7 angel's dead angle (8)
ヘリコプターのプロペラ音に負けじと、園部鵺は声を張り上げた。
「加えてヘッケルは、ヒュキアの存在について研究所側が今まで隠匿していた件に追及している。民間組織があれほどの戦力……私兵を隠し持っていることは、アメリカ政府への反発と見なされるそうだ。」
「私の存在が明るみに出るように仕組んだのは、カール・ヘッケル自身よ。博士が言い逃れできないようにするために、日本政府に働きかけて公開戦闘のセッティングを整えた。そうしておきながら、私やラゾ・ギドニスが負傷したことに関して、戦力的損害を出してしまったとして博士に責任を取らせようと迫っている。」
「ギドニスが負傷?」
僕が言うと、園部博士が説明してくれた。
「ヒュキアは先刻、ギドニスと対戦して負傷を負わせている。」
雛胤丹膳の依頼主 (つまりカール・ヘッケル) がヒュキアが深追いすることを止めさせようとしたのは、これ以上の損害を出さないようにするためだろうか。
「まさか、スピーゲルマン博士に脅迫状を送りつけたのも、あの男か?」
僕の質問にヒュキアが首肯した。
「ええ。」
「つまり、全部あいつのせいってわけか……」
マッチポンプというか何というか。全て自分で発端を作っておきながら最終的にはスピーゲルマン博士を責めるとは、なんて狸なんだ。この分だと、自分の魂胆を悟らせないことが目的で、ヒュキアをここに来させないよう指示したのではなかろうか。
不意に、茶髪の男が腕を挙げるのが見えた。
銃声が轟く。
それと同時にヒュキアの投げた銛がカール・ヘッケルの拳銃を弾き飛ばしていた。離れた位置で弾丸が跳ねる。どうやらスピーゲルマン博士を狙って撃たれたものらしかった。
直球で博士を消しに来たのかよ。ヘリで。しかも自分の手で。
ヘッケルが痛みに腕を押さえている間にヒュキアが一足跳びに走り寄り、銛を拾い上げた。
ヒュキアに拳銃の狙いを定めていた二人のボディーガードを銛で殴って瞬く間に無力化し、ヘッケルを横倒しにして喉元に銛の先端を突き付ける。
そのまま反動をつけて突き刺せば、刺殺することが可能だろう。
「ヒュキア。やめろ。」
「止めないで、真菅。この男さえいなければ、全ては解決するの。」
カール・ヘッケルが超能力研究所の軍事利用を進めている張本人なら、彼が存在しなければヒュキアの目的は果たされる。ヒュキアの気持ちは理解できたが、僕は彼女に人殺しになってほしくはなかった。