15 盤上の観測者たち
廃都の西端、崩れかけた図書館の地下室。
高木佑太は薄暗い空間で端末を叩いていた。その隣には全身を打撲と骨折でボロボロにした武田が、岩田の手厚い(といっても粗末な)看護を受けて横たわっている。
「武田くん。もう一度、今の話を整理させてもらうよ」
高木の眼鏡の奥の瞳が冷たく光る。
「……ああ……俺たちは団地で瀬奈って女に会ったんだ。真剣な表情で『この先は危険だから今は動かない方がいい』って。あいつは食料までくれたんだ。俺たちはそれを信じて、数時間、拠点を動かなかった。気づいた時には周囲は禁止エリアで囲まれてたんだ」
武田は悔しさに拳を握る。西田と鈴木の霧に消える直前の顔が脳裏に焼き付いて離れない。
「確信したよ。瀬奈という女――いや、先行者たちの狙いは新入生の誘導と停滞だ」
高木がホワイトボードに図を描き込む。
「先行者たちは管理者と契約し、おそらく生存時間を買っている。その対価は殺し合いの扇動。だが彼らは直接手を下さない。なぜか? 自分自身で殺せばヘイトを買い反撃のリスクが高まるからだ。ゆえに彼女は善意を使ってターゲットを足止めし、システムの禁止エリアという処刑執行人に殺害を代行させている。これなら彼女の手は汚れず、ノルマだけが達成される」
「……なんて女だ」
岩田が低く唸る。
「おそらく佐藤くんも今、その甘い檻の中にいる。そして阿久津だ」
高木は別の画面を開く。そこにはドローンで上空から撮影した中央デパートの映像が映っていた。
一方、その中央デパート――阿久津の玉座。
かつての華やかな売り場は、今や悪趣味な要塞と化していた。
「おい、もっと出せよ。お前の記憶だ。親の顔なんて忘れても、ここで生き残れりゃお釣りがくるぜ」
阿久津は玉座のような高級ソファに深く腰掛け、目の前で項垂れる生徒の頭に手を置いていた。阿久津の背後には、かつての取り巻きに加え、虚ろな目をした生徒たちが十数人、まるで機械の一部のように整列している。
阿久津の能力は【絶対隷属】から先行者の知識を得て【精神の収穫者】へと変貌を遂げていた。
「佐藤蓮……瀬奈から連絡があった。もうすぐお前は――意思を失くして俺の前に跪く。その時、お前の模倣の能力を俺が美味しく頂いてやるよ」
同じ頃、デパートの外壁――垂直の壁面を音もなく登る影があった。暗殺者、岡田誠治だ。蓮に敗北して命からがら逃げ延びた後――さらにその影を潜めていた。
「阿久津も、佐藤も、九条も。みんな目立ち過ぎだ」
岡田の瞳には以前のような迷いはない。彼は阿久津の支配にも先行者の誘いにも乗らなかった。ひたすらシステムの隙間を縫い、死角から最後の一人になるための方法を探っている。 彼の【死角への一撃】は今や【虚無の残像】へと昇華しつつあった。存在そのものが――この世界の痕跡から消えようとしている。
「まずは……デパートの中を掃除しようか?」
「状況は最悪だね」
再び図書館の地下。高木が武田を見下ろす。
「佐藤くんは瀬奈に操られ、阿久津は記憶を食って怪物になり、岡田は闇に潜んでいる。岩田、武田くん。僕たちはこの混沌を利用させてもらおう」
高木は不敵に微笑んだ。手元には以前のエリアで回収したある魔物の核と、独自のルートで手に入れた先行者の腕輪の破片が並んでいる。
「佐藤くんを助ける必要はない。だが、彼が壊れる前に九条と阿久津を相打ちにさせる方程式を組み立てる」
駒は揃った。廃都の王者を決める戦いは、誰一人として他者を信じぬまま、最終局面へと加速していく。
【生存人数:33名】




