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 やぁ、目が覚めたかい?


 驚いたよ。あんなことをされた後だというのに、キミはまだ君として存在している。こんな何もない空間で、まだ自我を保てている。これは非常に興味深いことだ。

 えっ、私が誰かだって? わざわざ教える気はないし、その必要は感じられないな。例え私が男か女か、子供か年寄りか分かったところで、君にとってなんの意味もない。

 まぁ、それでもキミが話をしたいというなら、勝手にしてくれ。どうせ残り少ない時間だ。せいぜい楽しませてくれ。もしかしたら新たな発見ができるかもしれないし。無論、キミの末路はすでに決しているが。

 

 そうだな。不毛なやり取りもすんだことだし、まずは私の目的でも話してやろうか。私がキミに接触した目的はただひとつ。キミが最後にイノヴェーションをプレイしたときに戦ったあるアバター、彼のデータの収集だ。

 ん? イノヴェーションとは何かって? おいおい、それはないだろう? キミが死ぬほど夢中になってプレイしていたゲームだぞ。どうやら記憶のほうがやられているようだ。修復の必要があるか……。仕方がない。教えてやろう。まったく、余計な手間をかけさせてくれる。

 イノヴェーションとは、プレイヤーが傭兵となって、様々な任務をこなしていくゲームのことだ。これだけ聞けば、どこにでもありふれたモノだが、こいつは違う。こいつはプレイヤーの脳を直接コンピュータに接続し、意識を仮想空間に送ることでプレイする体感型のゲームなのさ。コントローラーなんてわずらわしいものは必要ない。仮そめの世界の中を縦横無尽に駆け回り、自分の手足を使って行動するんだ。たとえ体に障害があったとしても、意識さえ生きていれば誰でもプレイできる。まさに科学の進歩の賜物さ。まぁ、同時に犠牲もつきものなんだけどな……。それはひとまず置いておこう。

 誰に決められることもなく、依頼を受け、チームを組み、銃の引き金を引く。現実の司法機関が行うような任務や特殊部隊による作戦行動。諜報機関の潜入活動。破壊工作や暗殺といったダークな仕事まで、人々のスリルや欲望を刺激するミッションがてんこ盛りだ。報酬だけを貪欲に求めるもよし、誇りを持って任務にあたるもよし。選ぶのは自分自身、プレイスタイルは自由自在だ。

 男も女も、子供も大人も関係ない。仮想空間なら姿形なんて自由に変えられるし、身体能力なども大差はないからね。例え運動オンチであったり、不細工な顔つき、体つきであったとしても、ゲームの中ならば自分の理想の姿になれる。それだけが目的でプレイする連中もいるくらいだ。

 今では世界の大多数の人間がこのゲームにハマってる。領土、人民、権力、ましてや国籍、国家なんてものは意味を成さない。求められるものはただひとつ。ゲームの腕前だけだ。それさえあれば例え人格に問題があったとしても、プレイヤーたちからは賞賛される。私の話し相手であるキミみたいにね。

 まったく、たいした技術だよ。このゲームは良くも悪くも人間の欲望を喚起し、増幅させる。そうすることで人々の購入意欲を煽り、うまくマーケティングを行っている。何せ苦労することなく自由と理想の体が手に入るんだからね。たとえ仮想空間の出来事であったとしても、大抵の人間ならば魅力的に思えるはずさ。おかげで売り上げはうなぎのぼり。シェアはどんどん広がってる。このまま宇宙まで到達しそうなほどにね。


 ひとつだけ言っておこう。私はある真実を知っている。

 キミたちが夢中になってプレイしているイノヴェーション。仮想空間で人殺し、戦争ごっこをするくだらないゲーム。

 もしもあれがただ人を楽しませたり、金儲けのために作られたものだと思っているのなら、それは間違いだ。アレはゲームなんて生易しいものじゃない。そのウラにはとてつもなくエグい真実が隠されているんだ。

 キミはこのような状況下に置かれているのも、イノヴェーション本来の目的のためだ。過ぎたるは及ばざるが如し。キミはやりすぎてしまったんだよ。

 不運にもキミはヤツら、企業の連中のお眼鏡にかなってしまった。ヤツらはキミのことを調べ、試すために彼を差し向けた。真の目的を果たすためにね。

 私はその動きを察知し、イノヴェーションのホストコンピューターをハッキングすることで、キミの存在を認識したんだ。そのおかげで、私は彼に関する手がかりを掴むことができた。その点だけは、キミに感謝しているよ。

 私はヤツらの野望を叩き潰してやりたい。私や仲間たちが大損害を被る前にね。そのためには、どうしても彼のデータが必要なんだ。だからこうしてキミと話をしてるんだ。


 キミか? キミのことはどうでもいいな。正直に言って、私はキミのことが大嫌いだ。現実をないがしろにし、親が泣いている間に殺人ゲームに熱中する……、まさに社会のゴミ。いや、ヤツらにしてみれば格好の素材か。私にとってもそうだけどな。

 

 キミの波長に変化が起きた。急いだほうがいいな。

 これから私はキミに真実を話そう。企業の連中が何故イノヴェーションを世界に広め、人々を仮想空間へと誘ったのか? そして君が何故こうなってしまったのか?

 少なくともキミは知る権利がある。こうして私の役にたっているし、もうすでにキミは真実の一端に触れているんだからね。せめてものお礼というヤツさ。

 だけど真実を話す前に、どうしても言っておきたいことがある。


 おめでとう人殺し。キミは最低の屑ヤロウだ。


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