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往く河の流れは  作者: 数日~数ヶ月寝太郎
二章 無念収めた匣の蓋
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5

 帰着した僕達から報告を聞いたドリスさんはそれはもう嬉しそうだった。おそらく自室ではコレットと一緒になって転げ回るんだろう。

 冒険者達もホクホクだ。奴らが結構貯め込んでいて報酬が上がったのも一因なのだが。


「俺ぁ、拝まれたのなんて初めてだぜ!」


「俺もだ。あんな気持ち良いとは思わなかったぜ!!」


 と、感謝される事に慣れてない彼らは村中から感謝され、優しく災難事を労わる騎士団とは対照的に、照れて下を向いたり上を向いたり可愛らしかった。奴ら以外の遺体の前で泣いている奥さんと子供に、遅くなってすまない、間に合わなくてすまないと一緒に泣いてる人もいた。

 最初にドリスさんに話したことを参考にしたのか、人間性や協調性も今回の選考基準に入っていたそうだ。もしランク制度が取り入れられれば彼らは一歩抜きん出た場所から始まるんだろう。

 確かに彼らは荒くれが多い。しかし奴らのように他人から奪うのではなく、ギルドに登録し自分で稼ぐという選択をした時点で、救えない程のバカじゃない。勿論例外はいるだろうが、一緒に遊び始めて分かった。基本的には良い人達なんだ。


「どうした?報告は一昨日聞いたぞ?」


 意地の悪い笑顔と弾んだ声でドリスさんが僕を迎える。分かってるくせに……


「ええ、シノの処遇が気になっておりまして」


「くく、私と友情を育んでいるところだ」


 僕、素直に本音吐いたでしょ!


「君は最近表情が豊かになったな。事実確認と事情聴取にちと手間取っている」


「事情聴取、ですか」


「出自の方ではない。そっちは気取られるような事は無いから心配するな」


「では、何が問題になっているのでしょうか?」


「売り先と奴らの関わりだな。公国は確定しているが公国の誰か、という事まで知りたいらしい」


「入団二月の新入りが知っているとは思えませんが」


「今回の手柄は全部ギルドだ。どうにかそこに食い込めないかと欲の張った奴らも多いということだ。石板を使って公国貴族の名を全部確認する勢いだ」


 それはまぁ、なんともご苦労なことで。付き合わされるシノも大変だなぁ……


「そういうことだ、もう暫く待て。立場は『情報提供者』のままだ。ここで暮らす事も一度弾いたギルド登録も問題ない」


「安心しました」


「まぁ任せておけ。友人達の為だ、悪いようにはしないさ。すまんが私も事後処理で立て込んでいてな。今日はこれで許してくれるか」


 友人『達』と言った所で照れくさくなったのだろう。うっすら赤い顔のドリスさんに、何卒良しなにといって部屋を出る。

 ここにも照れ屋が居たか。本当に上下の連動具合が素晴らしいね、ここのギルドは。




 再会の時を知らせてくれたのはアリーシャさんだった。


「シュウ君、ギルドからお使いの人が来てるわよー」


「今行きます!」


 下りて使いの人から本日中にギルドにお出でください、と伝言を聞き今から参りますと一緒に出る。


「シュウさんは凄いですねー、実績人柄協調性と、アレストギルドのトップクラスをひた走ってますよ」


「ええ?稼ぎはもっと良い人いるでしょ?」


 デッコーさんの助言からこっち意識して抑えている、抑えられているはずだ。


「稼ぎに関してはそうですが、実績ですよ。時間は空きますがその分キツい相手とやり合ってるでしょ?」


「あー、そういう事ですか」


 むむ、そっちにも気をつけた方が良いのか?


「あ、ご心配なく。個人の戦績等は漏れないように徹底されています。所属員規則はお聞きだと思いますが、従業員規則もあれに劣らず強い物ですから」


「いえ、いつも丁寧に対応していただいてますし、その辺りは不安には思っておりませんよ」


「はは、加えてその物腰。ウチの若い子達が噂してますよ?」


 なんだと!もっと詳しく!ついにハーレムか?そのルート入っちゃったの?僕!


「『強くて優しくて丁寧だし、あんな弟欲しいよねー!』って」


「ははは……」


 そう線の細いお兄さんに笑顔で返し、内心は落ち込んで……はいない。オチは読めていたからね。

 ギルド入り口でお兄さんと別れて二階の部屋に入る。もうここ二番じゃ無くて僕の名前書いといても良いんじゃないだろうか。

 ノックして返事を待つ。


「来たか、入れ」


 失礼しますと入ると笑顔のシノがいた。良かった、笑ってる。良かった……


「参上いたしました。シノはもう自由なのですか?」


「その事なのだがな……」


 ドリスさんに目線を切られる。焦ってシノを見るが拘束具の類は無い。テーブルの上を見ても罰則罰金の類の書類も無い。


「何か不都合があったのでしょうか?」


 声が上ずる。


「ああ、情報提供をしたとはいえ、一時は賊と通じていたというのが問題になってな。監視をつけることになった」


「そ……いえ、期間は何時まで?」


「無期限だ」


「そんな!」


 先程飲み込んだ声が今度こそ出る。

 アレはイラつく。たった二日だけど尾け回されたからわかる。シノなら気配も探れるから僕と同じだろう。二日であれなのにそれが無期限……


「すまん、そういう訳だ………………では監視役を頼んだぞ」


 たっぷり間を取ったのはこっちの反応を楽しむ為かぁーーー!!くっそ、この、ぬいぐるみ大好きっ子!!


「面白かったろう?シノ」


「は……いえ、あの、はい」


(シュウー、ドリスまだ嘘ついてるー) 


 ここでリュワからチクりが入る。くっそ、この……くっそー!!


「シュライト様、監視云々も嘘ですね?」


「くっくっく、バレたか。君の察しは相変わらず良いな」


「あの、すいません秀様。お止めしきれませんでした」


「ああ、いいよ、シノ。それは僕でも無理だし。それよりシノ」


「はい」


「よく無事でいてくれた。僕は嬉しい。ほんの少しだが、君の御父上にも御恩返しできた」


「……勿体無い、お言葉です」


「あと、その言葉遣いはやめてね。僕の事はシュウと呼び捨ててくれ。態度も友人に接するように頼む」


「そうだな、シノ。シュウは目立つ。勘繰られるような言動は慎んだほうが良い」


「はい、わかりました。シュウ」


「まだちょっと堅いな」


 様とか年上から敬語とかやめて欲しい。心掛けてはいるけど勘違いしそうだ。


「わかったわ、シュウ。これで良い?」


「うん、それで頼むよ」


 ドリスさんがここでてきぱきと連絡事項の伝達を始める。


「さて、シノへの報酬だが相応の金銭と、賊に握られていた私物の返還となった。それで良いか?」


「私に異存はありません。ありがとうございます。ドリス様」


 うお、ファーストネームだ。どうやら育んだ友情は数日でかなりの強さになったらしい。

 と、出されたシノの長巻やら何やらを鞄にしまいこみながら、感動する。


「それとギルドへの所属を認める。書類はこれだ。規則に関してはシュウから説明してもらえ。規則に抵触したら……シュウ、わかっているな?」


 笑いながら頷きで返す。僕が全責任を負うんですね。わかります。


「では以上だ。二人共にするべき話もあるだろう。数日中に顔を出せ。今日はもう良いぞ」


「シュライト様、この度は僕達のためにお力添え下さり真にありがとうございました。では失礼いたします」


 と腰を浮かして二人で部屋を出ようとする僕達にドリスさんが意味深に笑いながら告げる。


「そうそう、報酬とは別に友人への贈り物だ。シノ、滞在中の宿は『月明館』に取ってある。シュライト家のお抱え宿だ。宿料については心配するな。ではまたな」

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