11 案内人の誘い
「新入りの分際で概念焼きを使える奴がいるとはな」
ビル風が吹き抜ける廃都の路上。見上げた先の屋上に立つ三人の影。中心に立つ男は顔の右半分にケロイド状の大きな火傷を負い、使い古された軍用ジャケットを羽織っていた。その瞳にはクラスメイトたちのような戸惑いはなく――老練な殺意だけが宿っている。
「何者だ? お前も参加者なのか?」
蓮が左目の痛みを堪えながら問う。
「参加者? まあ、半分は正解だ」
火傷の男が軽々と屋上から飛び降り、アスファルトを砕いて着地した。後ろの二人も続く。 一人は全身に銀色のピアスを付けた小柄な女リサ。もう一人は返り血を浴びた巨大な鉄パイプを肩に担いだ大男ゴン。
「俺は九条。お前らより一年ほど早く、このクソッタレな街に招待された先輩だ」
にやりと九条が笑う。その腕輪は蓮たちのものとは違い、黒ずんだ金属のような質感をしていた。
「だったら禁止エリアはどうしたの? 紫の霧に包まれて死のエリアになったはずでしょう?」
一ノ瀬が剣を構えたまま鋭く問い詰める。
「ああ、あの追い出しね。俺たちは管理者と契約してるのさ。新入りにこの世界の歩き方を教え、盛り上げる案内人になる代わりにな」
九条は蓮の左目を指差した。
「お前、いい目をしてるな。死者の力を喰う能力……強力だが早死にする。この世界の記憶の仕組みを知らなきゃ、あと三日と持たずに自我が崩壊するぞ」
「記憶の仕組み?」
白河が思わず身を乗り出した。蓮が少しずつ壊れていくのを見ていた彼女にとって――それは無視できない言葉だった。
「教えてやってもいい。だが、タダじゃない。俺たちのノルマに協力しろ」
九条が提示したのは残酷な商談だった。
「このエリアのどこかに阿久津ってガキが立て籠もってるだろ? あいつは今、クラスメイトを集めて物資を独占してる。あいつらを襲って一人『間引き』してこい。そうすれば記憶を守る方法を教えてやる」
「殺せって言うのか?」
蓮の声が低くなる。
「はははっ! 勘違いするな。俺たちが殺せと言わなくてもシステムが殺す。阿久津の下にいる連中は、あいつにレベルを献上させられてる。どのみち次の選別で死ぬ運命だ。だったらお前らがその命を使って、記憶を買い戻せって言ってるんだよ」
九条の言葉は悪魔の誘惑のように合理的だった。己を削って他人を助けるか他人を削って己を守るか? 決断に時間は要さなかった。
「断る」
蓮は短く答えた。
「あんたらの理屈は阿久津と同じだ」
九条の目が冷酷に細められた。
「そうか……なら交渉決裂だ。リサ、ゴン。教育してやれ。この街じゃ善意は亡霊よりも先に自身の首を絞めるってことをな」
ピアスだらけの女リサが指を鳴らす。能力は【空間断絶】――蓮たちの周辺の空気が一瞬で箱型に切り取られ外部への退路が断たれた。
「逃げ場はないよ、おチビちゃんたち。せめて――いい断末魔を聴かせてね」
【生存人数:35】




