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往く河の流れは  作者: 数日~数ヶ月寝太郎
一章 案ずるより絡むが易し
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13

 休日に限って早く目が醒める。カーテンを開けても部屋の明るさは変わらなかった。

 やる事がないので座禅を組む。いつものように幽界に潜ると何かいた。


(ふおお、こいつか?問屋のおっちゃんが言ってたのは!!)


 集中が乱れて幽界が散る。

 慌てて深呼吸して潜ろうとするが、慌てたままじゃダメだよな、と一瞬で落ち着く。長期間の精神修養のせいか、やろうと思えば瞬時に気分が切り替えられるようになっていた。


(そこに在る事はさっき知った。散じる直前の一瞬だが気を引いた感じもあった)


 再び潜る。先ほどよりも近い、というかほぼ密着する距離である。

 その存在をより深く知ると輪郭がハッキリした。小さいが人の顔と胴体、肩からは羽根、腰から下は東方龍。顔立ちはくっきりしているが男女の区別はつかなかった。

 すいすいと僕の周りを移動する。アメンボみたいな動き方だ。さわさわと僕の幽体を羽で撫で、なにやら機嫌が良さそうだ。 


(ん~、声は出ないしどうやってコンタクトを取ろう)


 とこちらも撫でたりつついたりと遊ぶように触れ合っていると、向こうの丹田辺りからスッと細い力が伸びて僕の耳に触った。


(だれー?)


 と響く。

 ああそうか、意思を伸ばせばいいのか、と気付いてこちらは額から力を伸ばして向こうの耳のあたりに触れさせる。


(おはよう。僕はシュウだよ。君は誰かな?)


(ぼくはぼくだよー。ねぇねぇー、もっとのぞいていいー?)


(よくわかんないけど、痛くしないなら良いよ)


 答えると触った糸を辿ってこちらに入り込んできた。内をぐるぐる廻っている。

 ちょっとくすぐったかったが好きなようにさせていると、やがて反対側から糸が伸び、その先に先ほどの身体が現れた。


(ありがとー、シュウって物知りだねー。随分賢くなっちゃったー)


 おー、知識複製したのか?と揺るがない落ち着きの中で驚く。


(おめでとう、言葉も明瞭になってるね。頭が痛かったりしないかな?)


(ううんー、すっきりしてて気分いいよー。ここで何してるのー?)


(君みたいな存在に遭えれば良いなーってここに居たんだ)


(そっかー、シュウはー、魔道具作りたいんだもんねー)


(それだけが理由じゃないけど、まあそうだね)


(さっき知ったからー、わかってるよー。連れてってくれるならー、僕が手伝うよー?)


(本当?嬉しいな、ありがとう!どうすれば良い?)


(えっとねー、お互いの意思を伸ばしてくっつけてー、僕に名前をくれれば良いんだよー)


 名前……龍と羽根だからリュウハ?この子には厳つすぎるな。羽根、羽、はね、は、わ……リュウワ?語呂が悪い。リュハ、リュワ?リュワが良いかな。

 そう決めると向こうからの意思が伸びてきた。それに応えてこちらも伸ばす。くっつけるって言うのはリュワがやってくれた。


(これから宜しくね、リュワ)


 と名前を呼ぶと嬉しそうな答えが返ってきた。


(宜しくねー!シュウー!これで僕はー、常にシュウの傍にいることになるんだけどー、お願いがあるんだー)


(何かな?僕にできることなら喜んでするよ)


(物質界もー、見てみたいからー、身体になるような物が欲しいー)


(どんな身体が良いの?)


(任せるー。けどー、シュウが作ったものじゃないとー、宿れないからねー)


(わかった。なるべく早く作るから待っててね)


(うんー、じゃあできたら迎えに来てねー)


 それを最後に幽界から浮く。

 戻る直前に結界を顕現させると雄叫びを上げながら跳ね回って喜んだ。

 明るくなってきたのでルンルン気分の鼻歌交じりに洗顔に向かう。

 休憩室でガルさんが正座して……させられていたが、気付かないフリをする。

 洗顔して戻るとカウンターにアリーシャさんがいたので超ニコニコで元気に挨拶。


「アリーシャさん、おはようございます!!」


「お、シュウ君元気だね!おはよう」


「はい!早起きしたら三文どころじゃない得をしまして!」


「サンモン?よくわからないけど良い事あったのね?」


 頭を撫でられる。

 言葉の意味はよくわからんがとにかく凄い得した。


「はい!」


 そこで、アリーシャさんの顔が一瞬意地悪く変わり


「そうだ、シュウ君今日お休みだって言ってたよね?私とデートしよっか」


 と大声で言う。

 奥からなんだと!という声が聞こえるが


「シュウ君はお酒に興味無いみたいだから、一緒に出かけても楽しそうだしー」


 そーゆー事ね。協力しましょう、ダフトさんの事でさんざんビビらせてくれた御礼もしないとだし。


「わー、初めてのデートが美人なおねーさんで嬉しいです!」


 再び奥から待て待て!痛ててて、立てねぇ!の声が聞こえる。

 午前中はダフトさん家で打ち合わせがあるから昼御飯前に帰ってきてそれから出かけることになった。


「ふぅむ、カムロ式の鎧は大体わかったが、身体にフィットさせる方式だと随分と姿形が変わることになるのう」


「そうですね……う~ん、どうしましょうか」


「いっそのこと純戦闘用と隠密行動用に二領作らんか?そうめまぐるしく状況が二転三転するような戦況はあまりあるまい」


 提案を受けて『サムライ』と『ニンジャ』の単語が頭によぎる。

 死して屍拾う者無しな非情な世界に思いを馳せる。


「それもそうですね……そうしましょうか。手間が増えますが宜しくお願いします」


 胴と籠手、脛宛は共用、その他の部位は着物の上から装着していく戦闘用。衣服に装甲を縫いつけて作る隠密用、という方向性で作成する事に。隠密用には動きやすく丈夫な服を買って、それを基とすることになった。カムロの匂いを薄め、誰の目に付いても大丈夫なように。こっちのほうが使用頻度高くなりそうだな……。

 必然的に甲殻が足りなくなり、ダフトさんからサイズ違いの鉄甲蟲を狩って剥ぎ取ってくるようにと宿題を出される。明日ギルドで生息場所を聞いてこよう。

 取りあえず今日明日はこれで、と御弟子さんの秀作に刃をつけたナイフと、微調整が終わって届けられていた防具を渡されてお昼前に戻ってきた。


「お帰り、シュウ君。すぐに出かける?着替えてから行く?」


「あ、着替えてきます、少々お待ちください」


 手早く着替えて腰の後ろにつけたナイフをオーバーシャツで隠す。デートには無粋だが万一の事態に備えるためだ。


「わ、シュウ君髪の毛縛ってる。新鮮ー」 


「お芝居とはいえ、いつもと気分を変えた方が良いかと思いまして」


「ごめんねー、たまにはこういう事しないとお酒控えそうに無いから……」


「いえ、構いませんよ。僕も教えて欲しいお店がありますし。楽しめば楽しむほどキツいお灸になりますから思いっきり悔しがらせましょう」


「あはは、それもそうね。じゃあ行きましょうか」


「はい、楽しみましょう」


 出かけてまずはお洒落なリストランテでランチを食し、そぞろ歩きでお洒落な店に入っては次を探す。他愛も無い話で笑い合いながら、疲れればお洒落なカフェに入り、お洒落な店員さんにお洒落なお茶をお洒落注文してお洒落テーブルでお洒落話(略)

 二人の目的がはっきり合致していた為か、アリーシャさんには姉という感覚で普段接している為か、デートの経験など無いのに上手くいったと思う。さすがにプレゼントなどの物品を渡すのはやり過ぎだと思ったので自重しておく。

 装飾品店で目の色が変わったアリーシャさんに、反省したガルさんにねだってくださいね、と言ったら笑いながら頷かれた。


「それで、私に教えて欲しい店って?」


「そうそう、布や糸、綿などを扱っているお店を教えてください」


「なーに?シュウ君ぬいぐるみでも作るの?」


 からかうように聞いてきたので


「よくわかりましたね、その通りです。わからないところがあると思いますのでその時は教えてください」


 と答えると目を丸くしていた。

 店に着くと必要なものを買い込み、会計に向かうとカウンター前に組紐が展示されていた。鎧に使えそうだと、多数の色のしっかりした組紐をかなりの量買い込んだ。

 晩御飯は落ち着いた店でいただいて、月明館に帰り着いてデートは終了した。


「あー、楽しかったー。シュウ君なかなかやるわね」


「アリーシャさんがいっぱい喜んでくれたからですよ」


「また行こうね!」


「はい、また!」


 という会話を、おばさんが奥を指差すのでトドメにしてから部屋に戻った。

 この後数日間、追求してくるガルさんに時間をかけて情報を小出しにしつつ、お洒落に遊んだ。

 アリーシャさんは新しい指輪をとても嬉しそうに見せてくれた。

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