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テンシノシカク  作者: mamemarome
6 angel's vision
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38/58

6 angel's vision (1)

 週が明けて、僕はいつもの生活に戻った。授業に行って、バイトに行って、普通の人たちと普通の会話をする、そんな生活に。

 ヒュキアのことは気になっていたけれど、気になったからといって僕に何かができるわけじゃない。

 僕にできることなんか無い。

 僕は彼女とは無関係な人間だ。

 第一、あんな怪物みたいな超人たちを相手に、どうすればいいっていうんだ?

 僕が居たところで手も足も出ないじゃないか。

 考えるだけ無駄だ。

 ヒュキアのことは早く忘れてしまったほうが僕の身のためだ。

真菅(ますが)っち、彼女に振られたんだな。」

 畝傍(うねび)が決めつけるように言った。

「予想を上回る短かさだったな。」

 汲沢(ぐみさわ)()め息混じりに言う。

 僕は声を低くした。

「……振られたわけじゃない。そもそも彼女じゃない。」

「そういうのを()せ我慢って言うんだよ、真菅っち。」

「俺は一ヶ月、()つほうに賭けてたんだからな、真菅。大損だ。というわけで今日はお前が(おご)れ。」

「なんで僕が⁉」

 勝手に人のことをダシにしておいて、一方的すぎる。

生憎(あいにく)とお金は無いんだ。」

 汲沢と畝傍は気の毒そうな顔をした。

「ああ……(みつ)いじゃったからな」

「貢いでない!!」

「どんまい、真菅っち。」

 完全に誤解されている。

「失恋の傷心(しょうしん)を忘れる特効薬は新しい恋だぜ!」

美好(みよし)も今のところフリーだって聞いてるぞ。チャンスだ、真菅。」

 僕は頬杖(ほおづえ)をついた。

「無理に決まってるだろう。僕はこの間、美好に『あんたって最低』って言われたんだぞ。」

「ってことは、お前のほうはまんざらでもないわけだ。」

「そうじゃない。僕だって今のところ、そういう気分にはなれないんだ。」

「だから気分を変えるためにだな」

 汲沢と畝傍は二人だけで話を進める。

「そうと決まったら話は早い。セッティングは任せてくれ。」

「お前らは飲んだり遊んだりしたいだけだろう。」

 僕が投げ()りに言うと、二人が目を細めて僕を見た。

「真菅ー。」

「真菅っちー。」

 あからさまに(しら)けたような視線を浴びせられる。

「そんなんだから振られるんだ。」

「失恋の痛手を引きずったって、いいことなんて一つも無いって。」

「だから振られてないって言ってるだろう。」

「じゃあ、まだ続いてるってのか?」

 汲沢からの問いの返答に(きゅう)する。

 いや、ここで流されてはいけない。

「まず前提が間違ってる。僕は誰とも付き合ってない。」

 僕がヒュキアと過ごした時間は、付き合うとか付き合わないとか、そういうのとは何から何まで全然違っていた。だから、付き合ったわけでも振られたわけでもない。

「それなら尚更(なおさら)だ。話が早い。」

「決まりだな。」

「だから違うって」

「真菅。気持ちは分かる。」

 汲沢は僕の肩に手を置いた。

(つら)い現実から目を(そむ)けたいんだな。」

「いや分かってないだろう絶対。」

「じゃあ実際のところ、どうだったんだ?」

 僕は言葉に詰まった。

 実際のところを説明することはできない。

 起こったことは常軌(じょうき)(いっ)していて、彼女との会話は常識を逸脱(いつだつ)していて。

 僕には気の()いた嘘さえ口にすることができなかった。

 汲沢と畝傍は(あわ)れみを込めて僕を見た後、互いに(うなず)き合った。

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