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コロッケは僕が思ってるのとは違ったけど、美味しかった。
宿に帰り、部屋に三人集まって買ったものを摘んだ。他の食べ物は小さく崩せたのでリュワもお上品に食べていたが、コロッケもどきは崩すとバラけてしまう。ひとしきり悩んだ僕とシノが見たものは、コロッケに潜り込むリュワの姿だった。
「外側がー、サクサクしててー、中はー、野菜と肉がー、柔らかくてー、美味しかったー!」
「そうね、美味しいわね。リュワ、後でお風呂入ろうね」
「うんー!」
手桶に張ったお湯に浸かってきゃっきゃとはしゃぐリュワを見て、月明館のお風呂が恋しくなった。
翌日は合流場所でドリスさんから服装チェックを受けてギルドへ。
「転んで汚すんじゃないぞ!」
の一言をもらい、他の冒険者からニヤニヤ顔で迎えられた。二人に言われた筈なのにいじられるのが僕だけという状況に納得がいかない。
「シュウ殿とシノ殿、それとキャル殿にロウガー殿も会議室へどうぞ」
と呼ばれて四人で階段を上る。以前にもあった事なのかキャルさんとロウガーさんは平然としている。まず騎士控え室に入りそれぞれの支部長の護衛騎士に武器と荷物を預ける。身だしなみを整えて案内人に続く。
「入れ」
ノックに続いてぞろぞろと入る。机の一番奥にガストルさん。その両脇に一人づつ。奥から手前に左右八人づつがずらっと並び、こちらを見ている。
「キャル殿とロウガー殿は名乗りは無用だ。支部長の後ろに控えてくれ」
ガストルさんの右に座った御老人が言うと二人は一礼してそれぞれの位置につく。
「二人は初めてだな。名乗りを頼む」
ちらとドリスさんを見ると頷かれた。
「アレストギルド支部所属員のシュウと申します。ギルド総長ノヴェストラ公爵閣下はじめ各支部長の皆々様、すでに御挨拶させていただいた御方もおられますが、再度の名乗りを御容赦願います。若輩者には不相応な場ではありますが、本日の会議の末席に加わらせていただきます。何卒宜しくお願いいたします」
「同じくアレストギルド支部所属員のシノと申します。シュウと組んで行動しております。ノヴェストラ公爵閣下、各支部長の皆様、何卒お見知りおきいただきますようお願い申し上げます。このような晴れがましい場で、私如きが如何程の御期待に添えるかは解りませんが、御耳汚しを御容赦お願いいたします」
シノと二人で下げた頭をそのままに言葉を待つ。長いよ、誰がフリーズ解くかくらいは決めといて下さい。
「丁寧な挨拶痛み入る。御二方とも頭を上げて下され」
爺さん、さっきと口調が違うじゃねーか。
「では失礼します」
頭を上げると皆さん顔は普通に戻ってらっしゃる。が、キャルさんとロウガーさんは良い物見た!みたいな顔で立っていた。
「噂には聞いていたが流石にドリス殿の秘蔵っ子だけはあるな」
「私も彼らに学ぶところは大きい。最初の悪戯には手痛い返答を貰いました」
「その一つが今回のランク制度というわけですか」
左右から様々な声が上がる。
「キャル殿とロウガー殿は昨夜支部長から大まかな事は聞いていると思う。率直に今回の案件をどう思う?」
「アタシは良いと思います。これでも上にいる事は自覚してる……ますんで、収入が上がるのは歓迎です」
「俺、じゃない。私も概ね賛成です。ただ、どうしても上に上がれぬ者達が短絡的な行動を起こすのは危ないと思いますが」
「二人共いつもの調子でかまわんぞ」
苦笑を浮かべた御老人に二人が同じような表情で頷く。
「では、シノ殿。ロウガー殿の懸念をどう思う」
「はい、確かに自分で理解している壁と与えられた壁では感情は違うと思います。しかし超えた時に覚える達成感もまた違うものとなるでしょう。実例はシュウが知っています」
「シュウ殿、実例とは?」
「御存知かと思いますが先日の傭兵団の件です。救出した村人に礼を言われて所属員が感動しておりました。助けた者の礼も支部長方からのランク上昇のお褒めの言葉も本質は同じでしょう。即ち他者に認められたという喜びです」
ここで再度ドリスさんが説明する。任務にあたった者たちは今回の案の評価基準に近い『選別』を受けたと強調して。
「ふむ……その後の騎士団からの評価は?」
「我が騎士団からは概ね高評価です。シュウをクッションにしてではありますが部隊間連携も問題無く、要求される技術、忍耐力ともに合格点だそうです。何より少しづつではありますが、作戦参加者の態度が改まってきております」
事実だ。神様扱いされて余程感銘を受けたのだろう。街中で住人の手助けをしている人もちらほら見かける。
「現状でも救えない思考の者達もいるしな。最初のランク上昇を緩いものにしておけば、それである程度は人としての見極めもつくか」
「そうすると他の利点という話だが、ドリス殿」
ここで一通りの利点をドリスさんが話す。所属員の管理、新人の初狩猟での獲物選別の目安、素材の持ち込み量の予測等々。
「ふむ、こちら側としては助かる事が多い」
「新人の死亡率の高さからか新規登録者も減りつつある状況ですからな」
「一定ランクの者に新人の教育を任せる事も容易になりそうですわね」
流石に皆さん話が早い。議論はどんどん進み、ドリスさんの機嫌も鰻上りだ。呼ばれた僕達四人はほったらかしの感が否めないが、延々喋れと言われるよりはマシなので彫像のように立っておく。
「シュウ殿、冒険者側から見た利点はあるかな?」
「まずは何よりも収入が上がることです。他にも自分と同レベルの者達と協力しての大規模狩猟もやり易くなります。新人の身ならばそこに雑用係としてでも入れれば、目指す道もはっきりするでしょう。ただ、ランクの低い者が食い物にされる事態は避けねばなりませんが……」
「その辺りは我々が何とかするべき所だろうな」
「大幅な規約の追加が必要ですなぁ」
「その他に何か気になる事はあるかな?」
「そうですね……シュライト様やおそらく皆様も御懸案である個人依頼についてですが。現状一番大きい問題点は、住人と所属員の距離が遠いところであると愚考いたします。口調の荒い冒険者が人目につかぬ野外の奥地でなにやら血生臭い事をしている。と概ねこのような印象しかないのではないでしょうか?」
ほぼ全員が頷くか笑っている。実際そうだからな。
「偶に商人や旅人の護衛依頼があっても彼らは基本、動き続ける者達です。しかし、そう遠くない将来に多くの定住者が移動をする事になるでしょう」
「新都への遷都と移住者達か?!」
「はい、大規模移民団は騎士団の護衛がつくかもしれません。が、そこにギルドが食い込めれば、そしてその時にしっかりした人間性や協調性の評価基準で人員を送れれば、少なくとも新都及びその周辺での他者からの評価は一変する可能性は大いにあります」
「成程……報酬は上から貰えるだろうし、ギルドの取り分を減らしてでもそこが突破口になれば安いものだな……」
「ここに来る道中も話に上ったのですが、街から村への小さい街道の警備を、周辺の魔物の駆除と合わせてギルドからの依頼とするのも良いかもしれません。行った先で一泊すれば、多少なりとも住人との接触がありますので、人員の選定は必要です」
「各村への協力を呼びかける必要はあるが、村の周辺の魔物も狩るとなれば話はし易そうだな」
「人の目に触れる位置での仕事を増やす事が肝要かと存じます。そして他人からの感謝を受けられる立場に立てば、収入も収入を得る手段も増える。そうなればキャル殿やロウガー殿はどうされますか?」
「俺達を動かしているものは収入だ。得るための努力は惜しまない」
暇そうだったので話を振ってみたが、即答された。
「そう思う所属員はどんどん上へと上がっていく事になるだろう。我々がより大事にするべき人間も見えやすくなるな」
「シノ殿は何か意見はあるかな?」
「現状のままだと所属員は仲間内での関係性しか持てません。人と人との係わり方という物は、立場や境遇の違う者同志の触れ合いの中で熟成されていくものだと思います。口調は粗野でも心根に変化があれば、自ずと態度にも現れるでしょう。最初の接触で、事を円滑に運ぶためには礼儀を知っていれば良いと気づけば、それが多少ぎこちない物でも人は身につけようとするのではないでしょうか?」
「道理だな」
「皆様にはその切欠を作っていただきたいのです。たとえ魔物の血に塗れる仕事だとしても、他者からの理解があれば我々は誇りを持てると思うのです」
良く通る声が凛とした表情のシノから発せられる。居並ぶ面々が黙考している。意見というより演説だな、こりゃ。シノは案外こういう事に向いてるのかもしれない。
どっちにしろドリスさんが期待する仕事は出来たかな。




