ギフト
薄暗い部屋のリビングのテーブルの上に置かれている。
帰宅直後の一人暮らしの男には、不思議で仕方ない。
一体誰から。そしてどうやって室内に置いたのか。
思い当たるのは一人。元彼女だけは、結局喧嘩別れでそのまま返してもらえていない。
しかし別れたのはもう五年も前。とっくに結婚しててもおかしくないし、今更俺に送るものなどないだろう。
箱の上面に何やら書かれている。
『たっくん』
俺をこう呼ぶのは元カノしかない。
久しく呼ばれていないな名前なんて。
でも思えばアイツだけは、俺を見てくれていたんだよな。
男はじわじわと記憶が蘇るのを感じた。
付き合い始めたのは高2の夏。
あいつは頭が良くて、良い大学に入って薬剤師になった。ただ料理は下手で、いつも俺の役目だった。
お姫様気質で。俺は我慢できずに喧嘩してた。結婚を前提に同居までしたけど上手くいかなくて、結局別れたんだよな。
でも別れた後もあいつは定期的に連絡をくれて、よりを戻そうと言ってくれていた。俺は何も決めきれなくて、うやむやにして答えを出さないまま月日が経った。
ギフトの包装紙を破り、箱を開ける。
中身は鍵だった。
今更いいのに。結婚でもしたのかな。
・・・結婚。
今の自分が酷く惨めに見えた。
あの時俺が選択していれば、違う人生を生きれただろうか。
何言ってんだ今更。一言連絡入れとくか。
ふと、違和感に気づく。
鍵。
ここにあるのに、どうやって外から鍵をかけたんだ?
何処からか視線を感じたが、見渡しても部屋には誰もいなかった。その視線はそれから何日か続いた。
後日、元彼女の母から連絡があった。
彼女は先日、交通事故で死んだ。
生前は別れても尚、俺のことを嬉しそう話していたらしい。
鍵はまだ返したくないと言っていたという。
「夏美、そこにいるか?」
男は部屋で一人話す。
「ごめんな。俺が、ウジウジしてたから。お前は今までもずっと、俺を思ってくれていたんだな」
背中から細い腕が回ってくてぎゅっと抱きついた。懐かしい温もりが伝わってくる。
額をスリスリと背中に擦ると、その感触と暖かさはゆっくりと消え、感じていた視線もピタリと止んだ。
翌朝、男は吹っ切れた顔つきで仕事に出た。




