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往く河の流れは  作者: 数日~数ヶ月寝太郎
一章 案ずるより絡むが易し
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12

 ようやく開いた口を閉じ瞬きをしたダフトさんの目には強い決意が見て取れた。

 最近は弟子の育成に時間を取られて、あまり鍛冶仕事が出来ていなかったらしい。

 これほどの物を見てしまったからには弟子なんぞ二の次じゃ!!と鼻息を荒くしていた。


「訪ねてきて正解じゃったわい。今日は真に良い物を見せてもらった。真に良い若者とも知り合えたしの」


「そう言って頂ければこちらもお見せした甲斐があります」


 そろそろお暇の雰囲気を醸し出すダフトさんだがそうは問屋が卸さねぇ。


「先程も言ったが何時でも訪ねてくるといい。遊びにでも注文にでも構わん。わしの手に負えんものは専門の職人を紹介してやろう」


「よろしいのですか?」


「構わんよ。シュウ坊の人物は見たしの。知らぬ間に工房区の長老に祭り上げられて誇れるものは人脈だけじゃ」


「人望がなければその立場には推されませんよ。人脈はダフトさんの人徳の賜物です」


「ほっほ、煽てられると弱いのう。気が大きくなって大概の事には頷いてしまいそうじゃ」


 その言葉が聞きたかった。


「では厚かましくも幾つか御相談があるのですが……お時間に余裕がなければ後日に改めましょうか?」


「待ち望んだ日じゃ。夜に床に入るまで予定は空けておるわい」


「ではまず一つ……これの加工をお願いしたいのですが」


 例の百足の甲殻を取り出す。


「鉄甲蟲の甲殻か。値打ち物を持っとるのう……これをどうしたい?」


「ええ、防具にしようかと」


「ふむ、疵もなし。上物になるじゃろう。ギルドでの処理は終わっておるな?」


「はい」


「カムロ様式か?」


「そのままというわけではありませんが大筋は」


「ならワシ以外に見せぬ方が良いじゃろう」


 小躍りしそうな勢いだな。未知の鎧を独り占め、にテンション上がってるだけだな?


「ダフトさんは甲冑の方も?」


「装備品の類は一通りできるぞ。専門は武器じゃがな」


「では少し見ていただきたいものがあります。お目汚し失礼します」


 とその場で着物と袴に着替え、脛宛と籠手を装備する。髪を結わえて鉢金も締める。

 話を続けようとしたら褒められた。


「ほおぉ、これは凛々しい!すまんが刀も挿してみてくれんか」


 苦笑して、子供のようにはしゃぐ御老人の希望に答える。


「手と脛は防具があるのですが、その他の部位が足りません」


「うーむ……調べてみてからになるが籠手と脛宛も揃えぬか?姿というのも重要じゃぞ?」


 あの船から持ち出した物は大きく変える気はなかったが、そう言われるとそうするのが良いかとも思える。ダフトさんになら任せても間違いはなさそうだし。


「そうですね、ダフトさんに手掛けていただけるのならそうします」


 おお、満面の笑みだ。


「やる気が漲るのう。この甲殻だがな、硬いのは勿論だが静音性にも優れておる。硬さは金属を超え、隠密性は革並と良いとこ取りの素材じゃ」


 そりゃ高値もつくはずだ。


「では隠密任務にも備えて身体にフィットさせるほうが良さそうですね」


 ダフトさんが頷く。


「他は何かあるかの?」


「そうですね、鎧のために籠手と脛宛もお預けしますので、出来上がるまでのつなぎの武器防具と短剣が一本欲しいのですが」


「つなぎという事は防具は出来合いを微調整じゃな」


「はい、動き易い物でお願いします」


「短剣の方は戦闘用か?雑事用か?」


「今のところは魔法が主の戦闘ですので、非常用の意味が強いとはいえ戦闘用ですね」


 あとは街中の擬装用という意味もあるが。


「好し好し、わしが打ってやるわい。まずは工房へ行こう。わし以外は何人も入れぬ専用の方への。その後で革防具専門の男に紹介してやろう」


 ダフトさんと慌しく荷物を纏め、おばさんに行き先を告げてから工房区へ。

 工房に入り物珍しげに見回していると簡単に説明してくれた。遊びに来よう、絶対に。そしてさり気無く鍛冶を教わろう、確実に。

 預ける装備と素材を置いて金貨二十枚を押し付けるように渡す。貰い過ぎだと遠慮されたが、さして使い道の無いまま貯まっていた金だ、冒険者として至極真っ当な使い方をしたいと言ったら受け取ってくれた。実際ほぼオーダーメイドだと考えると決して高くは無い。

 

 革防具は微調整に明日の昼まで待ってくれといわれた。これ幸いと明日も休日に充てる事にする。ダフトさんと細かい打ち合わせもしたいし。

 そのダフトさんはここで素材を預けていた。何でもより静音性を増すために、革で甲殻を裏打ちしてもらうのだとか。使用するのに一番良い革を聞いたら鞄の中にあるものと一致したので、加工費、防具代金と合わせて前払いしておいた。


 三人で話していたら色んな職人さんが集まって来て、わいわいし始める。

 日の入りも近づいていたので一斉に工房を閉め、勢いで大宴会に雪崩込むことになった。長老の鶴の一声だ。ダフトさんの紹介で一気に顔合わせを済ませ、お酌をしつつ色んな話を聞く。ギルドが設置されてから魔物素材の流通が増え、最近ようやく本格的に開発が始まったらしい。

 

 楽しそうに情報交換する職人さんに混じって、いつの間にかガルさんが混じっていたのには驚いた。アルコールセンサーでも付いてんじゃないか?この人。すぐにダフトさんに見つかってなにやら愉快そうに言い合いをしてた。

 帰りの遅い僕を心配したアリーシャさんとおじさんが探しに来るまでは。

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