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テンシノシカク  作者: mamemarome
3 angel's square
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3 angel's square (5)

 結局、駅の近くに有るボウリング場に行くことにした。

 当初はゲームセンターに足を運んだのだが、入り口に差し()かったところでヒュキアが『音がうるさいから嫌だ』と言ったのだ。

 多分、二人でカラオケボックスに行ってもどうしようもないだろう。他の娯楽遊戯(ごらくゆうぎ)施設というとボウリング場くらいしか僕には思いつかない。彼女とバッティングセンターなんかに行ったら、バットで打ったボールによって施設の器物を損壊(そんかい)しそうだ。しかしボウリングなら大丈夫なはず。

 途中でコインロッカーにヒュキアの(もり)を仕舞うという手段を思いついて駅のコインロッカーまで足を運んだのだが、彼女の身長を超える長さの物体を入れられるようなロッカーは無かった。対角線に沿()って斜めに入れるにしても無理だ。それならと駅の手荷物預かり所に持って行ったが、『中身を確認させて下さい』という係員さんの言葉に、しどろもどろな言い訳をして急いで逃げ去った。不審人物だと思われていなければいいが。

 銛を入れたスキーバッグは持って歩くしか無い。その長さのケースは明らかに目立っているのだが、ケース無しの場合よりは(はる)かにマシだろう。

 そのままボウリング場に入る。

「あれを倒せばいいのね」

 僕が受付の手続きをしている間にヒュキアは周囲の様子を観察して、ゲームのルールを把握(はあく)しようと(つと)めていたらしい。

 彼女はスキーバッグを肩に(かつ)ぐ格好で仁王立ちしていた。なんだかサングラスとサンバイザーを装備させたら似合いそうな気がする。ヒュキアのスカートって、テニス選手のスコートっぽいし。

「ああ、その通りだ。まずはシューズを借りて、ボールを選ぶんだ。」

 受付の手続きにはヒュキアの分は姪森(めいもり)さんのプロフィールを適当に使わせてもらった。スコアに姪森さんの名前が()るのも変な感じなので、名前は平仮名で『ひゆき』にしておく。この二時間弱だけは、彼女は『姪森ひゆき』だ。

 料金は完全に僕持ちになるが、僕が二人きりの会話を気詰(きづ)まりに思った結果なわけだから、別に不満は無い。待ち合わせをして別行動を取るという手も考えたけど、ヒュキアをショッピングモールで一人にするというのにも無理が有るだろう。

 僕は自分の分とヒュキアの分のシューズを借り、レーンに移動する。

 ヒュキアは色が気に入ったという理由で水色のボールを持って来た。重さがどれくらいのものなのかは判らない。こいつなら、一番重いボールでも軽々と持ち上げられそうだ。

 僕が一回目の二投を終えて座席に戻るのと入れ違いに、ヒュキアがボールを持ってレーンに移動した。

 『三つ有る穴の中に指を入れるんだ』と僕が教える前に彼女はボールを肩の上に(かつ)ぎ上げ。

 ピンに向かってボールを投擲(とうてき)した。

 まるっきり砲丸投げの要領である。

 ボールはピンに向かって一直線に飛び、ごん、という音とともにレーンに落下した。ピンには()しいところで(わず)かに届かず、そのままの勢いで五、六本のピンを巻き込みつつ転がっていく。

 ヒュキアはこちらを振り返った。

「残念。届かなかったわ。」

 これ、そういうゲームじゃないから。

 人目を忍ぶために僕はジュースの自動販売機のところまでヒュキアを連れて行き(彼女は僕に引っ張られながらも立て掛けてあったスキーバッグを手に取るのは忘れなかった)、ボウリングのボールは投げてはいけないと説教した。投げるのではなく転がすのがルールだと教えた上でレーンに戻り、ゲームを続ける。

 幸いにして彼女の行為を見咎(みとが)めた者はいなかったらしく(一瞬のことだったから見えなかったのだろう)、騒ぎにはならなかった。

 最初の大暴投を除けばヒュキアのスコアは初心者とは思えない高さで、三ゲーム目からは僕のスコアを追い越してしまっていた。才能というのは恐ろしいものだ。

「こういうのをレジャーのスポーツというのね」

 ヒュキアのそんな感想を聞いた限りでは、どうやら楽しかったらしい。表情からは楽しいのか楽しくないのか今一(いまひと)つ見分けが付かなかったのだが。

 あっという間に時刻がきたので、ボウリング場を後にして姪森さんとの待ち合わせ場所に向かう。何はともあれ、時間を(つぶ)せて良かった。

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