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執務室にて  ※リュシアンサイド

「リュシアン様どうか先輩様にこちらにいらして下さるようにお伝え願いませんか?先輩様をあのような小さな場所に置く等あってはならない事でございます」


普段顔色一つ変えずに行動する男がここまで焦りの表情を浮かべ言って来る事に一度視線を向ければ周りの者が動きを止めた。

まぁ、仕方ないのだろう。

『あんたが無意味に視線を巡らせればそれだけ効率が悪くなる。だまって大人しく仕事してろ』と、言われた事がある。まさにこれを指していたのかと追々判った事だが、魔気が強いと言うだけでこれでは先輩をこちらに連れて来た方が余程効率が悪くなるのだろう。


「あの人が決めた事を覆せと言うのかエウゲン?」


業と訴えを言ってきた者ではなく隣に立つエウゲンに問えば、仕方なくと口を開いた。


「あのお方をこちらにお連れした時点から、万が一もしもの事がありましたらリュシアン様が正気を保っていられなくなります。ですから御守りさせてほしいのです。との、訴えでございます」


「よく言った。褒めてやるよ。その立場で俺の身を案じる事は良いことだ、でも例え『もしも』であってもあの人の話をする事は許さない。それに、あの人の視線一つで動けなくなるお前たちに何ができる?」


視線一つ。

たったその一つの動作でこの魔皇国の魔物を魅了し更には動きを止めてしまう。

醸し出す魔力を知らずに纏うあの人に手を出そうとすれば己の身が危険だと一度知らしめなければ理解できないのか。


「現に今だってお前たちは俺の一睨みで動きを止めている。制御を知らぬあの人が感情を持って視線を合わせればそれだけで綺麗に消滅できることを何なら見させてやろうか?今すぐに東西南北を集めるがいい、あの人に手を出せばどうなるかあの人自らが教えてくれるからな」


執務室と言うべき場所がまるで氷の彫刻美術展の様に様変わりした場所でリュシアン・ルシエル・マデュディデッドが魔王の微笑みを浮かべて言い放つ。

そこに集っていた宰相他王城主要人物が一斉に礼をした。


「申し訳ございません。出過ぎた事を言いました」


声色は固いがよくぞ発した。

そんな思いが浮かぶ中地位的な魔力はしっかりと秘めているのだと改めて認識する。

魔力が物を言うこの魔皇国で近衛騎士隊長を務めているだけは有る。


「それはない、俺に言ったお前を褒めてやる。そのままあの人に言っていたのならその場で消すけどな。わかんない?俺がどれだけあの人を待って待ち続けたか。たかが50年お前たちにとっての瞬き一回の時間が俺にとっての無限だって。その無限を待って手に入れた『先輩』を俺がみすみす手放すと思うのか?あの人を好きにさせておけば悪い事は何もない。あの魔力だ、お前たちが近くで味わいたいと思うのも判らないでもないがな」


こちらの世界の50年が瞬き一瞬でも、人間として生きていた先輩の50年はあちらに身を置いて居ればどれだけ長く感じるか。

見つけた瞬間から捕えるまでの長い時間を人間として味わえばその感覚も判るだろうに。もう一度エウゲン辺りにはしっかりと伝えないとダメらしい。そう納得し視線を解除した。

ゆっくりと視線を外せば思い出したかのようにうに息をしだす。その様子を音として聞き机上の書類に目を落した。


「それで?お前たちは俺に何の用だ?」


改めて聞いてやれば深々と頭を下げて退出の旨を伝え出た。この話は無かったことに、それがこの場の治め方だと察したのか踵を返す。

その場に残されたのは問われたエウゲン。


「リュシアン様、私は十分にご理解しておりますのでご辞退を」


「そうか?理解してるというわりにはあいつの動きを止めなかった。結局同じことを言いたかったからだろ?可哀想に無駄に俺と視線を合わせる事に為ったあいつに酒でも飲ませてやれよ」


「先輩様と向き合わなかっただけ優しさだと思いますが。先輩様の魔力は計測不能であってあの纏う雰囲気。穏やかな時でさえ気が抜けないとシェアリリーが申しておりました」


「そこに居るだけで凛とするからな先輩は」


別に怒っている訳でもないのに話しかけずらい雰囲気。

纏っている空気が側に近寄らせない。

話せばいい人だって判るのに何故か近寄ってはいけない。そんな感じ。

それなのに一度笑みを見せるとあっという間にその場を和ます。

不思議な人間だと観察すればその原因があるはずのない魔力だと判った。この世界に存在しない魔気を普段から纏っていたからこそ誰からも怖いと思われていた。

『怖く』等決してないのに。もちろんそう思っている者達も本当に思っていた訳ではない、嫌悪からでもないその感情が魔気だと気づけない。

醸し出す雰囲気が怖いその人が先輩であり、自分の気を引いて離さない唯一無二。

その魔気を物ともせずに、いや、怖さを感じつつも違う魅力を感じて近寄る者も確かに居た。その懐に入ってしまえばとてつもない安心感を感じる事に気がついた者達は先輩からは離れない。誰からも守ってもらえると不可思議にも思っているのだ。実際に仲間と認めた者には甘い性分が先輩の魅力であり彼女を困らせる。


「あの人が俺以外の者と子供を生し添い遂げた。それをただ何もせず見て待っていた俺の気持ちはお前には判るよな?エウゲン」


「えぇ、もちろんでございます。先輩様にちょっかいをかけ怒らせては構ってもらえたと喜んでいた頃が懐かしく感じるぐらいには」


「だよな~。そろそろ先輩お茶の時間だな・・・」


机上から視線を逸らさず全てを終えて最後の書類にサインをすれば自然とその書類が消えていく。そしてまた執務室から人影が二つ消えていた。




リュシアンが先輩のお家に行く少し前の出来事です

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