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16.2 凍てつく氷と再生の灯火

 岩田の咆哮と爆音、そして蓮と阿久津が火花を散らす中心戦域。そこから僅かに外れたエントランスホールの北側で、もう一つの戦いが始まっていた。


「千葉さん、あそこ! まだ三人が繋がれたまま!」


 白河が指差した先には天井から伸びた無機質なケーブルに脳を接続され、涎を流しながら虚空を見つめる生徒たちの姿があった。彼らの精神エネルギーは阿久津の魔力を増幅するための燃料として、今この瞬間も吸い上げられている。


「わかってる。だけど迂闊に引き抜けば脳に逆流が起きて廃人になるわ」


 千葉詩織は冷静に眼鏡のブリッジを押し上げた。彼女の周囲には極低温の霧が漂っている。能力【氷結】を一点に集中させ、接続端子の根本を0.1秒だけ凍結させた。神経伝達を氷の膜で遮断し、電気的なショックを防ぐ。


「今よ、武田くん!」

「了解!」


 救出されたばかりの武田鉄平が、部活男子の身体を活かして駆け寄る。彼は能力【衝撃吸収】を全身に展開し、ケーブルを切り離した際に生じる魔力の反動をその肉体で受け止め、生徒たちを抱きかかえて安全圏へと運び出した。


 だが、救出された生徒たちの顔は青白く呼吸は浅い。


「駄目……意識が戻らない。心の核が阿久津くんに持っていかれてる」


 白河が彼らの胸元に手をかざす。能力【再生の聖域】が発動し、柔らかな光が冷え切ったホールを照らした。彼女の能力は傷を塞ぐだけではない。失われかけた生命の連続性を維持し、壊れかけた精神の器を繋ぎ止めるものだ。


「戻ってきて! 帰る場所はここじゃないでしょう?」


 白河の額には大粒の汗が浮かぶ。救出された三人の絶望が泥のような重圧となって彼女の華奢な肩にのしかかる。


「白河、無理はしないで」


 千葉が背後から彼女を支えた。千葉は左手で周囲に氷の防壁を張り巡らせ、阿久津の親衛隊から放たれる火炎や銃弾を淡々と弾き飛ばしていく。


「あんたが倒れたら佐藤くんたちの帰る場所がなくなるわ。あんたは命を繋ぎなさい。外敵は私が指一本触れさせないから」


 一人は氷の如き冷徹さで理を貫き、一人は聖母の如き温かさで命を慈しむ。派手な破壊音の陰で、彼女たちは確実に、この地獄に日常を繋ぎ止めていた。その時、白河が抱きかかえていた女子生徒が微かに目を開ける。


「……あ……あ……私……数学の……課題……出さなきゃ……」


 そのあまりに普通過ぎる呟きを聞いた瞬間――白河の瞳から涙が溢れた。


「うん、出そう。みんなで一緒に学校へ帰って先生に怒られよう」


 千葉の氷壁が迫りくる敵の攻撃を完璧に遮断する。この救出がなければ、たとえ蓮が阿久津を倒したとしても、残るのは魂の抜け殻となった生徒だけだっただろう。

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