ユーニスとスイカ 日本の夏との邂逅【再】 001
「行くったら、行く!」
叫ぶ魔王様をなかばお目付け役になりつつあるクレアが諌めるが、聞く耳を持っていない。
世界各地を巡り、穢れを浄化するお役目を全うしつつも、数年に一度の里帰りを義務付けられている以上、帰らざるを得ない。まあ、帰るのが嫌という訳では決してないのじゃが、どうも面倒と言えば面倒なのは否めない。
で、今回はその帰島の記念すべき一回目なのじゃが……
夏という季節に何を思い出したのか、魔王様はしきりにどこかに行きたいと捲し立てる。
「いいからこのじゃじゃ馬を黙らせてくれ。ただでさえ暑いのに、鬱陶しい」
ぞんざいな口調で切り捨てた男は、浄化の旅の道連れとなったカロン殿という魔法使い。いや、ただの道連れではなく、ある意味世界の中心点ともいえるのじゃが、此度はひとまず横に置いておこうと思う。
「で? じゃじゃ馬はどこに行きたいと言ってるんだ?」
口調はぞんざいだが、どうやら魔王様以上には聞く耳を持っているらしい。だが、やはりと言うべきか、本人ではなくクレアに問いかけているあたり、魔王様のことを鬱陶しがっているのは事実らしい。
「どこって聞かれてもな……オレもよくはわからないんだが、きっと数年前の夏に行った異世界のことじゃないかと思うんだが」
「そこ! 行きたい!」
「…………」
若干、退行しているような……
カロン殿は半目で魔王様を睨み、それからクレアの言葉を吟味するように、
「昔に行ったことのある異世界、ね……」
「そうだ。てか、境界の名を持つ宿し子なんだから、通じる門を開くこともできるんじゃないのか?」
妙案、とばかりにクレアが口にするが、カロン殿の表情は渋い。
「可能か不可能かで言ったら、原理的には可能だ。だけどな」
うんざりとした顔で青く澄み渡る空を見上げる。その頬を一筋の汗が伝う。
「面倒くさい」
にべもなかった。ある意味、断り文句としては最上じゃないかとすら、ワシは思う。
「行かせろぉ!」
さっきからそれしか言っておりませんぞ、魔王様。大陸で見た蓄音機が壊れた時の動作に似ておるのぅ。
あまりのしつこさに、カロン殿も根負けしたのか、
「夕方だ。陽が落ちてから、夕食までの間にやってみて、何もなかったらそれで終い。その条件なら飲んでやる」
「ホントか?」
「嘘を言ってどうする」
くだらないことを言うな、と言い捨て、カロンは一足先に城へと戻る。
「魔王様?」
ワシが問いかける先、彼女は全身を震わせ、そして弾けんばかりに飛び上がると、
「やったー!」
満面の笑みで喜びを表す。
これは、退行していると言うよりも、なんじゃろうな……そう、普通の元気な少女らしさ、とでもいうべき感じじゃな。
変わった、と思う。クレアと出会い、姫様と親交を深め、そして旅に出て。
魔王ということに誇りを持つ一方で、自身が異物ではなく、一介の少女であることも認識している。そういう風に感じられる。
まあ、魔王様以上に異物感の強いカロン殿のような人がいるから、なおさら自分がまだ普通の範疇であるとの認識も強まるのじゃろうけど。
「では、とりあえず先に報告してしまいましょうか、魔王様」
「そ、そうだった。何のために帰島させられたのか、意味がなくなるんだった」
我に返ったフィア様が歩き出し、ワシとクレアもその後に続く。