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往く河の流れは  作者: 数日~数ヶ月寝太郎
二章 無念収めた匣の蓋
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16

 倉庫のようなギルド本部の職員入り口側で、他の街の冒険者と談笑する。

 周囲にはそれぞれの主を待つ護衛の騎士達。こちらも規律を乱さぬようにではあるが、相手を見つけて話をしている。


「へぇ、アレストは大分景気が良さそうだね。アタシもそっちに移ろうかな」


「ええ?ダミールのギルドは比較的仕事がやりやすいって聞きましたよ?」


「国境沿いで騎士が巡回してる事が多いから、危なくなっても助けが期待できるってだけだよ。騎士が目に付いた魔物も狩るから、獲物を見つけるのにそこそこ奥まで入り込む必要があってね。ひよっ子以外は愚痴ってるよ」


「成程、自分と獲物の見極めができる方にはやり難いんですねー」


「その上、国境で小競り合いがあればギルド員にも招集がかかる。報酬が出るからまだマシだけど、魔物の方が実入りは良いしね」


「人相手は疲れますもんね」


「そうそう、心が荒む。その点アレストに行けばシュウみたいな可愛いのがいるみたいだし」


 キャル、と名乗った冒険者が悪戯っぽく笑う。


「シュウはこう見えても厄介ですよ?武器屋に行けば日が暮れるまで動きませんし、部屋に篭れば出てきませんし」


「はっはっは、男の子だねぇ。ダメじゃないか、シュウ。連れにそんな思いさせてちゃ捨てられちまうよ?」


 快活に笑うキャルさんに苦笑いの僕、澄ました顔のシノが話し込んでいると騎士さん達が慌しくなる。会議初日が終わったようだ。続々と各支部長が姿を現す。ドリスさんも中年女性と一緒に出てきた。あの人がダミールのベルディナ支部長か。それぞれの護衛を交えて挨拶を交わす。


「これはドリス様が肩入れなさるわけですわ。キャル、貴女も見習わなくてはなりませんよ?」


 先程の逆襲が思わぬところから加わり今度はキャルさんが苦笑いの表情になる。


「キャル殿もダミール支部のトップクラス、私の提案が成れば自ずからそうなるでしょう」


 ドリスさんが援護射撃してる。珍しいもの見たな。

 ではまた明日と別れ、馬車の中で愚痴を聞く。何でも先日の一件が会議の主題となり根掘り葉掘りと聞かれるうちに、ランク制度のラの字も言わぬまま初日は終わったそうだ。あれから依頼を下ろした人間を辿りそれぞれを締め上げて、お山の頂上でふんぞり返っていた商人は、今や哀れな地下牢の住人とのことだ。


「まったく、悉く私の邪魔をしおって。城に報告の義務が無ければ私がこの手で引き裂いてやるところだ」


「すんなり認めたのですか?」


「まさか。悪党ほど悪足掻きするものだ」


 最初は知らぬ存ぜぬだったらしい。が、指が減り始めると悪足掻きが始まった。


「ノヴェストラ公は早くに奥様を亡くされていてな。公に懸想した女性が袖にされ、親しくさせていただいている私に恨みが向いたと。御家と懇意にしているその商人に私を的に依頼をかけたんだそうだ。この依頼も事実だから尚更始末に悪い」


 勿論書状を持っているこちらがそれで納得する訳も無く、片方の手からでっぱりが無くなり、もう片方もとなった辺りでようやく吐いたそうだ。依頼をかけた女性の御家には、シュライト家とノヴェストラ家から強い非難が届けられた。可愛そうにその女性、一生冷飯食らいだろうな。




 二日目は護衛の雰囲気ががらりと変わる。建物内に護衛控え室を設けて、そこに騎士が数名詰めた。僕達はというと昨日と同じ入り口だ。


「ぎゃっはっは!デセットが言ってた天敵ってのはオメーかよ!野郎、泣いてたぞ?財布が軽くて仕方ねぇって!」


 近隣支部のこの人みたいに、キャルさん以外にも僕達を囲む人は増えていたが。


「なんだい、坊やはそんなに有名人だったのかい?」


「ああ、普段はのんびりしてるが時々狂ったように獲物を狩りまくるんだってよ。引き際を弁えずに絡んだ奴の中には頭カチ割られたのもいるって話だ」


「ははは、やるじゃないか坊主!どうせ中身なんか入っちゃいないんだから構わんよ。手当たり次第に割ってやれ!」


「嬢ちゃんも大変だなぁ。そんなのの相棒だなんて」


「いやいや、嬢ちゃんもなかなかだぜ?街中で子供相手に怒鳴ってた野郎の鼻の高さが無くなったってよ」


「あ、あれは、遊んでいた子供がぶつかったくらいで殴りつけようとした方がいらっしゃったので、それで……」


 シノ……赤い顔で言い訳してもやらかした事は結構な事ですから……


「んで二人共この物腰と話し方だろ?俺も話半分に聞いてたんだけどよぉ、そりゃアホは舐めてかかるっつーの!わははは」


「それで博打も強いってかい?成程、天敵だねー」


「酒はあんまり飲まねーってこったから、デセットは飲み比べにかけてるぜ?気をつけとけよ、天敵」


「子供相手に飲み比べって、何考えてるんですかデセットさん……ご忠告ありがとうございます。気をつけます」


 昨日よりも大分騒がしく話している僕達に、首都の冒険者もちらちら覗きに来るが、護衛の騎士に阻まれてこちらの入り口付近には入っては来れない。昨日と同じように会議が終わり、各支部長に呼ばれて散っていく。


「んじゃ、またな!そうそう、ここのギルドじゃ嬢ちゃんの方が噂になってるぜ?」


「俺も聞いたな、えらい若くて美人の冒険者がいるってんで若いのが浮き足立ってるぞ」


「アタシだっているのに何処のどいつだい!」


「わははは、キャルの姉御は正体バレてっからよ!んじゃ俺も行くわ」


「取られねーよーに気をつけろよー、天敵ー!」


 なんかマスコットみたいな扱いになってるな。リュワの気持ちがわかったような気がする。

 冒険者に手を振って挨拶し、ドリスさんに近寄る。昨日に比べて機嫌が良さそうだ。本題に入れたのかな?

 

「よしよし、シュウもシノも他の冒険者と仲良くなってるな。上出来だ」


「ほとんど遊ばれてるだけのような気がしますが」


「それで良いんだ。各支部長が冒険者を連れて来るのは彼らの情報を吸い上げるためだ。今夜の話の主役は二人になるだろう。耳に入れば支部長達も興味を持つ」


 ほほう、そんな事考えて連れて来てたのか。そういう事なら僕達の印象は強いだろうな。


「明日の会議では途中で呼ぶから清潔な服で来い。勝負をかける」


「今日でそんなに話が進んだのですか?」


「いや、話し始めたところだ。しかし今回の会議のメインは張らせてもらう。初手からプラスに印象を付けて残りはこの議題を論じてもらおう」


 まさか、残りも全部引っ張り出されるんじゃないだろうな……

 今日は愚痴は無いのか、僕は馬車の外で警護に付く。冒険者の出入りが多いのもあって、屋台も結構出ている。リュワが見たら大騒ぎだな、と思っていると


(食べ物ー?晩御飯ー?どんなのー?)


 読まれた。


(お肉を串に刺して焼いたのとか、パンにチーズとお肉と野菜挟んだのとか、いろいろ……あれはコロッケ?!)


(食べたいー!シュウー、後で食べさせてー)


 おうよ、コロッケ見たからには買わねばならん!!


「すいません、少し時間をいただいて良いですか?」


「どうかされましたか?」


「いえ、そこの屋台で食べ物を買って宿で摘もうかと思いまして」


 馬車の中からも御所望があったのでこれでもかと買い込み戻る。

 まるでシュライト家御用達の屋台のように、良い匂いを街中に振りまきながら馬車は行く。

 この話がカイルさんの耳にでも入ったら、またお小言もらう事になるんじゃないかと思ったが、ドリスさんには黙っておいた。

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