表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/18

五話 曲がった鍵は戻らない

 自らの武器を奪った道化師を魔法少女は睨む。

 が、その目には涙が浮かんでいて、どう見ても威厳だとか恐怖だとか、そんな言葉とは縁遠く、逆に可愛らしい。


「返シテって言われても……ソウ自在に出し入れデキル物デモないんだよ」


「なっ!?君、何処からか自在に武器を出し入れしてるじゃないの!!」


 道化師は冷静さを失ったフォルテの声に、どう対応したものかと考える。彼自身として、リンドブルムを返す事は問題ないが、返せないというのは本当なのだ。

 しかし、それを説明するには自身の能力を説明しなければならなく、それは余りにも危険だ。

 結果、真実と嘘を織り交ぜた理由を説明せざるを得ない。


「僕ノ能力は『空間転移』サ。デモ、それは一方通行ナ物で、特定の場所にある欲シイ物を取り出ス、傍にアル物を飛バス、の二ツだけさ」


「本当、なの?」


『嘘はついてないと思うわ。能力も矛盾はない』


 剣で斬っても斬れない理由以外は。と、アリスは考えたが、それは言わずにおいた。彼女の言葉は、フォルテ以外には聞こえない程に抑えられた音量であり、彼女にこの事を教えた所で、状況が好転するとは思い難い。

 魔法少女フォルテは感情全てが強くなってしまう。それは雪夜の性格とは正反対であるが故に、フォルテは自身の感情制御が下手なのだ。不必要な情報は、自分達にとって不利になる可能性も高い。


「う、うぅーー!!」


「マァ、時間は掛かるケド、返す事は約束シヨウ。それじゃ駄目かい?」


「本当に!?あ、でも、それまでの武器どうしよう……」


「ソコまでは……。ア、良かったらアレ使うかい?」


 アリスが本当に戦闘中なのかとツッコミたい衝動を抑え、道化師が適当に指した先を見ると、地面に刺さっても燃え盛る大剣が刺さっていた。


『嘘、レーヴァテイン?』


 驚きの声をあげるアリスにフォルテが囁くように聞く。


「すごいの?あれ」


『うん。罠かと疑うくらい』


 異世界で女王が振るっていた武器の一つであり、アリスの記憶にも残る程の武器を、くれると言われても信じられない。が、あの道化師が騙し討ちをした話は聞いた事がない。

 アリスの言葉は気になるが、武器も無しに怪人との戦いに勝てると思う程、フォルテは自惚れてはいない。道化師から視線を逸らす事はなく、地に刺さる大剣の元へと降り、その柄へと手を伸ばすと熱く心地良い魔力が彼女の体を駆け抜ける。


(リンドブルム程ではない、けど……)


 良い武器だ。という事は、それだけで判断出来た。穴を埋める事は出来ずとも補う事は出来る!

 そう判断し、再び大剣レーヴァテインを引き抜き道化師を睨みつける、が……。


「フーハッハッハッハ!新しい武器も手に馴染むマデは時間ガ掛かろう!今日ハ、コノ辺で帰るとスルヨ。また、会おう。魔法少女フォルテ!」


「ちょ、ま、少女って言うなーー!!」


 フォルテの叫び声も虚しく道化師は、あっさりと姿を消し、呆気に取られた観衆とフォルテだけが取り残された。






 人気のない道路のビルの陰から金色の光が漏れる。

 その直後、鞄を持った女学生……雪夜が、隙間から歩いて出てくる。


「鍵も財布も、持ち歩いてるんだから、わざわざ鞄を取りに来なくても明日で良いんじゃないの?もう日も沈んでるのよ」


「そうもいかないわよ。勉強もしなきゃいけないし」


「怪人と戦った後は疲れて寝てる事の方が多いと思うんだけど」


「うっ……」


 知らない人から見たら独り言にしか思えない奇妙な光景だが、よく見ると雪夜の周りを光り輝く小さな人が飛んでいる。その妖精にしか見えない女の子こそが、通常時のアリスだった。

 人の気配がない時は姿を消さず飛んでいる事の方が多い。それは、雪夜が「見えない人とは話し難い」と言ったのが始まりだが、アリスとしてもまんざらではない。

 

 家の近くで変身を解けば5分程度の時間で帰宅できるのに、わざわざ変身したビルまで戻ったのでは、30分は掛かる。忙しい日々を送っている雪夜にとっては大きなロスだが、それでも、鞄を一晩中、適当な場所に置いておくのは不安である。

 安眠を確保する為なら、30分くらいなら我慢しようと思う。それに、今日はアリスと話したい事もあるのだから丁度いい。


「アリス、黒髪の道化師。どう思う?」


「強いわね、間違いなく。ステータスも信じない方がいいわ。でも、過激派ではないみたいね」


 アリスの評価は概ね、フォルテが考えていたのと似たような物であった。特に本人が『空間転移』といってた特殊能力は油断が出来ない。今日、確認しただけでも、遠くの物を呼び出す。敵の遠距離攻撃を消す。自分自身を転移させる。の3つの現象を使いこなし、どれもが強力だ。

 その怪人、黒髪の道化師への対策、これからの方針を話していると、30分という時間はあっという間に過ぎ去り、雪夜が一人暮らししているボロアパートに辿り着いた。

 駅からも離れているが学校に近く、フロ、トイレが別であり、外見も手入れされていて、見た目からは、そのボロさが目立たない。古臭い内装や薄い壁は気にはなるが、その格安の家賃を考えれば目を瞑れなくはない。

 唯一、気に入らないのは「世界征服機関傘下」の物件である事だが、管理人の老夫婦が自分達で管理するのも大変なのだろうと住んでいる自分に言い訳をしている。

 そんな、何処にでもありそうな二階建てのアパート華月が彼女の住処だった。


「さて、鍵、鍵、っと……」


 手探りでブレザーの内ポケットから鍵を出し、鍵穴に入れようとして……入らなかった。


 ガチッ


 という妙な音を立てて途中で止まる。よく鍵を見てみると、言葉にはしたくない形状に曲がっている。


「あーあ、今日の戦いは激しかったからねぇ。どこかで曲がっちゃったみたいね。ま、おやすみなさい、雪夜」


「ちょっと、アリス……?」


 気ままな妖精は、そのまま自宅のドアを擦り抜けて家の中に入る。流石は異世界人と感嘆したい所だ。アリスに鍵を開けて貰えれば楽なのだが、彼女の力では開けられないのは数年前に実証している。

 雪夜は肩を落として予備の鍵を作る為の費用なんかを考える。


「仕方ないか。大家さんに謝って、鍵を借……」


 大家である老夫婦は、アパートの向かいの一軒家で暮らしているのだから、慌てる必要はない。そう考えて振り向いた所で、彼女の優先順位は鍵の費用ではなく、どうやって家に入るかに入れ替わった。

 いつも家に居るハズの大家宅の電気が今日に限って点いていないのだ。一応、念の為にチャイムを鳴らしてみるが、反応はない。


 雪夜は呆然としつつ、家のドアの前で体育座りをして呟いた。


「大家さん、何時に帰ってくるんだろうなぁ」





 外でしょぼくれている雪夜を置いて家に入ったアリスは一人呟く。


「まさか、貴方が直接来るとは思わなかったわ。でも、私の育てた魔法戦士は一筋縄では行かないわよ。世界征服機関、同族殺しの『血塗れピエロ』……!!」



これまでの話より短いですが、基本的にこの長さで行こうかと思っています。

キリの良い所まで書く為、長くなることも多いかと思いますが……。ていうか、1~4話がそんな感じです。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ