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テンシノシカク  作者: mamemarome
5 angel's assassin
33/58

5 angel's assassin (3)

 日曜日は晴天で、絶好の行楽日和(こうらくびより)といった風情(ふぜい)だった。実際、行楽に行って楽しむつもりなのであろう家族連れが、電車内にも散見(さんけん)された。

 僕は講演会が行われるという会場に向かう。途中でコンビニでパンと飲み物を買って、会場の近くの公園でベンチに座ってそれを食べ、昼食とした。

 参加予約は済ませてあったので、受付で記名(きめい)をし、場内に入る。予想に反して参加者は多かった。

 (ほど)無くして講演会が開始される。

 受付で渡されたパンフレットによると演者(えんじゃ)は三名で、最初の一人は僕の知らない西洋人、二人目は園部鵺(そのべぬえ)、三人目がジョン・スピーゲルマンだった。

 英語での講演が通訳者によって同時通訳される形式の講演会で、門外漢(もんがいかん)の僕は聞いていて眠くて仕方が無かった。こういうのって、講演者本人がどんなにスピーチが上手でも、通訳者の話術が足りないと残念感が有るよな。日本人の園部鵺が登壇した時には実は少し期待したのだが、彼女も講演は英語だった。

 そして三人目、真打(しんうち)のスピーゲルマン博士が登場する段になって、僕は見てしまった。

 演壇(えんだん)(そで)のところに隠れるようにして久留間崎(くるまざき)とかいうナイフ使いが博士を見守っているのを。

 あんないかにもなスーツに眼鏡のサラリーマン風の男は、今日(きょう)び探してもそんなには居ないだろう。というか真面目な話、博士の(なな)め後ろに(たたず)む人物の顔は、僕がヒュキアに会った日に見た男と同じだった。ジョン・スピーゲルマンがヒュキアの言う『博士』なのか(いな)かの確証は今まで無かったのだが、これで確実になった。

 それさえ確認できれば、もうここに用は無い。講演の最中だけど帰ってしまってもいいくらいだ。さすがにそれは目立ってしまうだろうか。

 僕にとってはスピーゲルマンが何者であろうと、何を(くわだ)てていようと、知ったことではない。ただ人違いだったら僕が間抜けだなぁと思って確認に来ただけだ。最近の知覚学に関しての講演内容になんて興味が無い。退屈なだけだ。

 ジョン・スピーゲルマンの講演が終了し、質疑応答(しつぎおうとう)が始まった。聴衆(ちょうしゅう)の中の何人かが挙手(きょしゅ)をして、マイクを渡され、スピーゲルマン博士と短いやり取りをする。質問が日本語の場合は、通訳者が英語で通訳をしていた。僕にはさっぱり内容の解らない講演だったが、そんな話を真面目に聞いていた人も居るんだな。世の中は広い。

 しかし僕は、そうしているうちに、なんとなく腹が立ってきた。ジョン・スピーゲルマンは終始一貫して飄然(ひょうぜん)としていて、ヒュキアが言っていたような悪辣(あくらつ)非道な人体実験を行っているとは(つゆ)ほども感じさせない。よくもあんなふうに泰然(たいぜん)としていられるものだ。実の娘があんなに苦しんでいるというのに。

 僕は席を立ち、(おり)しも拍手とともに演壇を降りて退室しようとするスピーゲルマン博士が出口のドアを目前(もくぜん)にするタイミングで、席を立って博士に近付いた。

「あんたはヒュキアの父親だな」

 僕が声を掛けると、スピーゲルマン博士はこちらを向いた。無言だ。返事は無い。

「彼女から色々と聞いている。僕はあんたに一言、言いたい。」

「何の話ですか」

 ジョン・スピーゲルマンは日本語でそう問うてきた。日本語の会話ができるのか。

「とぼけるな。あんたは自分の娘に与えるべき権利を与えていない。親として果たすべき義務を果たしていない。彼女にはもっと自由に生きる権利が有るはずだ。」

 僕が(しゃべ)っている間に、園部と久留間崎が早足(はやあし)で接近してくる。他にも数人の係員とおぼしき人間が()け寄ってきた。

 スピーゲルマン博士はあくまで見当が付かないといった様子で、やや首を(かし)げて言った。

「私に娘はいない。」

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