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好き嫌い撲滅委員会

読んでくれてありがとうございます。

「優雅にランチですか?微笑ましいですね。護衛騎士まで一緒にみんな仲良く楽しそうな所に申し訳ありませんがそろそろ執務に戻って頂けませんかリュシアン様」


微笑ましいと言うその口で棘が飛んでいるのは何故?

私はともかく護衛騎士の二人が固まっている。

ましてその顔が笑みを浮かべていると言うのに、まったくもって目が笑っていない!

美形を怒らせるとブリザードが吹き荒れるのか穏やかな気候だったのに何故か無性に肌寒いし。


「エウゲンさん・・・あの、護衛騎士さん達に食事を勧めたのは私なんです。それにちゃんとリュシアンの許可も・・・」


しどろもどろって言うのだろうか中々言えないこの雰囲気。

えぇ、もちろんエウゲン宰相様は決して怒っては居ません。

むしろ機嫌が良いのか笑顔を浮かべています。目は笑って居ませんが。

小さくお腹が鳴った後、手際よくランチの準備をしてくれたシェアリリーに一緒に手伝ってセッティングしてくれた護衛騎士。

その間、仲良くなったばかりのウィリディスとじゃれて居た私が悪かった。

そうだ、リュシアンを帰さなければ行けなかったんだ・・・。


「リュシアン、私は大丈夫だから戻って」


なんでだろうリュシアンに言うのは簡単だ。

私が言った後、何故か後ろの方から息を飲む音が聞えた。

戻れって先に行ったエウゲンさんまで目を開いてる。あれ?戻って欲しいんだよね?


「・・・・・食事中です」


「うん。だね。でも仕事終わらせてないんでしょ?仕事をおろそかにする者は・・・」


「エウゲン。お前は無能なのか?」


「あ、それってやつあたり。リュシアンの仕事をエウゲンさんが代わりにやってくれてたんでしょ?あの、エウゲンさん。お昼まだでしたら一緒にどうですか?リュシアンもまだ食べてるし、食べ終わったら戻ると思うので」


ちょうど食べようと思ったクロワッサン風サンドイッチの乗ったお皿を手に持ち誘いをかけると目も笑っている笑みで答えてくれた。


「私までよろしいんですか?」


「えぇ、もちろん。大勢で食べたほうが楽しいですし、それに本当に美味しいんです」


「それはそれはマイ先輩様ありがとうございます」


「お前、それが目的だろう」


リュシアンの一言に今まで黙って事の成り行きを見守っていたシェアリリーに護衛騎士までが頷いてた事は私は知らない。


「野菜食べなさい野菜。身体に良いんだから」


「サンドイッチに入ってたのは食べました」


「人参だって美味しいのに・・・ね?」


サンドイッチと一緒に添えられていた人参のグラッセを器用に残し他を食べているリュシアンの姿に

思わず手を伸ばしてしまった。

これも前世の癖と言うべきか子供や孫に食べさせていた記憶そのままについ口元まで持っていく。


「美味しいでしょ?」


「・・・はい」


「好き嫌いしてたら作ってくれた人に申し訳ないんだからね、自分の為にも相手の為にも食物の為にも食事は美味しく頂きましょう」


「「「「はいっ」」」」


あら、いい返事。

思わず嬉しくて笑ってしまう皆の返事にランチがますます美味しくなった。


「流石でございますマイ先輩様。リュシアン様の手綱をしっかりと握っていらっしゃる」


感動しきりのご様子でエウゲンさんがプルプルしている。

何に感動する要素があるのかは謎だが好き嫌い撲滅委員であった私からすれば

当たり前のことをしたまでだとどう説明したら判ってくれるだろうか・・・。

感動されても困るのだ。

もし、感動するのであれば嫌いなものを食べたリュシアンに対してだろう。

昔から会社の忘年会や送別会で食事をする機会があったけど、

その時時間が立てばいつの間にか離れていた席に居た筈の後輩が私の隣に居た。

その都度、何度料理を取り分けて居た事か。

取り分ける事が当たり前になり自然とやっている時点で気がつくべきだったのに、

その当時は全くもって気がつかずせっせと取り分けては食べさせていた。

当たり前のように隣に居れば一人だけ食べる訳にも行かずつい世話を焼いてしまう。

これが大皿料理の面倒な所であり、中を取り持つ良い部分?

ほっとけばいいんですよ。等々別の同僚に言われもしたが、

好き嫌いセンサーに引っかかった事から取り分けてしまった私が憎い。

懐かれた原因は全て食事に関わる事なのか・・・。


「違います。これは習慣です」


きっぱりと言い切れる。

そう、これは絶対悪習慣。甘やかすのも程々に。


「優衣先輩は前から俺に優しかったですよね」


うっとりとした表情なのか?

護衛騎士がいるせいか余り表情は変わっていないけど、

嬉しいなオーラが出ているリュシアンに、


「あんたが甘ったれなだけでしょ!」


私は橘瑠の母親か?と、何度前世で自問自答したことか。

今世になっても同じことをついやってしまう事にやはり母親なのかと思えてしまう。


「俺、先輩にしか甘えませんから覚悟してくださいね」


「・・・・――――無理です」


楽しいランチの筈なのにリュシアンの笑みが怖すぎました。

前世の時よりも見た目は逆転した筈なのに、精神年齢が追いついていません。

エウゲンさん曰く、私にしか見せない表情を多々浮かべた魔王リュシアンの姿に

護衛騎士がその後トラウマになったなんて私のせいではありません。


「ねぇ、リュシアン。あなた恋人は居ないの?」


どうせなら恋人にやってもらえばいいと思う。

好き嫌い撲滅委員は出来れば身内より恋人がなった方が克服度が格段にアップするのだ。

好きな人が褒めてくれるなら頑張れる!といった意識が出るらしく

嫌いなものでも彼女が勧めてくれたなら食べますと言う報告が多々上がっていた。

もちろん前の記憶では。

母親代わりの私より、好きな彼女から色々言われれば我が侭でお子様な性格も治るかもしれない。


「なんですかそれ」


「いや、だから、好きな人とか付き合ってる人」


「・・・・・・―――」


「リュシアンが好きな人に私この役目譲りたいなぁって・・」


前世で散々世話したのだからもういいんじゃないだろうか。

魂になって捕まってこの魔皇国に転生させられて、

まぁ、そこまで付き合ったのならお互いに自由になろうよ。

内心で思って居た事が伝わったのか顔つきが・・・。

周りの空気が・・・。

あれ?寒い?


「先輩、俺に言ったあの言葉は?」


あの言葉。

血迷った後輩に告白されて言い逃れをしたあの台詞。だと言う事は今さら聞かなくても判ってる。

判っていても判りたくない事ってあると思う。


「・・・来世で一緒になれたじゃん。今こうして一緒に居るんだから。コンプリートってやつじゃない?」


この空気に負けない!だから食べるし飲む。

シェアリリーが淹れてくれたお茶は暖かい筈なのに口に含むと冷たく感じた。

自然と距離がおかれている私とリュシアン。

逃げ腰ではない、自然とずれただけ。


「エウゲン」


「承知しました」


なにそのやり取り。たった一言リュシアンが言ったらあっという間に他の皆がいなくなる。

居なくなれなんて言ってないのに。

エウゲンさんも承知しましたって言ったけど、私は承知してないし。

皆が席を外すなら、私も一緒に連れてって。

それが本心。

そしてそうさせないのが目の前のリュシアン。


「ねぇ、先輩。俺の恋人が誰か知りたいですか?」


「ううん。大丈夫」


速攻で首を振ってしまう。


「あの時、俺が告白したの覚えてます?」


「・・・私一度死んだから。ちょっと記憶が・・薄れて・・」


痛い。視線が痛いです。


「判りました。言葉で足りないんですよね、だったら、その身体に覚えてもらいましょうか。丁度血の移行を完璧にするためにも良い頃合いですし。俺の気持ち、先輩もらってください」


「ご、ごめんなさい。私イケメン無理なんです。ご辞退させて下さい」


これをイケメンと呼ばず、何をイケメンと呼ぶ!

言い切れるぐらいの美丈夫がどんどん近寄る事に本気で泣きたくなってしまう。

後輩だと割り切っていたから受け入れられるその容姿。

余りにも桁違いの美丈夫に言い寄られて、誰が信じると言うのか。

一般的な平凡顔だった私がそれを受け入れる訳がない。

夫と子供がなんて言い訳で、例え独身であったとしても受け入れるには恐れ多い美しさ。

見て騒いで楽しむようなアイドル的な存在だったなら受け入れられても、

リアルで告白されて受け入れられるキャパはもって居なかった。

もちろん生まれ変わったって同じだろう。

見た目が変わったって、中身はまんま私なのだから・・・。


「ウィリディス、助け・・・」


最後まで言わせてくれなかったリュシアンをこの時ばかりは恨んでやる。

最後の“て”を言う前に視界が反転し軽い眩暈と一緒にはっきりしたことは、

最初に目を覚ました寝台の上だと言う事。


「俺の恋人が誰か、その身を持って知ってください」


「・・・・いやです」


楽しいランチのはずだったのに。絶対絶命のピンチです!



先輩がんばれ!

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