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往く河の流れは  作者: 数日~数ヶ月寝太郎
一章 案ずるより絡むが易し
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 獲物で遊ぶ虎のようなお姉様との手打ちの日から二週間。

 狩りに情報収集に技能上達に、と僕は忙しなく動き回っていた。宿代の心配は無くなったが、働かないとアリーシャさん達から白い目で見られそうで怖かったというのもある。


 依頼についてはあの翌日、受付で気になった事を聞くと衝撃の事実が判明した。

 個人からの護衛や警護、特定魔物の討伐以来などは珍しい物だったのである。設立間もないギルドの実績や信用度がまだ浸透していない、というのがその大きな理由であった。薬草採取に関しても薬氏が直接行ける範囲で摘める物が主流であったので、粗野な冒険者が引き千切ったものよりは自分で丁寧に摘むほうが選ばれた。道理でギルド内に依頼ボードみたいなものが無いわけである。

 なので冒険者は取りあえず魔物を狩りに行く。死体及び素材を持ち帰った段階で初めてギルドに用事ができるのである。

 とはいえ


「個人からの依頼が無い訳ではありません。数が少ないので受付で一括管理しているだけですから。適宜こちらからお声をかけ、依頼のご紹介と言う形になるかと思います。ギルドとしても大事な時期ですから、これから増えるであろう個人の依頼は大切ですので失敗するわけには参りません。滅多に素材を持ってこれないような能無し冒険者には個人依頼が回る事はないでしょう」


 だそうです。

 ここのギルド職員はアレだね、上が上なら下も下だね。ホントにもう、なんと言うか……アレだね!


 情報収集に関しては行き詰っていた。

 情報ってなんの?知れた事、工房区に繋がりを得るための情報である。しかし、誰に聞いても聞き込んだ末に出てくるのはたった一人の名前。ニクいあんちくしょうなのだ。


「ダフトさんでしょうね」

「ダフトさんが一番じゃないかな」

「ダフトだろう」

「やはりダフト師だな」

「結局のところダフトの爺様なんだよなぁ」


 僕の頭の中では、諸肌脱いだ上半身にありとあらゆる刃物を結わえ付けた白髪頭のおじいさん。


「おじいさんの舌はどうしてそんなに長いの?」


 とでも尋ねようものなら


「それはね……常にナイフをペロペロする為さあぁぁぁぁ!!」


 と返ってきそうな人ナンバーワン、ダフトさん。

 もうこれ覚悟決めるしかないのかな、と思いながら先延ばしにしている。もちろん処理した素材は鞄の肥やしになっている。


 しかし微かな突破口も見えていた。そこから技能上達の話にも繋がってくるのだが。

 切欠は砥石。いくら劣化しないと言っても、師匠の薫陶を受けた僕には刀の手入れをしない、という選択肢は無かった。

 しかし刀の手入れ用の器具すらない。師匠には教えてもらっていたので一つ自作しようとあれこれ買い込み、打ち粉を作るために砥石も求めたのだ。うろうろするよりは一箇所で買おうと工房区近くの問屋に出向いて買ったのだが、あれはこれはと質問し、最後に一番目の細かい砥石を尋ねた僕を


「お、坊主は職人志望の新弟子さんかい?」


 と気にかけてくれた店員さんがいた。

 話すうちに職人事情に詳しい、と気がついてからアドバイスを貰えるように話を持っていくと、極々基本的な情報だが教えてくれたのだ。

 そのうちの一つが魔道具職人。


「魔道具はな、ある日魔法使いがいきなり目覚めたように作れるようになるんだ。詳しく聞くと幽界で何かを見つけたらしい。何を?って聞いても何かとしか言わねぇ。職人の秘密なのか、そうとしか言えねぇあやふや過ぎるモンなのか。俺にはわからねぇけどな。んでその何かの力を借りねぇと作れねぇ物らしい」


 鍵は幽界にしかないので部屋にいる時は精神修養を。依頼の時は可能な限り魔法で倒すように心がけている。

 どちらにしろ基になる道具に素材は必要なので、魔物を狩っては素材を全て売るのではなく、一部を自分用に処理してもらっている。質がいい素材で作ればその分、魔道具の質も上がるらしいので、より上位の魔物を一撃で、に主眼を置いている。

 その分ギルドに顔を出す機会が増え、三日に一度はドリスさんに絡まれて遊ばれている。キツい。


 そんな訳で素材も溜まってきたので、手慰みに皮を縫って金属を削りガマ口もどきを作ったり、硬い木の太い枝を落とし、木刀や潮気で痛みかけていた鉈の柄を作り直したりしていると、ある日頭の中で何かがハマった。

 例えるなら部屋にぶちまけた大量の小石を弾いていると偶然一直線に並んだようなそんな感覚。それから物作りに勘が効くようになった。数日でこれだから上達速度上昇の効果だろう。

 

 そういうわけで忙しく動き回る僕は気安くなったアリーシャさん達に、今日も頑張ってるわね、偉い偉い、と頭を撫でられながら日々を過ごしていた。

 そんなある日、今日は休日と決め差し入れ片手に北門を訪ねた。

 

「こんにちはー、どなたか……モーリスさん、ちょうど良かった。これ差し入れです。皆さんで召し上がってください」 


 タイミング良く監督に来ていたモーリスさんと休憩中のガルさんと喋っていると


「そうだ、シュウ君。ダフトが君を訪ねると言っていたぞ」


 衝撃の情報を口にするモーリスさん。

 涙目で何故と聞く僕にガルさんが決まり悪そうに罪の告白を始めた。


「いやこの間な、武器の手入れの事でちっと言い合いになってな。売り言葉に買い言葉でつい言っちまった。『刀みたいな武器なら俺だって手入れにも身が入るんだよ!!』って。ハハハ」


(ハハハじゃねーよ!どーすんだよ!覚悟完了できてねーよ!もう彼女にフォロー入れてやんねーからな!!)


「で、だなシュウ君。後生だからと目に涙浮かべて頼むダフトが憐れでな」


「ま、まさか……」


「わりーわりー、ヤサ教えちまった」


「一応、刀とそこから類推される事柄は誰にも口にしないと誓わせてある。すまんが会ってやってくれないか?」


 モーリスさんに低く出られると断れないじゃないか!

 駄々下がりのテンションではいと返事をするしかなかった。

 早々に北門から月明館に戻る。


「ただいま戻」


「あ、シュウ君帰って来た!まだ近くにいるだろうし、私呼んでくるね!」


 とアリーシャさんが駆け足で出て行く。

 呆然と見送り、おじさんとおばさんに尋ねる。


「あの、何が?」


 聞かなくても想像がつくが、信じたくない。


「ああ、つい先程ダフト老がシュウ君を尋ねてこられてね。不在だと伝えると残念そうに帰って行ったよ」


 僕も残念です。何で真直ぐ帰って来た。


「そうですか……」


 語尾が小さくなる僕に勘違いしたおばさんが


「でも『以前、シュウ君に職人さんの事を聞かれたから興味あるみたいです』って言ったら嬉しそうにしてたわよ」


 いかん、アリーシャさん達は悪くない。笑え、笑うんだ!!


「お気遣いいただいてありがとうございます。楽しみだなぁ!」


 と言った所で後ろから聞き覚えの無い声がかかる。


「そうかそうか、坊主。しかしわしの方が楽しみじゃったがの。鍛冶師のダフトじゃ。よろしくの」


 体の向きを変えながらお辞儀をし


「初めまして、シュウと申します。御噂は色んな方々から聞き及んでおります。こちらこそ宜しくお願いします」


 そう挨拶して顔を上げると、目に入ったのは僕の口上に驚いた顔の好々爺然とした御老人と、なぜか誇らしげなアリーシャさん達だった。


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