで、ポケットに手も入れさせてもらえませんでした」


 それは、嘘……でも、優しい、嘘。


「先払いって……飲む気満々だったわけね、鼻からアルコール流し込んでやろうかしら」


 ぼく、あきらめない。このひとをすくってみせる。


「それも御免なさい。アリーシャさんとのお話を凄く楽しそうにされていましたので、僕もなんだか楽しくなってついつい勧めすぎてしまいました」


 あら、顔が赤いわ、この娘。どうしたのかしら。視線もなんだか優しくなってるわ。


「そ、そう……まったく……」


 カウンターにあった毛布を手にとって先に歩き始めたアリーシャさんについて行く。

 ふはは、勝った!僕には一文の得にもならない戦いに!

 ガルさんをソファに寝かせた後、部屋に案内してもらう。華美では無いけど落ち着いた内装に心が安らぐ。


「良い部屋ですね。ガルさんに頼んで本当に良かった」


 ダメ押しに彼氏を持ち上げておく。


「あ、すいません。風呂をお借りしようと思うのですが、手拭の類を持ってなくて……何枚か売っていただく事はできますか?」


「それぐらいはサービスするわ。あの人が迷惑かけたし。三、四枚くらいで良いかしら?」


「助かります」


「ついでに案内するわね。ついてきて」


 一階に戻って奥へと案内される。ここよ、と開けられた扉の向こうには廊下と五つのドアがあった。


「使用中のお風呂にはドアノブに札がかかってるからね。内側から鍵がかけられるようになってるけど、シュウ君も使うときは札をかけておいてね」


 札がかかってないドアを開けながらアリーシャさんが説明する。

 大浴場を想像してたけど、ドアの向こうには脱衣場に続いて三、四人が浸かれるくらいの浴槽があった。


「札は私がかけておくわね、じゃ、ごゆっくり」


 閉まったドアに鍵をかけ、服を脱いでかけ湯をしてから湯に浸かる。


(湯の張替えは一日一回だったな……滞在中は一番風呂に入ろう)


 そう心に誓うと、それ以外は湯に溶けていった。




 昨夜、投げ出した体をやんわりと受け止めてくれたベッドは、目が覚めてからも暫くは僕の体を離してはくれなかった。

 淀んだ意識が時間をかけて澄んでいくのを待ってから体を起こす。

 一階に下りてカウンターで従業員に水場を尋ね、洗い場になっている井戸を教えてもらって手拭を肩にかけて向かう。宿泊客かその従者なのか、洗濯をしている人におはようございますと声をかけ、朝日を浴びながら身嗜みを整える。

 帰りにカウンターで朝食の籠を受け取り、ついでに煮沸処理された水を竹筒に補充してもらった。


(食堂は無いみたいだし、部屋の質と風呂で金取ってるんだな、ここ。後で宿の相場調べとこう。……このサンドイッチ旨いなぁ)


 ベッドを軽く整えてから昨日の服を着て街へと出かける。

 下りたところでアリーシャさんとご両親に挨拶をし、今日の予定を雑談のタネにすると街の地理を教えてもらった。


「いってらっしゃい、シュウ君。危ないところに近づいちゃダメよー」


「はい、いってきます」


 まずはギルド、かな。

 東西と南北に走る大通りの十字路を越えると、少し南に庁舎が見える。領主代理、貴族、騎士団、支配階級が集う場所。その隣にイメージより小さい冒険者ギルドがあった。扉を開け、中に入ると教会の懺悔室みたいな小部屋が横一列に並んでいた。


(カウンターじゃないんだな。これなら周囲を気にせず話ができる)


 扉が開いている一室に入る。受付との間のカウンターの上には仕切り板があり、下の方しか開いていない。受付の胸辺りまでしか見えなかった。


(この設備……こりゃ相当やらかした馬鹿がいるな)


「用件は?」


 極めて事務的かつ険のある雰囲気で、言葉が仕切りの向こうから飛んでくる。


「お手数かけますが、登録をお願いします」


 向こうがどうだろうとこちらはあくまで丁寧に答える。初対面どころか顔すら見えない相手にイラつく必要などどこにも無い。


「では、石板に手を置いてこちらの質問に答えるように」


「はい」


 仕切りの向こうにもう一人、気配が近寄ってきた。不正がないように監視役かな?

 例の嘘発見器に手を置く。白くなったのを確認して質問が始まった。


「名前は」


「シュウと申します」


「年齢は」


「十四になります」


 こちらが丁寧に答える度に相手から険が取れていったが、年齢を答えると一気に柔らかくなった。


「武器は何を使いますか?」


「主に剣を使います。あと、魔法が少し」


「出身はこの街、もしくは近隣の村落ですか?」


 やっぱり聞かれるよな。


「いえ、違います」


 間が空いて、監視役と思しき気配が離れる。


「……犯罪歴はありますか?」


「ありません」


 白いままの石板を見たのだろう、向こうからほっとした声がかかる


「では審査と登録をしますので昼頃まで時間をいただきます」


「はい、宜しくお願いします」


 んじゃ買い物でもして時間潰すか、と出て行こうと後ろを向いたときに声がかかる。


「シュウさん、年齢と出身地に関して責任者が話をしたいそうです」


 うぇぇ……面倒臭い話の予感。断るって言う選択肢は無いんだろうな……


「わかりました」


「では階段を上がって二番と書かれた部屋にどうぞ」


 受付部屋を出て溜息をつきながら二階へと上る。

 一番の部屋の前には武装したお兄さんが二人立っていた。部屋の中から怒号が聞こえる。

 お兄さんはこっちを見てにやりと笑った。特殊な性癖持ってないよね?!

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