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第三章 ディメンションチルドレン


「次元干渉型?」


 聞き慣れない単語を秋香は繰り返す。


「例えば草士朗くんの植物を生み出す心能力だけど、今のところはこの次元に存在する植物を生み出しているだろう? 

 だけど彼は別次元の植物を呼び出すことができる。まだ彼の順番じゃないから完全発現には至ってないけど、その片鱗は既に見せているはずだ」


 チップによって暴走していた時、草士朗は人の意のままに動く植物を呼び出していた。だがそんな植物、この世界には存在していない。

 アレは別次元から呼び寄せていたのだ。


「『ディメンションプラント』それが彼の本当の心能力。三心教高校の目的は卵の孵化、君達『ディメンションチルドレン』の心能力の発現だよ。君達は次元を超越する心能力を持っている」


 ディメンションチルドレン。それが現存するソウルバディとは異なる、別次元の力を秘めたソウルバディを宿す者達の呼称なのだろう。

 その者達を集め、心能力を発現させる事が三心教高校の目的だとヤナセは語る。


「そんな危ないモノを発現させてどうするんですか?」

「僕にもそこまではわからないよ。世界のパワーバランスを崩さないために保護するのか、研究サンプルとして手元に置いておきたいだけのか」


 現存するソウルバディはこの次元で起きていることにしか干渉できない。 しかしディメンションチルドレンのソウルバディは次元そのモノに干渉する力を秘めているらしい。

 その時点でディメンションチルドレンの力は危険過ぎるし、魅力的過ぎる。よからぬことを考える輩が居てもおかしくはない。

 例えば、今秋香の眼の前に居る男のように。


「僕なら後者だけどね。だって研究家からすれば喉から手が出るぐらい欲しいモノだよ。三心教高校からこの話を聞いた時、僕は天地がひっくり返るほどの衝撃を受けたんだから」


 その時のことを思い出したか、うっとりとした様子でヤナセは捲し立てる。


「第三世代のソウルバディは次元に干渉する。つまりソウルバディはこの次元とは別の次元に干渉できるということだよ。それはもしかしたら、ソウルバディは別次元から来た知的生命体という説が浮上してくるということになる。もし違っていたとしても、次元に干渉できるということは現存の科学が一からひっくり返ることになる。僕は幸運だよ、そんな貴重なサンプルを間近で観測することができるんだから」

「で! 第三世代のソウルバディを発現させる順番が、今回はリンちゃんなんですね」


 完全にトリップしているヤナセを引き戻すため、秋香は声を強めに張った。


「あの二通目の手紙でリンちゃんを焚きつけさせ、ヤナセ先生と接触させることで本当の心能力を発現させることが目的だった」


 その手段として、三心教高校はヤナセが開発したチップに眼をつけた。


「違うよ、リンくんの番は次だ。そもそもあの子の『ディメンションコネクト』はほぼ発現しているし、残りの部分も君の『ディメンションブレイカー』を発現させないと話が始まらない」

「え? うッ!」


 べらべらと語っていたヤナセが不意を打つように素に戻り、秋香に手を伸ばしていた。

 秋香は反応できず、ヤナセの手に握られていたチップを首に取り付けられる。

 その瞬間、秋香は自分の心臓が大きな鼓動を打ったのを感じた。突然全身の機能がおかしくなり、呼吸ができなくなる。

 痛いぐらい激しい鼓動を打つ胸を抑え、秋香はその場に座り込む。


「どうして僕が卵について知っているのに、君を仲間にしたと思う?」

「私が貴重なサンプルだから……ですよね」


 勝ち誇るわけでもなく、澄ました表情でいるヤナセに頭上から声をかけられ、痛みで引き攣った歪な笑顔で秋香は応えた。絞り出すような掠れた声だ。呼吸も荒くなっていく。


「知っていたのに、なぜついて来たんだい? あの二人を助けるためとか?」

「見捨てておいて助けるも何もないでしょ。逆に聞きます。私はどうして逃げられたにも関わらず、友達を裏切ってまであなたについて来たと思います?」

「……普通に考えるなら、僕が君をサンプルとして傷つけないと予想したとか」


 ここで初めてヤナセは怪訝な表情を浮かべ、秋香の行動理由について考え始めた。

 ヤナセの予想に秋香は笑う。この絶望的な状況下に至っても笑い続ける。


「そんな普通なこと、私は考えませんよ。実は最初から知ってたんですよ、三心教高校が私とリンちゃんを利用してあなたに辿りつかせようとしたこととか」


 気付いたのはそれこそ最初だ。法子が秋香に爆破予告の件について、細かく説明した段階で秋香は何かがあると疑っていた。クラスメートの疑いを晴らすためとはいえ、容疑者の一人でもある秋香に頼む時点でおかしいと思ったのだ。

 決定的になったのは草士朗が操られた翌日、三心教高校が秋香とリンに対して何もしてこなかったことだ。いくらなんでも警告の一つも無いのは普通じゃない。それから事件に踏み込むような行動を取っても、三心教高校は何も干渉してこなかった。

 そこで秋香は確信した。

 三心教高校は秋香とリンを犯人の元へ辿りつかせ、何かをしようとしている。その犯人、ヤナセはソウルバディを暴走させる装置を持っている。

 そして秋香が所属するクラスの異常性。ソウルバディに関して問題を抱える集団であること。

 ヴァイの存在も重要な点だ。秋香とリンが危険な目に遭うように誘導しておきながら、最低限の安全を確保している。

 この三つの事柄から秋香は考えた。もしかしてこのクラスのソウルバディは、常識を覆す何かなのかもしれない。

 それを目覚めさせるためにヤナセの発明を利用しているのではないかと。


「知らなかったのは第三世代のソウルバディについてですね。違っていたのは、本当の狙いはリンちゃんじゃなくて私自身だったということなんですけど」


 秋香は苦笑を浮かべる。痛みに耐えながら、それでも笑ってヤナセを見上げた。

 気が狂ったわけでも、諦めているわけでもない。いつも通りの作った笑顔だ。


「君は……いったい何が目的なんだい。そこまで知っておいて、なんで今ここにいるんだい?」


 ヤナセが戸惑いの表情を浮かべる。彼が理解できない、異質な存在が眼の前に居るからだろう。


「わからないことが一つ。第三世代のソウルバディを宿している私を何故暴走させるんですか? リンちゃんの時みたいに、自滅する可能性もあるんじゃないですか?」

「君につけたのは完成品だよ。君達を実験台にして、外部からの命令を受け付けるように調整した。ただ完成品は君に取りつけた一つしかないけどね」

「成程、私を自在に操って、三心教高校と取り引きするか、正規軍の方々との関係を盤石にしようという考えですか。なぁんだ、ちゃんと人生設計してるじゃないですか」


 それを聞かされても秋香は焦るどころか、そう言ってはにかんだ。


「でもその人生設計、無茶苦茶にしようかな」


 秋香は制服のポケットから『それ』を取り出し、ヤナセに見せ付けるようにに掲げた。

 ヤナセが血相を変えた。秋香が取り出したのはヤナセが開発したチップだった。今現在秋香についているものとは別の、先程リンに取り付けられていた未完成品だ。


「本当はこのチップだけで暴走しようと思っていたんですけど、これが完成品だと言うのならこれも必要ですね。ヤナセ先生の思い通りに動くのは、かなーり嫌ですし」

「秋香くん! やめたまえ! 草士朗くんやリンくんを見ただろう! それ一つでも理性が飛ぶんだ、二つもつければそのまま戻らなくなる! やめるんだ!」


 自身の計画が根本から崩壊するのを予感し、憐れみを誘うほどにヤナセは取り乱す。

 全てを失うと確信したのだろう。自分の計画が、やりたいことが、全部台無しになると。


「だーかーらー、友達見捨ててここまで来たんですよ。後戻りとかできないし、ましてや自分だけが無傷で目的を達成するなんて都合が良過ぎる」

「君の目的とはなんだ!」


 迷い無く言い切った秋香に、自身を取り繕うこともせずヤナセは叫ぶ。


「このチップを付ければ本性丸出しになるんですから、見てればわかるでしょ。でもヤナセ先生には一緒に地獄までついて来てもらうことになるかもしれないので、先に言っておきます」


 秋香は自分の身体にチップを押し当て、満面の笑みで答えた。


「復讐ですよ」


 秋香の身体から空間を揺らがせるほどの濃密の心波が溢れ出す。その波動

はヤナセを吹き飛ばし、広間全体を軋ませた。

 それは空間そのものを破壊するような、巨大な力の波動だった。





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