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往く河の流れは  作者: 数日~数ヶ月寝太郎
一章 案ずるより絡むが易し
6/110

3

 夜明けに警備兵詰め所で割り当てられた職務を確認したガルは、北門へとまだ動きが鈍い足を向ける。

 早朝から働く人々と挨拶を交わしながら街に異常がないかと視線を巡らせ歩く。


(ま、そうそう異変があっても困る。いつかみたいに朝から死体発見とか勘弁してほしいしな)


 門で引継ぎを終え、一緒に警備するもう一人が朝日と競争するように防壁上に上るのを見ながら所定の位置につき、彼の一日が始まった。

 引継ぎ事項には御貴族様や商隊の先触れなどは無かったし、今日ものどかに過ごせそうだな、と欠伸をする。


「お、人影だー。背格好からみて……女かな?やけに身軽な格好だなー」


 上から声が落ちてくる。


「女ぁ?連れはいないのか?」


「連れどころか……野歩きにスカートって何考えてるんだろ?」


「俺が知るかよ」


 よく野盗や魔物に襲われなかったもんだ、と頭の中で感心と呆れがごちゃ混ぜになる。


(もしくは腕利きの冒険者か?数年前にギルドができてから女だてらに剣を握る奴も増えたしな……あいつら鼻っ柱も腕っ節も強いから苦手なんだよな……)


「あー、短剣と腰に細身の剣ぶら下げてるよ……」


 上で見張ってるヤツも似たような事考えてたんだろう、投げやりな報告が降ってくる。

 朝から気の強いネーちゃんの対応かよ……とのどかな一日を諦め、ダレてんじゃねーよ!の一言を回避する為に背筋を伸ばして顔を引き締めた。




 門の辺りに目線を据えて近付いて行く僕は、疲労感が安堵感に変わっていくのを感じていた。

 ここまできたら刃物はトラブルの元にしかならないだろうと思い、右手に持った鉈を鞄にしまう。


(あれ、門番さん、なんかしかめっ面してない?抜き身の刃物はしまったし……なんで?)


 前世で散々威圧、威嚇された時の記憶が脳裏に蘇る。

 その記憶に引きずられるように表情が消え、能面のような顔になって行く。


『見てたんだろ?俺のやり方!』

『頑張って楽しんでくるんだよ』


 二人の声が聞こえた気がして立ち止まる。一度俯いた顔を上げた時には表情が戻っていた。

 門番さんを『眼』で見てみるが嫌な感じはしない。悪い人じゃないと心で念じながら笑顔を作り


「おはようございます。お勤めご苦労様です」


 そう挨拶したら、しかめっ面が呆気にとられ次いで笑顔になった。

 その変化に心底ほっとする。先ほど作った笑顔が本物になる。


「おう、おはよう。えーっと……兄ちゃん、で良いのか?」


「あ、はい。シュウと申します。齢は十四になります」


「まだ坊主じゃねぇか!一人でどうしたんだ?格好を見るに異国の人間みたいだが……」


「えーっと、国から世の中に出されまして、旅の途中です」


「腰の物を見るに武者修行か?それにしては荷物が少ないが?」


「ここから街道を歩いて川から逸れる辺りで野盗に襲われまして」


 撃退したところ魔法の鞄を持っていたのでそれを一時借りる事にしました、と言いかけたところで向こうが慌てだす。


「その服、赤黒いのは血か?!怪我してるんじゃねぇか?こっち来い!」


 門の脇、デカいガレージくらいの大きさの守衛室のようなところに引っ張り込まれる。

 上着を脱ぐように言われ、怪我らしい怪我が無いのを確認した門番さんが詳しい事情を尋ね始める。


「まずはこれに手を置いてから経緯を話してくれ」


 黒い石板に手を置くように促され、言葉に従い手を置くと色が白に変わった。


(あー、状況から鑑みるに嘘発見器ってところか……嘘は吐かないようにしないと)


 両親に武器と少ない荷物で送り出され、旅の途中で道を見失って彷徨い、川を見つけたので流れに沿って人里を探していた事。

 森を抜ける直前で四人に襲われ、返り討ちにしたところ相手の持ち物に鞄を見つけ、拝借した事。

 その場に死体を埋め、仲間が居るかもしれないので夜通し歩いてようやくここに辿り着いた事。


 石板の色は変わらなかったので、嘘をつくと元の色へと変化していくのだろう。


「そうか……大変だったな。すぐに宿で休みたいところだろうが、確認が取れるまでここに居て貰わなきゃならん。すまんな。馬を出すから日没までには確認が取れるだろう。奥に仮眠室があるからそこで横になっているといい」


「ありがとうございます。埋めた場所は盛り土をして剣を二本挿しておきましたので、見れば判ると思います」


 と話をしているとドアが開いて二人の兵士が紙を持ってきた。

 門番さんが声をかける。


「おう、死体が四つ。街道が川から逸れる辺りの少し奥に盛り土に剣が二本刺さってるとよ」


「では、馬に荷台を引かせていきます」


 やり取りしながらこちらに紙を手渡す。似顔絵つきの手配書の束だ。


「四人の中に似顔絵の顔、誰かいたか?」


「この人とこの人ですね」


 全部確認してそのうち二枚を差し出す。


「旅人喰らいのゴダール……また戻ってきてたのか。んじゃ確認頼むわ」


 了の返事とともに二人は出て行く。


「名の通った賊だったんですか?」


「やり口がな。特定の塒を持たずに街道沿いを移動しながら少人数で旅人を狙う。人狩り専門のパーティみたいなもんだ。ターゲットも馬車引いた商人じゃなく、一人二人の旅人の懐の金だから襲われたって情報そのものがなかなか挙がってこねぇ。死体だけなら森にでも放り投げちまえば獣が処理してくれるしな」


「うわぁ……」


「確認が取れたらお手柄だ、シュウ。賞金も出る。持ち物の中に金以外の盗品あったか?」


「装飾品が少々ありましたね」


 そういって鞄を開くが止められた


「確認が取れてからで良い。申し訳ないがそれまで持ち物は預からせてくれ。石板が反応しなかったから信じちゃいるが、これも決まりだ」


「いえ、お役目だと理解してます」


「すまねぇな。んじゃ奥で寝るといい。ここには一人置いておくから何かあったら声かけてくれ」


「では、部屋をお借りします」


 奥へのドアを開け目に入ったベッドに横たわり、ようやく気を張らずに休める、と思うとすぐに夢の中へと意識が飛んでいた。

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