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往く河の流れは  作者: 数日~数ヶ月寝太郎
一章 案ずるより絡むが易し
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4

 隣の部屋からのガヤガヤとした話声で目が覚めた。

 確認に出た二人が戻ってきたのだろう、表の荷台に、とかグロでした、とかの言葉が聞こえる。

 腹が激しく鳴る。昨日は飯抜きで夜通し歩き、今日も食べ物らしい食べ物を腹に入れてない。


(賞金出るって言ってたな……街中に入ったら腹いっぱい食う!食ってやる!)


 そう決めて寝崩れた服を整え、隣へ続くドアを開けた。

 そこには門番さんと現場に向かった二人に加え、到着した時に防壁の上に見えた人と四十歳くらいの貫禄のあるおじさんが座っていた。

 こっちを見た門番さんが口を開く。


「よく眠れたか?手柄の確認取れたぜ。それにしてもシュウ、お前凄腕だったんだな!」


 いい笑顔で声をかけてきた。


「いえいえ、まだまだ未熟者です」


 と返すと今度は違うほうから声がかかる。低くて良く通る声だった。


「初めまして。アレストの街へようこそ。私はこの街の市中警備隊の隊長でモーリスだ」


 アレスト……という事は連合国家の北方中央辺り、追っ手の心配は殆ど無いな。


「シュウと申します。宜しくお見知りおきをお願いいたします。モーリス様」


「敬称はつけなくていい。さほど偉くも無いからな。この書類にサインしたら賞金が届くまで少しここで過ごしてくれ」


 はいと、書類に向かうモーリスさんに答える。


「そういや名前教えてなかったな。俺はガル、そっちに突っ立ってんのはレスターだ」


 門番さんが名乗り、防壁の上にいた人を紹介してくれた。


「いやー、最初見た時は女の子かと思ったよ。異国の服とか見慣れてなかったし、それ、スカートかと思っちゃった」


 とレスターさんが僕の下半身を指差す。

 あー、見慣れてないとそう見えるか。それに加えて僕細身だしね。


「あはは、着物に袴はこちらでは珍しいんですか?」


 もし他にもいたら最低限の補給だけしてすぐに離れよう。念の為だ。


「うむ、珍しいどころではないな。カムロの装束や武器などはこの街の住人には初めてだろう」


 書き終えた書類を二人の兵士に渡しながらモーリスさんが答える。

 受け取った二人は部屋を出て行き、荷台を引く馬の蹄の音が遠ざかっていった。


「預かった荷物を返そう、盗品があると聞いたが?」


「こちらです」


 鞄の中を探り、装飾品の入った袋と一緒に金の入った袋も取り出す。


「それとこっちは賊の所持金です」


「それは君の物だ。装飾品と違って元の持ち主を判別できない。装飾品も持ち主や遺族に戻るかは怪しいもんだがな」


「そうなんですか?」


 と尋ねる僕に苦りきった顔で答える。


「口が滑りすぎたな……一応こちらで報告を上に挙げて保管、調査はするんだが、保管場所にネズミが出るみたいでな。知らぬ間に消えている」


 組織ならどこにでも居るよね、そういう人。被害者は殆どが殺されてるんだから、ちょろまかしてもバレる恐れは無い。この話を続けても良い事はないなと判断して流れを変える。


「では遠慮なくいただきます。あと、着替えさせてもらって良いですか?血塗れの格好で住民の皆さんを驚かせたく無いので……」


「ああ、そうしてくれると助かる。寝ていた部屋を使うといい」


 一旦席を外すから雰囲気良くしといてね。

 部屋を移り鞄の中身を出していく。鉈や矢、百足の残骸は床に、それ以外はベッドの上に広げて確認していく。

 守り刀の小箱を開けると見覚えの無い手紙が入っていた。




 やぁ、無事に街に着いたみたいだね。まずはおめでとう。

 君の師匠も喜んでたよ、「剣の方の童貞は無事に切れたみたいだな」だってさ。

 君が私達と一緒に過ごした時間で魂も変化しているようだ。

 前世と比べて物の感じ方が違うことに思い悩む必要は無いからね。

 それと刀と鉢金には藤守の御夫妻からの贈り物をつけておいたよ。

 君の弔いに大変な感謝をされて、何かを贈りたいって。 

 刀には障害を斬り開き、汚れや穢れを掃う力を。

 鉢金には害意を弾き、身を守る力を。

 二品とも劣化には無縁だから大事に長く使ってあげてね。

 それじゃ。




 あの時矢を防いだのはこの鉢金だったか……

 守り刀に手を合わせありがとうございます、と呟く。

 読み終えた手紙を箱に収め、服を着替える。脱いだ服を畳みながら目立たない服も買わなきゃいけないよな、と考えた。荷物を纏めて部屋を出る。


「すいません、汚れた服で寝たものでベッドも汚れてしまいました」


 ガルさんが笑う。


「気にするこたねーよ、ウチにお綺麗な野郎なんていねえんだから。それよりよ」


「はい?」


「良ければ武器見せてくれないか?あんだけスッパリ斬れるんなら相当なモンなんだろ?」


 手紙には劣化はないと書いてあったし、多少呼気がかかった程度ではなんとも無いだろう。すでに二人と一匹切ってるしな。


「構いませんが、刃には触らないでくださいね?」


「そんなに鋭いのか?」


 と、モーリスさんも興味津々という風に聞いてくる。

 本当は手の脂を嫌うためだが、危ないからと言うのも間違いではない。


「見てもらったほうが早いですね」


 と、大道芸の前口上を思い出しながら腰から鞘ごと刀を外し、刃を上にして鯉口を斬る。ゆっくりと引き出すように刀身を抜くと、髪の毛を二、三本引き抜き刃に当てる。フッと息を当てると切れた髪の毛がはらりと落ちた。


「凄まじいな……」


「俺の使ってる剃刀より斬れるんじゃねぇか?これ……」


「僕、見るだけでいいです」


 モーリスさん、ガルさん、レスターさんの順に感想を貰いながら鞘に収めると、モーリスさんへと手渡す。

 扱い方を教えながら武器談義に花が咲く。日常的に武装している為か扱い方にもすぐに慣れたみたいだ。

 一通り触って満足したのかこちらへ刀を返してくる。


「これは、ダフトが見れば狂喜乱舞するだろうな」


 とモーリスさんが笑いながら刀から手を離す。


「ダフトさん?」


「刃物大好きな爺様だ。日がな一日うっとりしながら刃物撫でてるぜ」


 笑ってないで、しょっ引いてください。完全にヤバイ人じゃないですか。


「ガル、それはあんまりな言い草だよ。ダフトさんが君にきついのは武器の手入れせずに丸投げするからだろ?」


「ウチの部隊の装備を取り扱ってる鍛冶屋でな、腕は確かな爺さんだ。装備で困ったら相談してみるといい」


 それは良いことを聞いた。避けて歩こう、絶対に。

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