表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テンシノシカク  作者: mamemarome
6 angel's vision
43/58

6 angel's vision (6)

 コンクリートの壁に両手を突いて()き込むと、きいんと鉄筋(てっきん)(せき)の音が反響して耳に残った。少しナーバスになっているのを自覚する。

 ギドニスがフェンスの柱を振り下ろすのと同時に地面のひび割れの中に身を隠し、運良くそのまま球場の地下通路に転がり込むことができた。

 頭上(ずじょう)でラゾ・ギドニスが昏倒(こんとう)するのが感知できた。麻酔銃か何かで眠らされたのだろう。しばらくは目を覚まさないはずだし、目を覚ましたとしても既に両脚を負傷している。自分は次の標的に移るべきだ。

 今なら周囲からの干渉(かんしょう)を最小限にして久留間崎(くるまざき)と対戦できる好機だ。

 ヒュキアは(すき)(ねら)ってギドニスからスピーゲルマン博士の現在地を読み取ろうとしていたのだが、ギドニスは薬で鎮静(ちんせい)されている間のことは曖昧(あいまい)にしか(おぼ)えていないらしく、感知するのは困難だった。

 ヒュキアは左肩を押さえて止血を試みながら、地下通路を歩く。落下時の衝撃でナイフは抜けていた。

 久留間崎の現在地を確認し、そちらに向かうために階段を上る。左手からは点々と血液が(したた)った。階段の出口を抜けた先にはベンチが並んでいて、その向こうに荒廃(こうはい)したフィールドが広がっていた。コンクリートの塊が、あちこちに突出している。その一つの(かたわ)らに久留間崎が立っていた。ヒュキアを視認(しにん)して驚いている。携帯電話を耳元に持ち上げて、ヒュキアが現れたことを報告し、通話を切った。通話先の音声の情報までは感知できない。超能力を(ゆう)していない久留間崎はヒュキアが倒されたと判断してギドニスを狙撃(そげき)させたらしい。

 待機している狙撃手(そげきしゅ)は、球場内に三人、球場外に二人。それらに注意を払いつつ戦闘に入っても、相手が久留間崎なら勝てるだろう。

 ヒュキアは(もり)(かつ)ぐように構えて()け出した。

 その足元(あしもと)に、銃弾が()ち込まれる。

 弾丸の刺さり方から距離と方向を素早(すばや)く逆算する。それはヒュキアの予想だにしていなかった位置からの攻撃だった。

「コーデリア⁉」

 ヒュキアの感知範囲を(のが)れられる距離からの狙撃を可能とする者は、知る限りでは一人しか居ない。視覚、聴覚、触覚などを経由して遠距離から相手の思考までをも視覚的に読み取る超能力者、コーデリア・セオハウス。

 ギドニスと久留間崎がこの場に居るということは、スピーゲルマン博士の直近(ちょっきん)で護衛に()いているのは園部とコーデリアのいずれか(または両方)ということになる。園部鵺(そのべぬえ)は実戦力には含まれないと見なせば、コーデリアはスピーゲルマン博士の近くからヒュキアを狙撃したと考えられる。

 すぐにその地点に向かえば、博士の居場所が判るかもしれない。

 スタジアムの出口に向かおうとするヒュキアの鼻先を、ナイフが(かす)め飛んだ。

「逃がすものか。」

 久留間崎はヒュキアを足止めするつもりのようだった。

 構っている暇は無い。なるべく早くコーデリアをヒュキアの感知範囲内に入れなければ、取り逃してしまう。

 ヒュキアは久留間崎に追われる形で野球スタジアムを縦断(じゅうだん)した。周囲からの射撃(しゃげき)跳躍(ちょうやく)して(かわ)し、銛の金属部分で弾き、コンクリート(へん)を盾にして避けながら。背後からは久留間崎が狙いを定めているため、いつでもナイフを弾き返せるように注意を続ける。

 球場を出て、人の多い方角へ向かった。相手もまさか、人混(ひとご)みでヒュキアを銃弾やナイフの標的にはしないだろう。

 銛を手にして走るヒュキアを物珍(ものめずら)しげに(なが)める視線を気にせず、走り続ける。コーデリアのものと(おぼ)しき銃弾の発射地点に向かって。同時にその方向への探知を繰り返す。

 感知できた。

 コーデリアの気配がヒュキアの感知圏内に入った。移動している。ヒュキアの接近を察知したのだろう。

 携帯電話に着信。通話に出る余裕は無い。今はコーデリアを追わなければ。

 否。園部鵺の現在地が知覚できた。

 そして、ジョン・ジークムント・スピーゲルマンその人の気配も。

 コーデリアが二人の方向に向かって移動しているのだった。このまま追いつけば直接、対峙(たいじ)することになる。

 自分は戦えるのだろうか。コーデリアと。園部と。

 自分は殺せるのだろうか。スピーゲルマン博士を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ