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往く河の流れは  作者: 数日~数ヶ月寝太郎
一章 案ずるより絡むが易し
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 買い物の後、アリーシャさんが作り方を詳しく教えてくれたので、さして困ることも無くぬいぐるみを縫い上げた。

 午前中にダフトさんの所で、多少しなる程度の太目の鉄線を分けてもらっていたので、適当な長さにカット、両端を丸めて骨組みとして縫いこむ。綿を多めに詰め込み自重で潰れないようにした時に、プロポーションが崩れないようにする為と、行動した時に適度なしなりで衝撃を吸収するためだ。

 目はガラス玉を、喉の奥には薄くそいだ革を張った。魔力でどうにかするかもしれないが、物を見たり声を出したりするときの補助のつもりだった。

 外見は虎だ。大きさは四十cm程。昔祖母ちゃんが買ってくれたのを思い出したから。

 できたぬいぐるみを手で動かして歩かせてみたり、立たせた上から軽く抑えてみたりする。


「戦闘は論外だけど、日常的な行動に関しては問題なさそうだな」


 ぬいぐるみの頭に手を置いて潜る。

 部屋に戻った直後に今から作るとリュワに伝えると、完成したらそうして来てくれと言われたからだ。

 潜ったら僕の腕に巻きつき羽で手を抱いて人差し指を甘噛みして遊んでいた。


(ご機嫌だね、リュワ。最初の身体ができたよ)


(シュウー、おかえりー!楽しみでじっとしてられなかったんだー!)


(飛んだり跳ねたりはできるけど、簡単な身体だから危ない事はしないこと。約束してね?)


 あくまでも宿るだけだからリュワそのものには危険は無いけど、他に作る予定の身体ができるまでは唯一の身体だ。今の喜び方を見ていると、それが無くなった時の落ち込み様は想像できる。


(わかったー!良いー?もう良いー?)


(良いよ、僕の右手が触ってるものに宿ってね)


(はーい!じゃあ向こうで待ってるねー!)


 と言うが早いか僕の幽体に入り込んで向こうに宿ったようだ。苦笑して追いかける。


「うわ、ふわわ、うわあー!あははー!!」


 戻った僕が見たのは部屋中を仔虎が跳ね回り突っつき噛み付く、もの凄くファンシーな光景だった。


「良かった。異常はないみたいだね」


「あ、シュウー!ありがとー!!楽しいー!」


「初めてだもんね。これから一緒に色んな所で色んな物見ようね」


「うんー!」


 こりゃ直ぐにバレるな。僕が魔道具作れるようになった事。リュワも魔道具っていう事にしておいたほうが良さそうだ。この喜びようを見たら二人きりの時以外はじっとしてろ、とは言えない。


「リュワ、向こうの時みたいに僕の頭の中で直接話できる?」


(できるよー、これで良いー?シュウの伝えたいこともわかるよー。シュウ以外の人が居るときはこれで良いんだねー?)


「そうそう、お願いね。んじゃ、その練習しようか」


「わかったー!」


 一階に下りてアリーシャさんを探してできました、と伝える。案の定見たいと言ったので部屋にどうぞと言葉を返す。ドアを閉めて結界を張って隠れているリュワに出てくるように念じる。

 ベッドの下からピョコと顔を出したリュワを見るとアリーシャさんの声が何時もよりオクターブ跳ね上がった。


「きゃあああ!何コレ動いてるー!縞々可愛いー!」


「実は先日魔道具作れるようになりまして……まだ簡単なものしか無理ですが」


「うわー!ふわふわー!」


 アリーシャさん、喋り方リュワと同じになってます。


「抱っこして良い?って膝の上によじ登ってきたわ、この子ー!!ふわふわー!お手手ぷにぷにー!!」


 革の袋に綿を詰めた肉球です、これは外せませんから仕込みました。苦労しました。


「わー!私の手を齧ってるわ!ふふ、おいしい?牙がツボを刺激して気持ち良いー!」


 はい、半球状に木片を削って口の中に数個仕込みました。苦労しました。


「シュウ君!これ!持って帰って良い?」


 何故この展開を予想できなかった。


「申し訳ありません……それはダメなんですよ」


「そっかー……仕方ないか。魔道具って高いもんねー……」


 後でどういう魔道具が作れるかリュワに聞いとこう。とてつもなくがっかりした顔のアリーシャさんを見ていられない。


「すいません、最初の作品なんで手許に置いておきたいんです……作り方を教えてもらいましたので、最初に見せたかったんですよ」


 リュワもリュワでさっきから頭の中に絶えず言葉が響いてくる。実質二人と平行会話してる。疲れる。

 ぎゅっと抱きしめるアリーシャさんの耳やら髪やらに前足でぺしぺし悪戯を仕掛けるリュワ。和むわー。

 数時間遊んだアリーシャさんが名残惜しそうに部屋を出ても、リュワの興奮は解けることなく、夜通し遊ぶ羽目になった。

 



 遊びながら聞いたところ、魔道具を作る時は幽界で僕が選別し、方向付けした魔力をリュワが物品に定着させることで作ると言うことだった。

 通常の魔法は意思とともに物質界に顕現されるため、幽界の方には意思が残らないが、リュワのような存在は意思も一緒に定着させることができるため、幽界から力を引き出し続けることができるらしい。例えるならガソリンの給油ホースを繋げたまま車を走らせるようなもの。

 

 これを現象付与と言うのに対し、特性付与と言うものもある。物質に特性を持たせるのである。例えば切れにくい糸、弾力性のある木材、意味は無いが容易く千切れる鉄等々。夢のような話であるが限界も当然ある。燃えにくい紙は作れるが燃えない紙は作れないのだ。

 どちらの付与も定着させると消去も上書きもできないため、柔らかくした鉄で形を作った後に元のように硬くするなどの使い方もできない。


 そしてアリーシャさんの望みを叶える為にはとあるものが必要になる。

 単純な現象を付与する時は対象の物質だけで済むのだが、複雑な現象、例えばリュワが宿ったぬいぐるみのような動きをする魔道具を作る場合には、『自然顕現魔力結晶体』という物質が必要になる。魔石という物とは全く違う。


 『自然顕現魔力結晶体』とは何かと聞くと、幽界で多数の魔力がぶつかり合流した時に、逃げ場を失くし溢れた魔力が物質界に顕現する際にできるものらしい。顕現したは良いが確たる方向性も持たず顕れた為に、そこに留まり続け結晶化という現象を余儀なくされたものだ。ぶつかり合った魔力たちの属性はそのまま残る為に、複数の現象や特性を刻む事ができる。肉眼には映らない。


 んじゃどうやって見つけるんだ、と聞いたら幽界には残滓が残ってるからリュワにはわかるとの事。物質界と幽界に分かれて共同作業するしかないか……。

 そこら辺にごろごろしてる訳じゃないけど、人が採取できないので滅多に見ないと言うわけでもないらしい。


 ちなみに、僕みたいに幽界ではっきりと魔力や存在に輪郭を引ける人はそれこそ千年に一人レベルらしい。だから他の魔道具職人は、ぼんやりした存在とぼんやりしたやり取りしかできないから、こういう事は知らない。知りようが無いのである。僕みたいにリュワ達の様な存在と同等の繋がりではなく、リュワ達からの一方的な繋がりでなんとなく魔道具を作れている存在。それが他の魔道具職人らしい。


 話を戻す。

 では魔石とは何か。その説明には魔物という存在から説明をしなければならない。

 幽界では力が淀み、そこに自我が芽生えることが非常に稀だがある。切欠は様々で、それこそ多数の無念怨念が長時間かけて混ざり合った負の波動だったり(あくまで自我が芽生える切欠であり、怨念がそのまま宿ると言うことではない)、川のせせらぎや、風がひゅうと吹いたから、ということもあるらしい。

 芽生えた自我は意識を持つ。姉さん先生が言った『肉体を失った幽体は幽霊と呼ばれる存在になる』の逆である。自然発生した幽体は肉体を持たないのだ。


 そして発生した幽体は同時に魂を持つ。ここら辺は僕やリュワの領分を越えるので詳しい事はわからない。起こった事を受け入れる事しかできない。

 ともかくこれで、幽界にそこに在ろうとする幽体が一丁出来上がるわけだ。そして運良くそこに宿ることのできるもの、死んだ直後の生物の死体等があると宿り、結びつきを強めて肉体を手に入れる。その過程で肉体は変質し(含遺伝情報)異形の魔物が誕生する、と言うわけである。

 

 宿る前の、自然発生した幽体の内の大多数がリュワたちのような存在となり、幽界をたゆたう。タイミングが合わなければ宿る肉体に出会わず、出会えなかった幽体はその在り様をそのまま受け入れる為、それ以後に肉体を見つけても宿ろうとさえ思わない。

 リュワが物質界への顕現を望んだのは僕の知識を仕入れたからだろう。リュワ達も対称の幽体と深く関わるには相手の了解と協力の下にしか関われないらしい。


 幽界での稀な自我の発生、発生後短時間での幽体を失くした肉体との遭遇。これを乗り越えた超希少種が魔物である。しかし希少なはずの魔物がそこら辺にごろごろいる。何故か?

 それは単純に子孫繁栄の結果である。最初に誕生した魔物、オリジナル体は肉体の持つ『繁殖欲求を満たす為の機能』に引きずられて最初に多数の雄と雌を生み出す。そうして繁殖をした魔物は他の生物同様、幼い時は捕食され、数のバランスを取りながら世代を重ねるのである。

 魔物と認識されているのは、成体になってからの他の生物のはるか上位に位置する身体強度によるものであり、極端な攻撃性はその強度に裏打ちされた本能が導く捕食欲求の発露である。


 ここで魔石とは何か、と言う話に戻る。

 魔石とは述べてきた最初の固体、オリジナルのみが体内に生成する、肉体と幽体が合一する時に働く力の余剰が『結び付く』という意思の元、顕現した物である。よって魔石の硬度は非常に高い。鉄や鋼では話にならないくらいに。また意志が働いた力の顕現体である為に人が利用してどうこうなどはできない。

 尤もオリジナルの魔物は洒落にならないくらい強大なので討伐は不可と言い切って良い存在である。

 拠ってこの世には『魔石』という存在は『自然顕現魔力結晶体』同様、人には認知されていない。


 まだこの世界の人は知覚できない物、想像することさえできない未知の物に名前をつける事はできない。

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