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優衣とリュシアン

「ヴィルヘルムはイケメンで俺は?」


「後輩」


何を今さら言っている?後輩が後輩じゃなくてなんだと言うのだ。ちらっと見えたヴィルヘルムの姿につい言ってしまった後から絡んでくる後輩を軽くあしらってはいるが中々にしつこい。


「ヴィルヘルムはイケメンで俺は後輩?」


「だって後輩でしょ私の事先輩って呼ぶんだから」


イケメンにも色々あるんだと説明したほうがいいのかそれとも煩いからほっとくか。ほっとけばもっと煩いし。私の名前を呼ばせない方が悪い、先輩先輩と呼ばれ続ければ後輩と言うしかないじゃないか。


「あぁもう、わかった。後輩もイケメンだよ。うん。イケメンイケメン」


「・・・その言い方絶対思ってませんよね」


「なんで?そんな事ないよ、本当にかっこいいなぁってつくづく思ってたよ。皆言ってたし、こっちの姿はイケメン通り越してるけどね」


本当に眩しいぐらいでサングラス下さいってお願いしたい。言い方がいい加減すぎて気に入らないのかまだ何か言いたげな表情を浮かべている。でも本当の事言ってるんだけど。

とりあえず構って居る暇はない。イケメン執事の取り扱い説明話をしないといけないのだ。


「エウゲンさんさっきの」


「ヴィルヘルムの事でございますか?」


「はい、一瞬だけ姿が見えたんですけど・・・」


「見えたんですか?」


「一瞬ですけど」


「ヴィルヘルムを見たんですか?」


「え・・はい」


「本当に見てしまったんですか?」


「シェアリリー?」


「先輩様本当にあのヴィルヘルムを見てしまったんですか??」


「デミシア?」


代わる代わる何度も見えた、見たと聞かれると何故か焦りが生じてしまう。

見えた事は確かだし後輩も気がついた事だから他の皆も見えたのだと思っていたのだが・・・。


「皆は見えませんでした?」


「ヴィルヘルムは姿を見せない執事でございますから」


「ですから余計に姿を見せた・・・と言う事は」


「先輩様どうしましょう!!」


エウゲン。デミシア。シェアリリー・・・なんて叫ぶし。その悲痛とも取れる叫びに思わず縋る思いでつい後輩を見てしまった。


「・・見えたよね?」


位置的にも多分一番見える場所に立っていたのが後輩だから確認すれば、いまだに何か言いたげな顔して一応頷いてくれた。


よかった・・・私幽霊見てないや。ちゃんと実在してる執事さんだ。


「声が漏れてます先輩様。でもヴィルヘルムを見たと言う事は逃れられません絶対に。リュシアン様が見えるのは魔力の差を考えても当然でございますが、いまだに全てが馴染んでいない先輩様に姿を『見せる』なんて・・・計画的犯行でございます」


いつも穏やかに後輩通訳をかって出てくれる宰相エウゲンが珍しく眉を寄せた。

それがどれぐらい珍しいかと言えばこのマデュディデッド魔皇国の魔王であるリュシアン・ルシエル・マデュディデッドを宰相の目の前で、グーで殴っても微動だにしなかった事から見てもものすごくレアなのかも知れない。

6つの同情の瞳が向けられる。同情?同情なのか??

ちらっとしか見えなかったけど綺麗な美丈夫だった。だいたいこの世界には美形しか居ないのかと聞いて回りたいぐらいに美形率が高く、その筆頭が後輩となるともう目の錯覚を起こす程。

そのヴィルヘルムを見ただけでこんなにも素敵な視線を貰えるなんて。


「・・・・―――――」


居た堪れないこの視線、そんな視線を払拭する為に唯一同情的な視線を寄越さない後輩に首を傾げればため息をつかれてしまった。


「なんでため息?」


「よりにもよってこいつにって相手に好かれたんです先輩は。少しは俺のって自覚もってくれればいいのに」


「え、無理」


「・・・優衣先輩」


どうしてそんな言い方?と、聞きたくなるぐらいの低いトーン。珍しく先輩の前に名前が入っている。

久しぶりに他人に名前を呼ばれて嬉しく思うほどには先輩呼びが定着しトーンの低さは気にしない。


「先輩って呼ばれるよりそっちの方が嬉しいな」


思わず本音を漏らしてみると、


「だから先輩って呼ばせてるんです。優衣先輩を優衣と呼べるのは俺だけですから」


「・・・・――――」


私の名前は優衣と名乗った時シェアリリーもデミシアも『先輩様』だと言い切った。このマデュディデッド魔皇国に来てからずっと先輩様と呼ばれ続けている理由が後輩の意思であったのならそれは納得が出来る。

言葉に意味を持たせ契約させる行為を簡単に行使してしまうのが魔王の持つ魔力で、その魔王の言葉は魔王が意志を持って発せられた物に限って絶対的な効力を持つ。と、確かデミシアに習った気がする。


「魔王の言葉って絶対なんじゃなかったですか?」


思わず教えてくれたデミシアに確認すると一度頷く。シェアリリーもエウゲンさんも頷いている。これって・・・。


「やっぱりあんたが原因ね!私の事を先輩と呼ぶのは橘瑠で、シェアリリーもデミシアもましてやエウゲンさんまで呼ぶことは無いはずよ。だってこちらの世界の事は私より他の人の方が詳しいのだから。先輩呼びするのは私のほうでしょ!」


最初は余りにも普通に先輩と呼ぶから先輩後輩の意味が判らず私の名前が先輩だと思って呼んでいるのではないかと思った事もあった。

どうして先輩としか呼んでくれないのか・・・まさかこんな理由だったなんて


「先輩は俺の特別。だから俺がどれだけ先輩を特別扱いしてもそれは当然であって誰からも責められるいわれはない。俺の特別は先輩だけだから俺以外の者が優衣って呼ぶのは許せない。優衣先輩は俺のもの」


「開き直るな言い切るな!」


「『優衣先輩』が俺のだって事をどうやったら『自覚』してくれますか?」


「瑠?」


今、言われた言葉は変だった。何かが入り込んできそうなぞくっとした感覚を軽く感じ業と名前を呼ぶことで払い落とす。


「流石でございます先輩様」


「エウゲンさん?」


「リュシアン・ルシエル・マデュディデッド。マデュディデッド魔皇国魔王であって、先輩にとって俺は魔王じゃない。いまそれを実証してくれた」


言われた内容が気になるが今自分の意見を言える時ではないらしい。

必死にシェアリリーやデミシア、更にはエウゲンさんまでもが目で訴えてくる。確かに皆が必死になるぐらいな空気が辺りを支配している。


「・・・だから私は先輩なの?」


魔王であって魔王じゃないと言い切る瑠ことリュシアンに言える事はただ一つ。


「優衣先輩って呼ぶなら私はリュシアンと呼ぶ。他の人にもそう呼んでほしい、優衣って名前は『私』だから」


私という所に思いを込めてみた。自分を否定されたくない、たかが名前であるのだがその名前がこの世界での私であれば大事な部分だから。


「優衣はダメ。マイならいい。先輩を『マイ』と呼ぶことは『『認める』』」


『『認める』』といった言葉に効力があるようでその場に浸透し、一か所に光が集い小さな輪が出来飛散した。何が起きたのか驚きで瞬きを数度繰り返せばその意味が理解できてしまう。

魔王とこのマデュディデッド魔皇国での契約が結ばれた。・・・らしい。血の移行って便利だ。

こちらの世界の仕組みが少し遅れで理解できる。完璧に馴染むとこの時差もなくなると言われたけど血が馴染むってちょと複雑な気分だ。

名前一つでこの騒ぎ、今後どうやって過ごしていけばいいのかと途方にくれる。


「マイ先輩様」


「シェアリリー?」


「マイ先輩様ですね」


嬉しそうに呼んでくれたシェアリリーに頷き返せば深々とお辞儀されてしまう。一緒になってお辞儀して思わず抱きついていた。

それぐらい本当に名前を呼ばれたのが嬉しかったのだ。


「改めてよろしくお願いしますマイ先輩様」


「こちらこそよろしくお願いしますシェアリリー」


二人で喜びを分かち合っているのに邪魔をするのはお決まりの。


「優衣先輩」


シェアリリーが呼ぶマイ先輩と後輩が呼ぶ優衣先輩に違いあがるのだと判った事に驚きつつも振り返れば後輩が腕を広げて待っている。

それで、私に、どうしろと?


「―――リュシアン」


その腕に飛び込めとでも言うのか?それは無理だろう、シェアリリーに対しては喜びで体が勝手に反応したがいまのこの状態じゃ飛び込めない。だからせめて名前を呼ぼう。


「優衣」


そうくるか・・・。くっそう、嬉しいじゃないか。どれだけ私は名前に飢えていたんだ。と自問してしまうぐらいに嬉しくて仕方がない。やっぱり名前は大事だよね。


「ありがとうリュシアン」


笑みと一緒にお礼を言えばリュシアンも笑ってくれた。

うん。目がつぶれそう。眼福です。


「優衣先輩はやっぱり特別ですね」


「そう?」


だからどうして特別なのか良く判らないけどとりあえず納得したのか嬉しそうだからもういいかと区切りをつけた。どうせお茶をしに来たのだろうからとせっかくだからお茶を淹れようと、思った時にはしっかりと用意されている。

流石ですヴィルヘルム。


「そう言えば仕事はちゃんとしてきたの?」


シェアリリーが置いてくれたお茶を飲みつつ向かいに座るリュシアンに視線を向けると頷いて返事を返してくる。お茶菓子を摘まみながら甘い紅茶を飲む。お菓子が大好きで良く餌を漁りに私の所に来て居た事を思いだし苦笑が漏れた。


「・・・優衣先輩?」


「なんでもない、ただ、懐かしいなぁって思っただけ。良くそうやってお菓子貰いに来てたでしょ?」


「美味しい栄養補給であって先輩に構ってもらいに行ってましたから」


「・・そうですか」


ストレートに表現してくれるリュシアンに何も言うことは無い。

構っていたつもりはないが来るたびに何かしら言って来るから話を聞いているふりして相槌打って適当に相手をしていただけなんて今さら言えない?

もっともそれでもいいからと構ってもらいに来ていたのだと後からエウゲンさんに聞いて思わず笑ってしまった。


先輩名前にこだわってました

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