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往く河の流れは  作者: 数日~数ヶ月寝太郎
二章 無念収めた匣の蓋
28/110

7

 リュワと遊びながら話を聞く。雰囲気が重くなりすぎないようにね。

 王国で知らせを受け取ったあと、敵対派閥から自分の情報が流れてくる前に出奔。カムロへと足が向きかけたがその状況で帰っても不味い事にしかならないと逆側へ。

 公国との国境まで来たところで王国と公国の小競り合いに出くわし、逃れる公国側へと助力。それが縁で傭兵団に伝手を作り、南へと移動し伝手の紹介でサスカートに所属。

 ところが外道の集団だったため、団を辞すると言ったところ腕利きを手放すわけにはいかんと、私物を奪われ初任務でアレストに。という事だった。


「シノー、辛かったのに頑張ったんだねー。偉いねー」


「ほんとだね、僕も見習わないとな」


「シュウはー、蟲見てもー、平気なようにー、ならないとねー」


「いや、アレは無理でしょ。シノも僕と同じようになると思うよ?」


「蟲?私、結構平気よ。鉄甲蟲なら移動中に公国で倒したし」


「負けたねー、シュウー」


「負けてないよ?!僕だって倒してるんだからね?」


 鉄甲蟲の話で思い出した。


「シノにも鎧と隠密服作っとこう。甲殻なら山ほどあるし。シノ、カムロの服持ってる?」


「ううん、王国から持ち出せたのは長巻と脇差、他は本当に必要なものだけで服の類は置いてきたわ」


 鞄を探り、残っていたもう一組の着物と袴を渡す。


「これ、持っといて。明日にでも鍛冶屋に行って鎧作るから、それに使うからね」


「わ、綺麗な藍色……ありがとう、シュウ」


 そこから紹介の際の口裏を合わせて呼ばれた夕食へと向かう。

 アリーシャさんとおじさんおばさん、そして何故かガルさんが身を乗り出して待っていた。


「……ガルさんお仕事お疲れ様です」


「んなこたいーからよ」


 ダメだ、この人達の興味を満たすまではどんな話題もこれで片付けられる。


「彼女はシノ、僕の幼馴染です。先日、シュライト様のところで再会しまして、これから行動を共にすることになりました」


 ここでついとシノが前に出る。腰を折り、優雅なお辞儀。


「初めまして、シノと申します。これからこちらでお世話になります。世間知らずのためご迷惑をおかけする事もあるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします」


 全員、いやアリーシャさん以外呆気にとられている。声かけてくれないとシノが頭上げられないよ!

 咳払いをすると、おじさんが我に帰って声を出す。


「あ、ああ、これは丁寧なご挨拶を。ワシはゴース、こっちは家内のドロレス。シュウ君はおじさんおばさんと親しく呼んでくれてるから、シノさんもそう呼んでくれ」


「私は娘のアリーシャ、よろしくね」


「あ、お、俺はガル。市中警備隊で小隊長をやってる。アリーシャの婚約者だ」


 これであまり妙な質問はしにくくなっただろ。特にガルさん。


「シュウだけかと思ったら幼馴染もバカ丁寧なのかよ……」


 アリーシャさんは僕との初対面の時にこの洗礼は受けているので平然としている。ガルさんも出世して立場ができたんですから、これくらいは平然と受けて下さい。

 その後はわいわい賑やかな食事となり、当然のようにシノを受け入れてくれた。シノを冷やかす度胸が出なかったのか、僕に絡んできたガルさんがポーリーに噛まれるところまで、いつもの食事と一緒だった。

 

 翌日は午前中にダフトさんの工房へ。

 ダフトさんは二領目のカムロ式という事で大喜びし、長巻の姿に見惚れ、袴姿のシノを誉めそやし、と大忙しだった。シノは嬢ちゃんと呼ばれ


「鎧が出来たらシュウ坊と嬢ちゃんの揃踏みを見せてもらうからのう!」


 と気合を入れて大はしゃぎだった。

 支払いは僕の手を止めてシノが。三十枚の金貨を押し合い圧し合いしたが、金払いに関しては僕もシノも一緒だと思い知ったみたいだ。

 シノへの金銭報酬は結構出たらしい。無駄な事情聴取の侘びにふんだくった、とドリスさんに渡されたと言っていた。


 午後はアリーシャさんに付き合ってもらって、日用品や衣料品などの買い物へ。

 昨日の夕食とその後のお部屋訪問ですっかり仲良くなった二人は、きゃいきゃいとはしゃぎながら買い物に興じる。僕とリュワはついて行くだけになっていた。

 

「シノちゃん縫い物はできる?」


「はい、一通りの事は母から仕込まれてますので、大丈夫です」


「それじゃ一緒にポーリーとリュワに何か作ってあげようよ!」


「わ、いいですね!手芸屋さんに連れてってください」


 着いた店では僕も品を選ぶ。ダフトさんに鉢金はシュウ坊が作ってやれと言われていたし、作成中の新しいリュワの身体も上半身には何か服が欲しいだろうと思ったからだ。

 そう思って選んでいると、藤によく似た柄の布地を見つけたので何となく買い求めた。男性が買うにはちょっと可愛らしい柄を買っているのをアリーシャさんが横目で見て、ウィンクしながら親指を立てたので、ああ、そういうつもりで僕は買ったのか、と合点がいった。


 夜は魔道具作り。

 シノにも鞄がいるよな、と帆布で今のものより少し小さめの鞄を二つ作る。ゴダールからの戦利品は長の使用で痛みが酷くなっていたからだ。買った柄の布地は長い髪を束ねる時に使えるように細く切り、端を縫っていく。すまん、シノ。これで勘弁してくれ。

 さて、鉢金だけどどうしようと考え込む。僕の鉢金は特別製だ。あれと同じ機能を組み込むのは無理そうだ。うんうん唸った挙句に気配、特に害意や殺意といった物の察知補助、危険察知を付与することに決める。鉢巻部分を作り、後日ダフトさんのところで鉢金部分を打たせてもらう事にしよう。形も額を守る僕のものとは違い、前頭部分も守るようなデザインに。


 向かいの部屋をノックすると二人の声がどうぞと答える。

 入ると取っ散らかっていた。この時間でこの有様……夜通しやる気だ。明日はゆっくりお休みにしようとシノに伝えると、顔が赤くなってうんと答えが帰って来た。可愛かったのでリボンを渡す。


「ありがとうシュウ、大事にする!」


 握り締めるシノとキラキラニヤニヤするアリーシャさんに程々に頑張って下さいねと部屋に帰る。

 あのままあの部屋にいては危険だ。常識はあるとはいえ、基本アリーシャさんとガルさんはお似合いだからだ。似て、合っているからだ。


 翌日、一晩で完成させたのだろう。首元に蝶ネクタイ、上半身にベストを着込んだポーリーがカウンターにいた。

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