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四話 戦士が少女になった時

「アリス、怪人の出現場所は?」


『近くの公園。今、魔導連盟の人が戦ってる……けど、無理ね。相手が強すぎるわ』


「怪人虚狼よりも?」


 空へと飛び立ったフォルテはアリスから情報を集めつつ現地へと向かう。遠い場所であれば、秒速50KMを誇る雷属性魔法、雷歩である程度近くまで行くが、その速度はフォルテ自身にも制御が不可能な程に早い為、詳細な現場までは通常飛行で行かなければならない。

 アリスもフォルテに出来る限りの情報を渡す。どういう訳かアリスは機関に詳しく、その情報も魔導連盟よりも詳しく正確だ。が、そのアリスもフォルテの質問にどう答えたらいいか迷っている。


『そう、ね。まずはステータスを見て貰える?』


「うん?」


 珍しく歯切れの悪い返答をするアリスにフォルテも不思議そうに返答するが、自分の目の前に浮かぶ立体映像に目を向ける。


攻撃力   D

防御力   B

速さ     A

魔力     D

特殊能力  S


「これだけ見ると、虚狼の方が強いね。でも、特殊能力S、か」


「数日前に英国に現れたんだけど、それ以前のデータは一切無いの。これは、その時の戦闘を元にしたデータだけど、大きくは間違ってないと思わ。でも……」


「特殊能力Sは、他のステータスもSに引き上がる可能性もある、よね?」


「そういう事。油断はできないわ。一応、能力の詳細は不明だけど、遠距離攻撃は一切効かないみたい。それだけでも、近接戦闘が出来ない人から見たら防御力はSよ」


「そうね。アリス、見えてきた。ってマズイわね」


 状況を確認しながら、現場に着いた二人が見たのは、丁度、魔導連盟の戦士が怪人の大剣に突き飛ばされていた所だった。本来なら、剣に刺されて吹き飛ばされる、なんてありえない。その刃は体を貫通し、死に至らせる傷となるハズだ。そうなっていないのも、怪人の能力だろうとフォルテは考える。


 敵の体を気遣ってる?


 と、考えたが、すぐにその考えを否定する。

 その理由は、吹き飛ばされた戦士の頭上に現れた巨大な刃。その刃を支える細く、長い棒。例え、その刃が落ちれば質量だけでも、下にいる戦士は死に至るだろう。その残虐な器具は、良いみせしめになる。


「アリス、行くわよ!」


 相方からの返事の変わりに、手に彼女の武器である巨大な槍が現れる。飾り気の少ない柄とは対照的に、槍頭には二又の大きさの違う巨大な刃が備え付けられていて、その形状は竜の頭部の様に見える。

 それこそが、アリスが雪夜に預け、フォルテとして長年、共に戦って来た武器。竜槍リンドブルム。


「吼えろ!リンドブルム!!」


 叫び振るう槍からは、発光と共に電撃が放射される。高温の雷は、あっさりと巨大な刃を支える棒きれを焼き切り、ギロチンは自重によって崩壊する。

 その壊れたギロチンが空中で消滅したのは、恐らくは怪人の仕業だろう。一瞬の出来事ではあったが、その内容からフォルテは新しい怪人を見定める。


(一般人に危害を加える気はないみたいね。でも、敵には容赦がなく冷徹な性格。そして、何が効果的かを良くわかっている。あっさりと殺さず、残虐な方法を取るなんて……酷い!連盟の戦士が二人でいる所を狙い撃ちするなんて、本格的に潰す気みたいね)


 ちなみに、大体間違っている。その原因は、遊び心が先行し過ぎている本人なのだから擁護のしようはないが。

 

 空中に佇んでいるフォルテに、視線が集中する。その凛とした姿に観衆は歓喜の声を上げ、魔導機関の戦士は、安堵の溜息を吐く。そして、黒髪の道化師は楽しそうに笑い、フォルテと同じ高度までゆっくりと浮き上がる。


「君ガ魔法戦士フォルテかい?」


「そうよ。貴方が新しい怪人ね?初めまして、さような、ら!!」


 その発言の最後の一文字と同時に、フォルテは手に持った槍で道化師に斬りかかる。が、やはり怪人の速さステータスはA。多少、面食らったようだが、横薙ぎの一撃目を少し後ろに下がった事で回避し、続け様の突きを、手に持つ大剣で逸らし防御する。


 ステータスこそ大したことはないけど、上手い!


 それがフォルテが初めて対峙した怪人の評価だった。それならば、と距離をとり竜槍の特殊効果の雷撃を放つが、黒い空間に飲み込まれて消えてしまう。前情報通り遠距離攻撃は効かないらしい。


『フォルテ。攻撃力はこっちが圧倒してるんだから、防御ごと貫けば良い』


「わかった。行くよ、リンドブルム!!」


「ホウ。ソレを喰らえば流石に僕モただでは済まないネ」


 竜槍リンドブルムから稲光が迸る。即死級の放電を纏った一撃こそが魔法戦士フォルテの攻撃力ステータスSを誇る理由だ。

 しかし、それを前にしても道化師は、ただ楽しそうに笑い、フォルテの神経を逆撫でしてしまう。


「新任早々、ご苦労様。せめて死なないようにはしてあげるわ!!」


 道化師は雷鳴を鳴り響かせ輝くリンドブルムを大剣レーヴァテインの炎を更に燃え上がらせ振り下し撃退する。僅かに道化師の持つレーヴァテインが制し、リンドブルムを弾く。

 だが、その状況に道化師は疑問を抱かざるを得ない。本来なら、自分の攻撃力でフォルテに勝てるハズがないのだ。自分が吹き飛ばされ不利になり、それから逃げるのが今回のシナリオだった。

 そんな疑問をよそに、フォルテは身を翻し雷光を纏ったままの槍を大きく振る。


「馬鹿ナ!連撃!?」


「一撃耐えたのは見事だったけど、ごめんね。これ、永続効果なの!」


「嘘ダロ!?」


 道化師の繰り出した一撃は単発効果であり、だからこそ一時的にフォルテの攻撃力を上回った。だが、そこで道化師の大剣は通常状態に戻り、フォルテの槍は魔法が発動したままの状態だ。

 今まで、ひょうひょうとした余裕のある態度を崩さなかった道化師の仮面がアニメの様に驚愕の表情へと変わる。

 振り向き様の一撃をなんとか大剣で防御するが、弾き飛ばされ無防備となってしまう。そして、怒涛のように加えられる連続突き。観客の誰もがフォルテの勝利を確信し、フォルテも止めとばかりに体を弓の様にしならせ腕を矢のように伸ばし、槍を道化師へと突き立てる。


 が、次の瞬間、道化師の姿は消え、槍の穂先が捕らえる事は叶わなかった。  


「……へ?」


『フォルテ、上!!』


 呆気にとられたフォルテの声と、慌てふためくアリスの声が重なる。しかし、フォルテが、その忠告に

反応する事ができない一瞬の隙を取られ、道化師にフェイスヘルムを掴まれてしまう。


「なっ、離っ……せ!!」


「あは、アハははは!いやぁ、今のはビックリしたヨ。本当に死ヌかと思った」


 道化師を引き剥がし距離をとる。

 確実に捕らえたと思った必殺の一撃を回避され、動揺しているフォルテに対し、道化師も肩で息をし、声が上ずっている事から、本当に危なかったであろう事が予想できる。

 互いに一時、手を休め余裕のない精神戦。先手を打ったのは、黒髪の道化師だった。


「しかし……魔法戦士フォルテ、ネェ?」


「何よ、文句あるの?」


「いやいや、文句ナンテ無いサ。でも、それを名乗るには聊か君ハ、ネ?」


「なんなの……よ?」


 意味のわからない発言をする道化師に声をあげようとし、そこで気づく。

 

 視界がやけに広い。


 普段、フォルテは騎士のヘルムの様なフェイスカバーを付ける事により、その素顔を隠している。だが、十分な視界が確保出来るとはいえ、そのフェイスカバーは若干邪魔だ。が、今はソレがない。

 よく見てみると道化師の右手に、それらしき物が握られている。次に自分の手で顔を触ってみて、ハッキリと何もないことがわかった。


「あ、あ、ああ……」


 下を見ると沢山の人が居て心なしか盛り上がっている。ていうか、写メを撮ってるらしき人もいる。いや、それだけならマシだ。なんか大仰なカメラを構えた人も居て周りにはよくわからない機材も置いてある。つまり、テレビ局だ


「君ニハ戦士ナンテまだ早い。ソウ、君は、まだ魔法少女……魔法少女フォルテちゃんだ!!」


「あ、ああぁ……馬鹿ーー!!」


 道化師の声に、観戦していた人々が賛同の声をあげる。どっちの味方かわかったものではない。しかし、それほどまでに魔法戦……魔法少女フォルテの素顔は謎に包まれ、興味を引かれていた。

 そして、それが文字通り光り輝き目の眩む様な美少女だったのだから、大衆が盛り上がるのも不思議ではない。


「ふ、ふふ。アンタ、よくもやってくれたわね。てか、死にたいの?死にたいんだよね?馬鹿、馬鹿、馬鹿!!」


『ちょっと、フォルテ!何をする気なの!?』


 風もないのにフォルテの髪が揺らめく。それを見ていた道化師も、ちょっと焦る。しかし、そもそも道化師もわざとフェイスヘルムを取った訳ではない。本当に危なかったからこそ、咄嗟に空間転移を使い、更に咄嗟に手を伸ばした結果偶然掴んだ物だ。

 そして、その可愛さと美しさが混在する容姿に見惚れた。その照れ隠しの挑発のつもりだったが……効果は抜群だ。というか、効きすぎて本人が困っているくらいだ。


 フォルテの手の槍は、先程までよりも激しく光輝き、触れる物全てを焼き尽くす程度になっている。ちなみに、威力が大きすぎる為、フォルテ自身、知識として知ってはいるが使った事がない技だ。


「この、馬鹿あぁぁぁーー!!」


『馬鹿は、貴方だから!ちょ、やめなさい!あ、待っ……馬鹿ーー!!』


 フォルテの叫び声と、アリスの叫び声が重なり、フォルテは手に持った最強の破壊兵器を道化師に向かって投げる。


「へ?」


 それを見た道化師も予想外だったのだから、そんな変な声が漏れる。

 そして、必殺の一撃として機能するハズだった槍は、あっさりと黒い空間に飲み込まれて消えた。


「えー……」


「……へ?」


『だから遠距離攻撃は効かないって最初から確認取ってたでしょう!!』


 何か策でもあるのかと思って、一応、警戒した道化師の落胆の声。何が起きたか把握できなかったフォルテの声。何が起きるかわかっていて予想通りの事がおき、怒るアリスの声。

 反応は三者三様だったが、フォルテが怒りに我を忘れて適当に行動した事だけはよくわかる図だった。


「か、返してよ!私のリンドブルム!」


「えー……」


 ちなみに、道久であるならともかく、この道化師を、此処まで困らせ呆れさせた人は過去にも未来にも居なかったという。



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