6 angel's vision (1)
週が明けて、僕はいつもの生活に戻った。授業に行って、バイトに行って、普通の人たちと普通の会話をする、そんな生活に。
ヒュキアのことは気になっていたけれど、気になったからといって僕に何かができるわけじゃない。
僕にできることなんか無い。
僕は彼女とは無関係な人間だ。
第一、あんな怪物みたいな超人たちを相手に、どうすればいいっていうんだ?
僕が居たところで手も足も出ないじゃないか。
考えるだけ無駄だ。
ヒュキアのことは早く忘れてしまったほうが僕の身のためだ。
「真菅っち、彼女に振られたんだな。」
畝傍が決めつけるように言った。
「予想を上回る短かさだったな。」
汲沢が溜め息混じりに言う。
僕は声を低くした。
「……振られたわけじゃない。そもそも彼女じゃない。」
「そういうのを痩せ我慢って言うんだよ、真菅っち。」
「俺は一ヶ月、保つほうに賭けてたんだからな、真菅。大損だ。というわけで今日はお前が奢れ。」
「なんで僕が⁉」
勝手に人のことをダシにしておいて、一方的すぎる。
「生憎とお金は無いんだ。」
汲沢と畝傍は気の毒そうな顔をした。
「ああ……貢いじゃったからな」
「貢いでない!!」
「どんまい、真菅っち。」
完全に誤解されている。
「失恋の傷心を忘れる特効薬は新しい恋だぜ!」
「美好も今のところフリーだって聞いてるぞ。チャンスだ、真菅。」
僕は頬杖をついた。
「無理に決まってるだろう。僕はこの間、美好に『あんたって最低』って言われたんだぞ。」
「ってことは、お前のほうはまんざらでもないわけだ。」
「そうじゃない。僕だって今のところ、そういう気分にはなれないんだ。」
「だから気分を変えるためにだな」
汲沢と畝傍は二人だけで話を進める。
「そうと決まったら話は早い。セッティングは任せてくれ。」
「お前らは飲んだり遊んだりしたいだけだろう。」
僕が投げ遣りに言うと、二人が目を細めて僕を見た。
「真菅ー。」
「真菅っちー。」
あからさまに白けたような視線を浴びせられる。
「そんなんだから振られるんだ。」
「失恋の痛手を引きずったって、いいことなんて一つも無いって。」
「だから振られてないって言ってるだろう。」
「じゃあ、まだ続いてるってのか?」
汲沢からの問いの返答に窮する。
いや、ここで流されてはいけない。
「まず前提が間違ってる。僕は誰とも付き合ってない。」
僕がヒュキアと過ごした時間は、付き合うとか付き合わないとか、そういうのとは何から何まで全然違っていた。だから、付き合ったわけでも振られたわけでもない。
「それなら尚更だ。話が早い。」
「決まりだな。」
「だから違うって」
「真菅。気持ちは分かる。」
汲沢は僕の肩に手を置いた。
「辛い現実から目を背けたいんだな。」
「いや分かってないだろう絶対。」
「じゃあ実際のところ、どうだったんだ?」
僕は言葉に詰まった。
実際のところを説明することはできない。
起こったことは常軌を逸していて、彼女との会話は常識を逸脱していて。
僕には気の利いた嘘さえ口にすることができなかった。
汲沢と畝傍は憐れみを込めて僕を見た後、互いに頷き合った。




