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第8話 『最高神のネットリテラシーは低い』

 延々と呪文のような単語が飛び交う授業から解放され学生が学生らしく青春を謳歌できる、俺を含むすべての学生が待ち望んでいるであろう時間がやってきた。


 そう、放課後である。


 今日も今日とて一旦宿題のことは棚に上げ、俺は俺の青春を謳歌すべくまっすぐ家に帰る腹積もりだったんだが、そうは問屋ならぬソラが卸さない。


「やっと来たか。待ちくたびれてこのまま餓死するかと思ったぞ」


 今週は掃除当番だったので教室の掃除を終えて玄関に行くと、そこには容疑者に張り込んで家から出てくるまで待っていた刑事みたいに腕を組んで靴箱に寄りかかっていたソラがいた。


 掃除に意外と時間がかかったせいで結構待ったのか何なのか知らないが少し機嫌が悪そうだが気にしないで話そう。


「何だ? まさか一緒に帰りたいのか? やめてくれよ、勘違いされる」


「たわけが。そんなわけあるか。誰がお前みたいなやつと帰るか」


 なす術もなく冗談が一瞬で一蹴された。


 乙女チックな反応、例えば、


「バカっ! そんなわけないでしょ! 誰があんたなんかと……」


 とか言って顔を赤らめるといった反応を期待したがそんなものこいつに期待する方がバカだな。


 言葉の意味はほぼ一緒なのにそこに込められた温度がまるで違う。


「じゃあ何だ?」


「一緒に図書館に来るのじゃ。おぬしに拒否権はない」


「待て。話が見えない。なんでまた図書館なんだ?」


 そう聞くとソラは生徒からの質問に答える家庭教師のように説明を始めた。


「昨日、今日とわしに多くの者が話しかけてくれたんじゃ。わしはこの機会を逃すまいと思ってそやつらに神に関すること、例えば神話なんかについて知りたいんじゃが何か知っていることはないか聞いてみたんじゃ」


 出会い頭に神話について知りたいとは相当マニアックな奴だと思われたんじゃないか?


「それでそいつらはなんて?」


「ねっと? とかで探せばいいというのが大方の答えじゃったな」


 いかにも現代っ子のような答えだな。まあ俺も十中八九そう答えそうだが。


「じゃがどうやらそのねっとというものはすまほとかぱそこんとかいう特別な装置がないとみることができないと来た。わしはそんなもの持っとらんからどうすればいいのか聞いたら図書館にあるぱそこんを使えばよいということが分かったんじゃ」


 なるほど、だから図書館と。


「それに図書館というのは多くの書物が保管されておるんじゃろ? ならその中に何か神の世界に関するものが一冊はあるやもしれん」


 まあ地域の図書館ごときでそんな本があるのかどうかは怪しいところであるが、その可能性もなきにしもあらずだな。


 それにこんな近場で帰る方法が見つかれば俺もさっさと解放される。


 しょうがない、今日はこいつに付き合うことにするか。


 というわけで俺は図書館へと任意同行されることになった。




 学校から近くの図書館までは歩いて十五分ほどであったため俺は自転車を押しながらソラと並んで歩いて行った。


 その間にそれぞれの役割分担をしておいたんだが、ソラが本を探し俺がネットで情報を探すということになった。


 最初はその逆がいいとソラが言ってきたんだがこいつのネットリテラシーは赤子同然(クリックも知らない)だった。


 そんなやつにネットで調べものなんかさせても非効率なだけだということでそうなったわけである。


 まあ、本当はわざわざ本を開いて調べものとか面倒くさいということで押し付けさせてもらっただけであるが。


 おかげでソラが不満そうな顔を浮かべる羽目になったが気にしないでおく。


「そういえばお前、図書館って行ったことあるのか?」


「ないが……それで何か問題でもあるのかえ?」


「問題と言うほどでもないが、図書館というのは何も俺たちだけで使うものじゃなくてみんなで共有して使うものだからな。使うにはルールがあって騒いだり館内を走り回ったりして他の人に迷惑をかけてはいけないことになっているんだ」


 そこで一旦言葉を区切ると、俺は強調しながら、


「これまでのお前の言動や態度を見ているとひょっとするとそんなことやりかねないと思ったから忠告したまでだ」


 その警告を聞いたソラはプイッと顔を逸らして、


「ふん、わしを何だとおもっておるんじゃ。それぐらい弁えておるわ。むしろおぬしの方こそ気をつけた方がいいのではないかの? わしと最初に会ったとき奇声を上げながら全力疾走しておったではないか」


「正体不明の全身白女に夜に追いかけられたら例え森に十年引き籠って修行と研鑽を積んだ仙人でも発狂くらいはするとは思うんだが」


「とにかく忠告はしておいたからの、気を付けるんじゃぞ」


 なぜ俺はこいつに忠告されているのだろう。


 そのまま忠告合戦を続けているうちに目的の図書館に到着。


 ん? なんか前来たときより綺麗になってるな。


 若者の活字離れが進んでいると言われているが、俺も例にも漏れずしっかりとその波に攫われてしまっているので図書館に来るのは数年ぶりだった。


 最後に来たのは確か中一の時に読書感想文の課題図書が中学の図書室で見つからなくてわざわざ図書館に来た以来だと記憶している。


 中に入った俺たちはとりあえず館内を見渡すもソラは来るのが初めて、俺は改修前の記憶しかないということで館内図でパソコンと本の場所を確認。


 各々自分の役割を果たすため別れ、一時間後の五時半ごろに成果報告のために集合するということになった。


 パソコンスペースは一階、神話や伝承の類についての本は上の階にあるということで俺はそのままパソコンを目指し移動する。


 それにしても俺の方はまだしもソラの方は結構大変だろうな。


 なにせ神話やこの辺の伝承が書いてある本を本棚と睨めっこしながら片っ端から探すんだからな。


 しかもそういう本は親切にも読者にその話の内容を正確かつ丁寧に教えてくれようとしてくれるためページ数と文字数が多いようなイメージがあるので探すのも一苦労だ。


 そう思えば断然ネットの方がいい。

 ネット最高。バンザイ。


 到着すると運よく最後の一席を確保することに成功した。ラッキー。


 ところでネットで思い出したんだが、ネットならスマホや学校の図書室のパソコンでも見られるんじゃないかっていう意見もソラが聞いた中にはあったらしい。


 しかしソラはスマホを持ってないし俺のスマホはギガを食うという個人的理由で却下、図書室のパソコンは蔵書検索しかできないとのことなのでわざわざここまで来るに至った。


 そんなことを思い返しながら検索エンジンをダブルクリックし起動させる。


 さてとまず何と検索すればいいのか。


 純粋に「神の世界 帰る方法」とか調べてもいいんだが、アヤシイ宗教のホームページや謎の違法サイトみたいなのに行きついて公共施設のパソコンにウイルスを感染させて学校に通報され大目玉を食らうのも勘弁だしな。


 とりあえず「ソラテラス」とでも調べてみるか?


 これならもうすでに調べてあるから変なのは出ないとは思うが。


 思えばあいつのこともそんなによくは知らないし、あいつの出自がヒントになっているかもしれないからな。


 キーボードをカタカタと打ち「ソラテラス」と入力し検索をかける。


 画面をスクロールし何か目ぼしい情報がないか探して適当なサイトにアクセス。


 するとなんとなくソラの正体が分かってきた。


 ソラテラスは日本に伝わる神の一人で性別は不明。


 出自も不明でどこから来たのかも分からない。


 何を司っていたのかも分からない。


 日本の神話とかそういった文献に記述がほとんどない謎多き神らしい。


 だが唯一記述されているのが洞窟に引きこもったということだ。


 太陽を司る日本の最高神が洞窟に引きこもったというのは有名な話であるが、その後その洞窟は長らく放置されていたらしい。


 そしてある時ある一人の神がその洞窟に引きこもってしまう。


 何を隠そうそれがソラテラスだ。


 しかもその理由が昼寝をしたいから、だと。

 

 それ以来ソラテラスは洞窟の中で眠り続けていてある地域では眠りの神様、別名爆睡神として安眠をもたらしてくれる神として崇め奉られている――


 って、なんじゃこりゃ。


 ソラは爆睡神だということはすでに知ってはいたが、その他の部分はソラ本人が言っていた話と大きく矛盾している。


 しかもこのサイトはオブラートに包んではいるがソラはニートです、と言っているようなもんだ。


 ソラが見栄を張ったのか、文献の著者がソラに無関心だったのかは知らないがあいつが言っていた空を司っている神、ましてや最高神かどうかは分からないということになる。


 あと肝心のソラ自身についての記述が一切ないのも困ったものだ。


 何だ? あいつ他の神様から嫌われでもしていたのか?


 まあこのサイトだけで判断を下すのは早計であるため他のサイトも探してみることにしよう。


 そんな感じで本来の目的を忘れ、ソラの本性を探るという別の目的を果たすべくネットという情報の海の中で華麗にサーフィンを続けていると、


「なに見てるの?」


 突然耳元で柔らかく高めの声が俺の鼓膜を揺らしてきた。


 画面と睨めっこをしていたため全く気付かず、俺は軽く飛び上がりそうになったものの、図書館という静寂第一の場であることを鑑みてなんとか脊髄反射を抑え込んだ。


 声のした方向を見ると目の前にブレザーに覆われた小高い丘が。


 何だこれ、ってこれはガン見したらいかんやつだ! と思ってすぐさま目線を外し声の主を確認する。


 一瞥しただけで毎日丁寧に手入れをしていることが嫌というほど分かる長い黒髪と、見つめた者をただちに虜にして離さない、というか離すことのできない漆黒の瞳。


 そしてスポットライトに照らされているわけでもないのにその艶めきを隠しきれていない肌を持つ明眸皓歯の少女がそこに佇んでいた。

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