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往く河の流れは  作者: 数日~数ヶ月寝太郎
二章 無念収めた匣の蓋
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20

 アレストの南門が見えてきた。

 背後のずっと先には首都があるのかといえば違う。真直ぐに伸びている道など無いからだ。曲がりながら、方向を変えながら僕達は進む。じゃあ何があるのかと聞かれれば、位置的には建設中の新首都だろう。振り向いた先に未知の場所がある事も珍しくは無い。

 荷物も増えていた。行きには思いもしない荷物だ。鞄の中には約束を交わした彼の骨と、託された重い袋がある。

 立ち止まって首を巡らし、以前の場所を探す途中で新しい場所を見つける。鞄を探って思い出の品と一緒に、やるべき事が手に当たる。


「上手くできてるんだな、物事って」


 ゆったりとした旅程だったので、離れていたのは一月程だとはいえ、懐かしい防壁と門を見ながら呟いた。入出門で最敬礼を受けながら街に入る。


「やはり、ほっとしますな。我が家というのは」


「馴染んだ空気というものは、思う以上に強い力のあるものなんでしょうね」


 月明館を思い出して、心が急く。しかしまずはギルドだ。そこで報酬を貰って御役御免だからな。


「お、天敵じゃねーか。今帰ったのか?へへへ、お前がいなかったせいで種銭はしこたま稼げたぜ!次こそ泣きべそかかせてやっからな!」


 馬車にあわせて歩いていると、冒険者に声をかけられた。返り討ちですよと返すと馬車の中から声がかかる。


「程々にな」


「程々にね」


 帰り道で散々、あれは交流手段であって趣味ではないと説明したのにも拘らず、事この話題となると二人の視線は冷たかった。付き合い酒で咎められる、前の世界のサラリーマン達もこんな気分なのかな、とやるせない気持ちになった。しかし僕も嫌々なのかと聞かれればそれも違うだけに、言い訳にしかなってないことも解っている。


「護衛任務ご苦労だったな、二人共」


「労い痛み入ります。御期待に添えましたかどうか」


「期待以上だ。ノヴェストラ公はじめ各支部長の覚えもめでたい。もし遠征するような事があっても君達は動き易くなったな」


 今遠征の話があっても暫くゆっくりしますよ?元々出発前はそのつもりだったんだし。


「暫くは骨休めに時間を当てるつもりですが、その先もしお話があれば承ります」


「うむ。内々の打診ではあったが、近隣支部から礼儀作法の習得希望者が居ればこちらに遣わされるかもしれん。教師役は二人に頼むぞ」


「専門の教師の方が良いのではないですか?」


「貴族の子弟ならばそうだがな。皆様褒めておいでだったぞ?『所属員のノせ方が上手い』とな」


 だってあの人達判り易いんですもの。


「ドリス様でもお出来になりますわ。直近の利を示してあげれば良いのです。根は素直な人達ですから」


 シノもコツが解ってからは、積極的に助言をしていた。滞在中に言葉遣いが変わる事は無かったが、暫くすれば各ギルドの受付が評価し始めるだろう。燃えてたしな。


「できる者が居れば仕事は回す。コレットも居るから私とて時間は欲しい」


 ニヤニヤしながらシノを見ているので今日はシノかと口を開こうとした途端。


「私にも友人が増えてまいりました。博打の時間を削りましょう」


 うわあぁ!この娘ったらパリィしやがった!シノが僕へと受け流す。


「僕は所属員のガス抜き役です。尊敬や感謝はやはりシュライト様こそ受けられるべきかと」


「あれだけカモにしておいて、ガス抜き役も無いものだ」


 叩き落されました。この二人相手の勝率はどんどん低くなってきてるな。


「くくく、味方が居るのは良いものだな。ではこれが報酬だ。アドバイザーとしての報酬も上乗せしてある」


 留守居役だったデッコーさんが机にどさっと重そうな袋を置く。


「こんなに宜しいのですか?」


「正当な報酬だ。シノに渡すから管理は厳重にな」


「ありがたく頂戴いたします、ドリス様」 


 子供の給食費に手をつけるパチンコ狂いの駄目亭主じゃないんですから、そんな真似はいたしません。防護策も無用に願います。


「御二人の僕に対する評価の一部に激しく抗議したいのですが」


「却下だ。女に弱みを握られるとどういう事になるか、良い機会だから勉強しておけ」


 デッコーさんの可哀相にと言いたげな哀れみの視線が追い討ちをかける。違う、あっしは無実でごぜぇやす。信じて下せぇ旦那!


「良し、これで今回の任務は終了だが……二人には頼みがある」


 僕の頼みは却下したのに!


「私達で勤まる事でしたら」


「今後もギルドの改善の為に気付いた事があれば、受付を通してでも良い。要望書という形で私に提出してくれ」


 ちょっと躊躇う。


「私達は所属員とはいえ、ギルド運営に口を出せる立場ではございませんが……」


「シノ、今の組織は二重円の構造だ。内側は我々従業員、外側は君達所属員。内側だけでは気付かぬ事もある。『チェスの観客は行方を知る』と言うしな」


「では他の所属員からも広く……」


「彼らではまだ思慮が足りん。自分に都合の良い事ばかりを並べ立てられては、堪忍袋の緒にも限界が来る」


 特にドリスさんの緒はティッシュの紙縒りかと思う程、耐久力なさそうですもんね。


「……解りました。ただし直接シュライト様に申し上げます。要望が具体的な案に練られても、僕達の名前は出ぬように願います」


「功績を譲ってくれるのはありがたいが……」


「いえ、特別扱いを受けていると思われれば、僕達も孤立するかもしれません。組織が大きく動く前です、不安要素は消しておくに限ります」


「成程……わかった。その調子でこれからも頼む」


「拙い目と耳ですが、努力いたします」


「では今日はこれで仕舞いとしよう。何度も言うがご苦労だった」


「ありがとうございます。では失礼いたします」


 ギルドを辞して月明館へ。逸る足取りで歩く通りには、僕達が居ない間に掛け変わった店の看板や新しい工房。戻った筈の場所でも新しい物になっている。

 荷物も増えた。ドリスさんからの更なる期待が肩にかかる。

 新しい物には興味が引かれるし、ドリスさんの期待は正直嬉しい。

 本当に上手くできてるな、と思いながら変わらぬ宿へと二人で歩いた。

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