8 angel's first awareness (2)
僕が聞き及んだ話を総合すると、『スピーゲルマン博士が日本に超能力研究所の開設を計画している』というのが今回の事件の核心のようだった。その妨害工作のために米国防総省の一部の人間がヒュキアを騙して利用していたらしい。その末端の現地工作員みたいなのが雛胤丹膳だったというわけだ。まぁ奴も全容は把握していなかったらしいけど、一体どういう繋がりなんだ。謎すぎるし闇すぎる。
日本政府側(部署や規模は判らない)は超能力研究所を誘致しようとしていたのか難色を示していたのか、スタンスは不明である。
僕とヒュキアは一緒にアパートを出て、雛胤の事務所に向かう。ヒュキアは今は薙刀用のケースに入れられた銛を持っていた。僕が買ったスキーケースは無くしてしまったらしい。
雛胤丹膳からはスキーケースの代金その他を経費として請求して無事に徴収してあった。きっちりさせるべきところはきちんとしておかなくてはならない。
奴は何をどうしたものか、前の依頼主よりも好条件な商売相手を見つけたとかいう話で、別の雇い主の下でヒュキアのマネージャーのような仕事を続けていた。
僕は、雛胤の更に下っ端の雑用係としてアルバイトをしている。
ヒュキアはといえば、その能力を生かして人探しとか各種の相談ごとに協力する仕事を楽しんでいるように見えなくもなかった。
おそらく僕のバイト代と彼女の給料とでは桁が一つ違うだろうけど。せめて二桁は違っていないことを祈る。
しかし、こうなってくると、デザイン事務所というより探偵事務所みたいだな。あそこは。
「こんないい天気の日は仕事に行くのが勿体無いわね、真菅。」
「それは僕の気持ちを代弁しただけだろう。」
明らかにヒュキアらしからぬ発言だ。
「それに、その『真菅』って呼ぶのはやめてくれないか?僕の名前は八宏だ。」
「八宏。いい名前ね。」
「有り難う。今どき『末広がりで縁起が良い』も無いと自分では思うんだけど。」
「スエヒロガリ?」
無国籍少女は日本語に堪能でも、日本の伝統文化にまでは通暁していないらしかった。
「末広がりっていうのは、えっと……」
説明が難しかった。女の子の前で子孫繁栄とか言うのはなんとなく憚られる。
しかし、こういう肝心な時には超能力を発揮しないのがヒュキアである。
「日本では名前を呼ぶ時に姓ではなく名で呼ぶのは失礼に当たると聞いたことがあるのだけれど。」
姓を呼び捨てにするのも割と失礼なんだがな。まぁいいか。どっちでも。
「そういえば、君の名前の英語表記は誰が考えたんだ?」
「さあ。憶えていないわ。」
そんなものか。
「僕は、君のお父さんが考えたんじゃないかと思ったんだ。」
「そうかもしれないわね。でも、だからといってどうということも無いわ。」
「そっか。」
しばらく無言で歩を進める。