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ギフト

作者: 海月 恒
掲載日:2025/12/06

 薄暗い部屋のリビングのテーブルの上に置かれている。


 帰宅直後の一人暮らしの男には、不思議で仕方ない。

 一体誰から。そしてどうやって室内に置いたのか。

 思い当たるのは一人。元彼女だけは、結局喧嘩別れでそのまま返してもらえていない。

 しかし別れたのはもう五年も前。とっくに結婚しててもおかしくないし、今更俺に送るものなどないだろう。

 

 箱の上面に何やら書かれている。

          

          『たっくん』

 

 俺をこう呼ぶのは元カノしかない。

 久しく呼ばれていないな名前なんて。

 でも思えばアイツだけは、俺を見てくれていたんだよな。

 男はじわじわと記憶が蘇るのを感じた。


 付き合い始めたのは高2の夏。

 あいつは頭が良くて、良い大学に入って薬剤師になった。ただ料理は下手で、いつも俺の役目だった。

 お姫様気質で。俺は我慢できずに喧嘩してた。結婚を前提に同居までしたけど上手くいかなくて、結局別れたんだよな。

 でも別れた後もあいつは定期的に連絡をくれて、よりを戻そうと言ってくれていた。俺は何も決めきれなくて、うやむやにして答えを出さないまま月日が経った。

 

 ギフトの包装紙を破り、箱を開ける。

 中身は鍵だった。

 

 今更いいのに。結婚でもしたのかな。

 ・・・結婚。

 今の自分が酷く惨めに見えた。

 あの時俺が選択していれば、違う人生を生きれただろうか。

 何言ってんだ今更。一言連絡入れとくか。

 

 ふと、違和感に気づく。

 

 鍵。


 ここにあるのに、どうやって外から鍵をかけたんだ?


 何処からか視線を感じたが、見渡しても部屋には誰もいなかった。その視線はそれから何日か続いた。


 後日、元彼女の母から連絡があった。

 彼女は先日、交通事故で死んだ。

 生前は別れても尚、俺のことを嬉しそう話していたらしい。

 鍵はまだ返したくないと言っていたという。

 

 「夏美、そこにいるか?」

 男は部屋で一人話す。

 「ごめんな。俺が、ウジウジしてたから。お前は今までもずっと、俺を思ってくれていたんだな」

 背中から細い腕が回ってくてぎゅっと抱きついた。懐かしい温もりが伝わってくる。

 額をスリスリと背中に擦ると、その感触と暖かさはゆっくりと消え、感じていた視線もピタリと止んだ。


 翌朝、男は吹っ切れた顔つきで仕事に出た。


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