表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/18

願うは先輩の事

「お前達誰の許しを得てここに入ってきた?」


地を這うような声とはこの事か、城内停止の前に自分達の命が消滅してしまうのではないか?

寒気を覚える程の魔王の魔気に、上級魔力を所持している者数人がかりで蹴破った扉を今すぐに付け直して逃げ去りたいと思ってしまう。


「お許しくださいリュシアン様」





リュシアン様がマイ先輩様とお姿を消してから暫く、城内を取り巻く魔力の層が肌に突き刺す様な空気へと変わり徐々に圧を増してその場を動けなくなるものが多発した。

流石に城内8割を超えた時点で流石にまずいと感じた我々が魔王の私室でもあるこの場所へたどり着くのも容易なことでは無かった。

宰相を初め近衛騎士隊長、面たる魔力保持者が自然集まった扉の前では警護に当たっていた物が何とか持ちこたえている始末。

この扉を護るものが気絶していたら意味をなさないが、

この魔力の放出に片膝で耐えていたのは称賛に値する。


「リュシアン様と言うよりもマイ先輩様の魔気が溢れていますね」


この場で取り乱すことは宰相としての矛先が許さず冷静な見聞をしてみても、

冷や汗が密かに伝って居る事は仕方がないだろう。

近衛騎士隊長ですら眉間に皺を寄せ何かから耐えている表情を浮かべているのだらから・・・。

若干の慣れがこの場に居させているのか青ざめ顔色を無くしながらも気丈に着いてきたシェアリリーにはマイ先輩様への忠誠心が見えて頼もしくも思う。

姿は見せないがヴィルヘルムまでもがこの場に居る事はこの圧を抑えるべく魔気を放出している事で判った事実。

この二人をここまで引っ張ってこれるマイ先輩様が如何に良い主であるか垣間見れ安堵のため息も内心ついていた。

魔王の横に立つにこの方以外は居られないのだろう。


「この扉を開けるのにどれほどの魔気が必要ですか?」


「・・・エウゲン、この魔気はリュシアン様ではない・・のか?」


リュシアン様が出しているのであればお願いするのはもう少し簡単なのかも知れない。

マイ先輩様であるからこそ制御をお願いするのが難しいのだ。

デミシア曰く魔気の制御にはもう少し時間がかかると言っていた。

無意識に抑えようと試みてくれているが何かの拍子に溢れ出す魔気に

何度か館の者達が気を失いかけている現状を知っていればデミシアの意見は正しいのだろう。

魔王並みの魔気を抑える為には意識が相当必要になる。

それを無意識でも制御しているマイ先輩様には底知れぬ恐怖を感じつつ憧憬をも持ってしまう。


「リュシアン様であるのなら試みる術は何通りかある。が、この魔気はマイ先輩様ので間違いないかなシェアリリー?」


「えぇ・・。マイ先輩様でございます。ですが、・・・・」


ですがの後が続かない。

シェアリリーだけでなく、集まった者全員がその場で両膝をついていた。

漏れだす魔気が比重を増し一瞬で膝を尽かせさせたのだ。

誰もがそれなりの装備をし、魔力を高めていたと言うのに一瞬で押しつぶした圧にシェアリリーが気を失い護衛騎士が小さな苦痛を漏らした。

この場の者がこの状態では階下にいる者達は全て意識は保っていないだろう。


「非常事態。で、いいんじゃないのか?」


近衛騎士隊長が言うのなら確かに非常事態なのだろう。

誰が合図を出したわけでなく、その場で意識を保ち堪えられた者だけで一斉に扉を蹴りあげる。

物理的攻撃が一番効くと判っていたからの行動だったが本来なら何度か試さなければ開くことは無かった扉が一度の行動で蹴破れたことは中から発せられたマイ先輩様のお力があってのモノかも知れない。

丁度良く内側から感じた流れに後押しされ見事に吹っ飛んだ扉は爆音と爆風と共に吹っ飛んだ。


「・・・・―――――」


目に飛び込んできた光景に感動を覚えてしまうのは宰相という立場のせいか。

リュシアン様がマイ先輩様に口づけをしているなんて夢の様だとつい緊急事態を忘れ思ってしまった。

マイ先輩様がこちらに来るまでの日々、

八つ当たりやのろけ、苛立ちを一番身近に感じていたからこそ判る感動の一瞬。

あのマイ先輩に口づけ出来るなどあの頃のリュシアン様の立場を思えば奇跡にも等しい・・。

思わず『おめでとうございます』と思ってしまう辺り大分リュシアン様に感化されている。


「魔王に直接触れているなんて・・・。有り得ない・・・」


「だから言ったでしょう、あの方は同等のお力を秘めていらっしゃると」


「あぁ、本当に尊い御方だ」


そこ、感動しないでください。

扉が破れリュシアン様がマイ先輩様の魔気を抑えている事で正気に戻った護衛と

シェアリリーの会話につっこみ処は満載だが、一難去ってまた一難。

今度はリュシアン様の怒りの魔気が溢れ出している・・・。






「お許しくださいと言うのなら態度で示せ」


マイ先輩様の魔気を抑え込み意識を失わせた状態で大事に抱きかかえる姿は、

個人的に微笑ましいが言われている事には肝が冷えていく。

魔王の私室の更には奥に繋がる扉を蹴破った事は確かに責められても仕方がない。

だが、こちらの言い分も判ってほしい。

城内全て機能停止し城外へと被害が生じたらその事を知ったマイ先輩様がどう思うか。

外れにある屋敷からヴィルヘルムが飛んでくるぐらいなのだから

マイ先輩様の魔気が其処まで伝わっていた事は事実でありこの後ヴィルヘルムを

抑え込むのも考えただけで頭が痛い。

一瞬で飛散した魔気の力にあれはなんだったのだと言いたくなるほどの今の静寂。

清々しい程の凛とした空気。

浄化作用でもあるのかと思えるほどの気持ちよさ。

マイ先輩様の魔気はこのような作用も生むのかと新たな発見をしてしまう程。


「この場の責任は全て私にございます。他の者を罰することはなにとぞお許し下さい。・・・・リュシアン様そのお顔は」


腕を胸元に置き片膝を付き述べれば他の者達も後に続いていた。

その事にどう思ったのかリュシアン様の魔気が抑えられていく。

ふとあげたその視線の先に赤くなっている頬。

魔王に傷を負わすことなど皆無と言われているのに赤く染まる頬が物珍しく映ってしまう。


「この人をからかった代償だ。気にするな」


万が一、傷を負っても直ぐに治る筈なのに色を残している。魔王に傷を負わせられる唯一無二。

それがマイ先輩様だと言うのか・・。


「・・・・んっ・・シェアり・・」


「はい!はい、マイ先輩様。シェアリリーはこちらに!!」


本当に微かな声だったが魔王の私室と言う事もあり静まり返っていたその場には大きく響いたそれ。

直ぐに反応し一歩二歩と動いたシェアリリーにリュシアン様の視線が動向を伺っている。

大事に抱きかかえていたマイ先輩様が意識を取り戻すのにそう時間は掛からず、

無意識に呼ぶ声に侍女であるシェアリリーが応えたのだ。


「優衣先輩」


「瑠・・じゃなくて、リュシアン。頬冷やしなさいよ」


何処かぼんやりしている様なそんな風に取れるもゆっくりと伸ばされた手が

リュシアン様の頬へと触れ優しく撫でる姿に何故か見てはいけないものを見てしまった気分になってしまう。

そう思ったのは一人二人じゃなくその場の者が一瞬にして視線を落した。

この場に婦女子が居れば悲鳴が上がっているのではないのか?


「やっぱり優しいね優衣先輩」


頬に触れた手を握りその手のひらに口づけを落す仕草に家臣としては喜ばしいが、

時と場所を考えてやって頂きたい。

いや、場所は正しいのだが。


「・・・優しい―――わけ、ないでしょうが!この痣が取れるまであんた私の家に出入り禁止よ!!」


バチーンと派手な効果音と一緒に両手がリュシアン様の両頬を思いっきり挟んだ。

まさしくダブル平手を一度でやってみましたを再現したマイ先輩様は

叩かれた事により力が緩んだその腕からすかさず逃れ、


「ヴィルヘルム、シェアリリー、家に帰りましょう!!!」


両腕を広げてこちらに向かって走り出す。

姿を見せない執事であるヴィルヘルムをしっかり認識し名前を呼ぶことに、

扉を警護していた騎士が周りを見回す姿は当然だった。

姿を見せない執事の名前は有名であり『ヴィルヘルム』の名前は恐怖の名前でもあるのだから。

その台詞と同時にリュシアン様の伸ばされた手と、マイ先輩様、ヴィルヘルム、シェアリリーの気配が消えるのはタッチの差。

虚しく空を切ったリュシアン様の手が掴む物の無い形で伸ばされていた。


「流石でございますマイ先輩様」


魔王を出し抜くその手腕。是非とも見習いたいものです。


「エウゲン、アイザック、二人で扉直しとけ」


宰相と近衛騎士隊長が二人で直す。

もちろん喜んで直させていただきます。

微かに合図を送り他の者を退出させた後、部屋に残るのが魔王、宰相、近衛騎士隊長。

誰もがこの場に居たいとは思わない面子の中、

一番最初に表情を崩したのは職務中は決して素を出さないアイザック・マシュー・ボウドマン。


「最高だなマイ先輩様は!」


一度笑い出すと止まらない男が笑い出した事に冷たい視線を向けてみても

気にする素振りも見せず只管笑って居る。


「リュシアン様少しは気が晴れましたか?」


「・・・まぁ、な」


悪戯が成功したような笑みを微かに見せた所で馬鹿笑いしていたアイザックの笑いがぴたりと止まった。


「冷やしますか?」


「魔力じゃ治らないなら冷やすしかない?のか・・・」


不思議そうに聞くアイザックの疑問はこの世界なら当たり前。

どんな傷も魔力で治しているこの世界で、それが効かない事が不思議で仕方がないのだろう。

でもあちらの世界を少しでも知っていればその対処法は自然と判っていた。

もちろんマイ先輩様自ら冷やしなさいと言っていたのだ、その方法が一番ベストなのだろう。


「とりあえず持って来い。で、城内の被害は?」


すぐさま冷やす物の手配を整え運ばれてきた原始的な濡れタオルを手渡し

魔王自ら頬に当てていると言う何とも言えない姿を前に上がってきた被害報告を告げる。


「ほぼ意識を失ったらしいですが中には耐えていた者も居るようです。その後流れた浄化の魔気で正常に戻り今ではその害は一切ございません」


「へぇ・・そいつらを先輩の増員にあてておけ。多少無茶振りだったがこれで暫らくは先輩の魔気が溢れる事は無いはずだ。今のうちに会わせたい奴を厳選し会わせるもよし、外に出すのもよしとする」


「その様に致します。それにしても街へ出す為だったのですね」


「本来あの人は自由に過ごすべきだと俺は言ったはずだ。それを制限していたんだからいい加減鬱憤が溜まっているだろう。増員要員も揃ったんだアイザックお前に任せたぞ」


「魔皇国の宝珠、しっかりと護ってみせますよ」


「魔皇国のじゃない、俺のだ」


リュシアン様が願う事、それは全てマイ先輩様の事。


アイザックさんは笑い上戸です

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ