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テンシノシカク  作者: mamemarome
3 angel's square
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3 angel's square (9)

 ヒュキアは大丈夫なのだろうか。僕は目の上を腕で(おお)って顔を上げる。

 砂埃(すなぼこり)の中に、大男が立っている影が見えた。

 その向こうにもう一つ、小柄な人影が立ち上がるのが見える。ヒュキアだ。英語で何か(しゃべ)っている。よく聞き取れなかったが、口調はギドニスを詰問(きつもん)しているようだった。

 大男が咆哮(ほうこう)する。それとともに、地面に倒れていた時計台が動いた。

 砂埃が風で()き消され、視界が開ける。

 ラゾ・ギドニスが時計台の根元(ねもと)を両手で(かか)えて持ち上げていた。

 それを、ヒュキアに向かって振り回す。

 振り回すというより、ぶん回すという感じだ。

 ヒュキアは跳躍して時計台を避ける。

 勢い余ったギドニスは、時計台をショッピングモールの壁にぶつけてめり込ませた。それを振り払うようにして再び逆方向に振り回し、反対側の壁も破壊する。今度はヒュキアは(かが)んで時計台を避けていた。

 こうなると、今まで(ねば)って見物していた連中も、警備員たちまでもが()(すべ)無く退散を始めた。広場に残っているのはヒュキアと緑髪の男と僕の三人だけだ。

 ギドニスは(わめ)き声を上げ、時計台を振り回し、ヒュキアに接近していく。彼女は逃げ回るのが精一杯の状態のようだった。

 その時、突如(とつじょ)として広場に自動車が一台、乗り込んできた。黒いセダンだ。ここって車両進入は禁止じゃないのだろうか、などと思っている場合ではない。自動車は僕の目の前で停止した。運転席のウィンドが開く。

「乗って下さい。」

 運転手である若い女の人が僕に向かって言った。サングラスを掛けている。

 そう言われても、僕だけ乗せてもらって逃げるわけにはいかない。

 僕は自動車を回り込んでヒュキアと大男に近付いた。途中で足元に転がっていたブロック石を拾い上げる。

「ヒュキア!」

 叫ぶと同時に石をギドニスに投げつける。ブロック石は男の肩にぶつかった。大したダメージは与えられなかったが、気を()らす役には立ったらしい。

 ギドニスがこちらを向いた(すき)に、ヒュキアは助走をつけ、銛を支えにして跳躍し、僕のほうに向かって跳び込んできた。

 その銛は高跳びの棒にもなるのか。

 もしかして、空飛ぶホウキって高跳び用の棒のことだったのだろうか。

 そんなことを考える暇も無く、僕とヒュキアは自動車に向かって走る。だがギドニスは時計台を引き()って追いかけてきた。もし自動車に乗り込めたとしても、発進する前に追いつかれてしまいそうだ。

 不意に背後で『ごおん』という大きな音がして振り向くと、時計台が地面に落ちていた。

 それを持っていたギドニスの首の付け根辺りに、小さめの矢羽のようなものが刺さっている。

「即効性の麻酔薬です。」

 先程の運転手の女性が自動車の窓から顔を出し、ライフルを構えていた。

 ライフルで麻酔って、動物園から逃げ出した猛獣みたいだな。

 僕とヒュキアが後部座席に乗り込むと、車が発進する。

 ラゾ・ギドニスが追いかけてくることは無かった。

 一息ついたところで僕はヒュキアに声をかける。

「気にするなよ。」

「何の話?」

「君のスカートの中が不特定多数の連中に見られたからといって、決して君の価値が下がるわけじゃない。」

「貴方は何を考えているの⁉」

 僕は勿論(もちろん)その場の緊張を解いて彼女を(なご)ませるために言ったのだが、あまり効果は無かったらしい。

「見せたくないものを隠すために下着を着用しているのに、その下着自体が見えたからといって動揺する(いわ)れは私には無いわ。」

 どこまでも正論だ。

「……もしかして、君の生まれた島では女の子は服の下に下着を着けない習慣だったのか?」

「ええ。その通りよ。」

「あなたがた、しばらく黙っていてもらえますか?」

 運転席の女性が低い声で言った。

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