先輩様は知らない ※エウゲンサイド
宰相さんの独り言?
先輩様は知らない。
先輩様が普通にこなしている事がどれだけ凄い事なのかを。
この世界で魔王の魔気を側に感じ正気で居られるのは本当に限られた者だけであり、そのお姿を見る事が適う者がどれだけ少ないか。
ましてや魔王が意思を持って言った言葉を弾いてしまうその魔力には脱帽の一言であり、それを簡単にやってのけてしまう辺りが流石と言うべきで。
でもそれを先輩様は知らないのが当たり前であって、それを望んでいるのが魔王そのものであることも。
だからこそ先輩様の存在が特殊であり特別であって絶対無二だという事を。本当ならその事を一番に先輩様に自覚して頂きたい所であったのに、そう出来ない理由は一つ。
この魔皇国で絶対的な立場に立つ魔王に引けをとらない魔力を秘めている相手に言う事ではないから。
魔力がモノを言うこの世界で自分よりも魔力のある相手に何かを仕掛けるなんて消滅させて下さいと言っているようなもの。この長い時に飽きたか、魔力に魅了され自ら滅びを希望した者かどれにしたって迷惑な事は間違いない。
だからこそ魔王直属の近衛騎士隊長までもが意見を述べ先輩様の身の安全を訴え出た。煩わしさから守るためにも王城に居て頂くのが一番確かであり絶対。
その絶対を護る為に上級貴族の娘であり騎士の称号を持つシェアリリーを侍女にし、館の執事としてヴィルヘルムをおいた。ヴィルヘルムが素直に従うかが不安だったが、一目触れた先輩様の魔気に魅了されたのか念押しする前に既に執事としての構えを持っていた相手に釘をさすのは一つ。
「先輩は俺のもの」
リュシアン様が言った言葉はヴィルヘルムだけではなくマデュディデッド魔皇国の魔族全てに言った言葉であり絶対的な魔王の意思。
それでも先輩様を知ってしまえば逆らい難い欲求に直面するのはそれだけ先輩様がこの魔皇国にとってとてつもない魅力を持っているからか。
その魅力でもって魔王様を良くも悪くも魔王にするのは先輩様であり、今のこの良い状態を保つためにも統一を果たした時よりも気を引き締めなければいけない。
「先輩に構うな。あの人がやりたいようにやらせておけ」
先輩様がこのマデュディデッドに来てすぐに言われた事は自由にしておく事。
「誰を受け入れるも排除するも本人の意思でいい」
幾ら血の移行をしていても全てを網羅する訳ではない、それなのに身の回りを自由にする事がどれだけ危険な事か判らない訳ではないのに魔王は静かに言い切り命令として言い放つ。
普段は魔気を抑え生活をしていただく事でなんとか正常に機能している魔城内も、少しの気分の波で魔気が漏れればそれだけで機能しなくなってしまう。
言い切った時の魔王の魔気は一時的に機能を止めていた。
「魔気を、抑えて頂くことだけは・・・」
「・・・まぁ、そうだな。抑える為のやり方をデミシアにやらせろ。あの容姿なら嫌がらないだろうから」
魔力に応じて容姿が決まるこの世界で敢えて自らの身長を止めたデミシアに白羽の矢を立てたのはリュシアン様いわく先輩様が子供に甘いという理由。
確かにデミシアの容姿は幼さを残し先輩様よりも身長が低い。全てが自分よりも皆身長が高いと漏らされていた事からみても適任だった。
「先輩は子供を見ると自然と雰囲気が和らぐからデミシアでも耐えられる魔気にはなるだろう」
「ほぼ無意識に魔気を抑えていらっしゃるんですか?」
「あぁ、意識してではないな」
「リュシアン様」
「・・・・―――なんだ」
「それぐらい議会でも話して頂けると」
「なんで俺が先輩の事以外で話をしなければならない?お前が居るんだから間に合っているだろうが」
無言で終わる議会が多い中で一言発する、もしくは頷くで終わってしまう事を思い返せば、質問したら返事がくる今がどれだけ貴重か。
先輩様と出会う前のリュシアン様は話すとしても単語のみ、会話と言う会話を成されなかった。それが当たり前になっていたから意思疎通で弊害を感じた事はなかったが、地球という惑星の小さな島国、そして何故か小さな町の町工場で先輩様を見つけた時それはもう有り得ない喜びをこの魔皇国にもたらしてくれた。
今まで知っていた魔力の更に上を行く魔力が溢れだし絶対的魔王の地位を魔皇国に知らしめた。
反乱も何も起こせない程の魔力に絶対的な服従は当たり前のように受け入れるしかない。それが魔力がモノを言うこの世界の決まりであり秩序であったから。
「エウゲン・リヒャルドネオ・シェルゲン。先輩様に誠心誠意お仕えさせて頂きます」
私の魔王が魔王である為にも先輩様の全てを護ろうと一個人で誓いをたてる。
「先輩は俺のもの」
「・・・・――――はい」
即答できないのは仕方がないだろう、なにせあの方はとてつもなく魅力的な方なのだから。
話が・・進まない!先輩様を動かしたいです。