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第7話 『主観度MAXファイヤー』

 その後の俺とソラとの会話を教えよう。


 まずどうやって戸籍のないソラが学校に入れたのかを聞いたところ市役所で神の力を使い職員に戸籍謄本を作成させ、これまた神のチート能力で高校入学できるように手配したらしい。


 なんだその便利能力。

 日本の国民的ネコ型ロボット顔負けだな。


 そしてこれからのことについて話し合った結果、ソラが神であるということはバレるとはっきり言って超がつくほど面倒なので他言無用ということになった。


 神の世界に帰るための方法をどうやって探すかについてだが、今は特に決まっていないから決まり次第連絡、検証、実行するということになり今日は解散という流れになった。


 そういうわけで特に用事もなかったので俺は愛車に跨ってとっとと帰路につくことにした。


 こんな晴れてやがるのにびしょびしょになってるもんだからなんだあいつ、晴れなのに服濡れてんぞ、トイレの個室にこもってるときにバケツの水でもかけられたか、かわいそーなどとさぞかし哀れみもしくは変人を見る目で見られるのではないかと心配していたんだが。


 どうやらソラがこの辺一帯の天気を変えていたため突然の雨や雪、みぞれによる被害を被った人も多くそれは杞憂に終わった。


 それよりも手伝いという名目であるものの、どうこき使われるか分からないから俺の身が持つかどうかの方が心配だな。


 もしかしたらソラは相当なS野郎であるということもあるからな。


 これも杞憂に終わってほしいものだ。




 翌日。


 教室に入ると昨日まで熱愛の芸能人を直撃するマスコミのようにソラの周りに挙って集まっていた生徒たちの大半がいなくなっておりソラはすっかりクラスの一員としてなじんでいる。


 転校生あるあるだな。


 これまでに何回か見たことがある。


 転校初日とかはそれまでクラスにいなかった異分子がいきなり入ってくるわけだから純真無垢で何にでも興味を示す幼児のごとき好奇心を転校生に持っているんだろうが、話していくうちにそいつがどんな人間か知ってしまえばそれはもはや異分子でもなんでもなく同じクラスにいるただの同分子となる。


 人間の飽きっぽさを如実に表している一例だろうが、それでもよろしくやっていくやつがいたらそいつが転校生の友達へとランクアップするんだろうな。


 なるほど、こうしてみると人間の交友関係というのは面白いな。


 まあ今回に限って言えば一方は人間ではないんだがな。


 ちなみに大半は、と言ったのは昨日あの鉄壁ディフェンスを突破し持ち前の積極性を発揮したり、いわゆる陽キャに分類される人種などソラに話しかけることができたやつがいなくなっている、というだけであって、

 今日は鉄壁の壁に阻まれたり日和ったりしてしまったせいで話せなかった、かつコミュ障じゃないやつが話しかけに行っているからだ。


 例えばこんなやつ。


「おっすタケっち。早速だが作戦再決行だ。行くぞ」


 親指をソラの方に向け、本田が誘ってくる。


 あと坂倉も来た。お前ら仲いいな。付き合ってんのか?


「だから行くならお前一人で行けよ。俺を巻き込むな」


「何回も言わせんな。俺はガツガツした男に思われたくないんだよ」


 俺がそのガツガツ男になることによってお前はモグモグ男にでもなれるのか?


「悪いが俺はパス。別に話すこともないし話す必要もないからな」


 そう言うと本田はまるでその辺で木の棒を振り回しているバカな小学生男子を見るような目で俺を見てくる。


「お前バカか? あんな美少女滅多にお目にかかれないぞ? この転校直後というお近づきになるベストタイミングを逃してどうするんだよ」


「もう昨日というベストタイミングは逃してるし今更だろ。それに同じクラスだ。どうせいつか話す機会もあるだろ」


「そのいつかはいつ来るんだ? タケっち、いいことを教えてやる。いつか来るのいつかはな、待ってるだけじゃ来ないんだよ! 自分からそれを迎えに行かなければいけないんだ! 全く、そんなんだから彼女の一人もできないんだよ」


 お前にだけは言われたくないな。


 そう言って俺と本田がどちらも引かない姿勢を貫いているのを見かねてか坂倉が仲裁に入ってくる。


「まあまあ、僕がついていってあげるから。だけど武夫、本当にいいの? 美少女云々を抜きにしても人脈を広げることは悪いことではないんじゃない?」


「一理あるが今回は気乗りしないんだ。二人で行ってきてくれ」


「ちっ、しゃーねえ。じゃあもう行くからな。後悔しても知らんぞ。俺たちはしっかりこの千載一遇のチャンスをものにしてくるからな、次のステージで待ってるぜ。Bye」


 なんだその上から目線。


 てか次のステージってお前あいつと付き合いでもするつもりか? 


 何か無性にむかついたので会話が続かない呪いでもかけておくことにした。




 昼休みになった。


 俺の席の周りのやつはこの時間になると教室外で弁当を食べるか購買もしくは学食に行くことが多く周りが空席まみれになるため、普段はそいつらの机を少々拝借して坂倉と本田とともに男三人花のない昼食をとることにしていた。


 まあもちろんそこで日本経済の行く末や景気の動向、世界情勢の変化などといったことに対してバカ真面目に生産的な議論を交わすわけもなく。


 どうすれば彼女が出来るのか、やナンパの場所別成功確率、誰と誰が付き合っているだの極めて非生産的な話を年齢=彼女いない歴同士で延々と話し合っている。


 クラスのやつが続々と教室から出ていくとそれと同時に俺たち三人は特に言葉を交わすでもなく見事な連携で机を合わせそれぞれ弁当を取り出した。


 さて今日は何を話すか、そういえばさっきの呪いの効果でも聞いてみるか、と思いながら弁当のふたを開け、好物のミニトマトを見つけ内心小さくガッツポーズを決めていると卵のふりかけがかかった白飯を食べながら本田が話し出した。


「いやー、ランキング更新だわ。これは圧倒的な一位だな」


「おめでとう。週間クラス変態ランキング二週連続一位を獲得したのか。次は三連覇がかかってるな、頑張れよ」


「んだよそれ! そんなもん連覇しても余計モテ男から遠ざかるだけだろ、やめろ!」


 モテ男て。久々に聞いたような気がする。


「そんなんじゃなくてカワイ子ちゃんランキングだよ。クラスはもちろん歴代一位決定だ」


「もしかして照さんのこと?」


「そう! まじでポイント高い。俺のストライクゾーンのど真ん中だぜ」


 どうやら本田が独自に作成している女子にバレたら有無を言わさず極刑に処されるであろう主観的というしかない女子の可愛さランキングでソラがめでたく、ではないな。


 かわいそうにも一位を獲得したらしい。


 というかお前にストライクゾーンってあったんだな。


 てっきりデッドボールでもストライクになると思ってた。


 そこまで言うなら歴代一位とやらの評価基準を聞いてみることにしよう。


「どこがそんなにいいんだ?」


 聞いてみると本田は箸で俺を指しながらライブ、グッズ等々総額三桁万円は貢いだ推しについて語るアニオタのごとく力説を始めた。


「まず顔な! 可愛い、これに尽きる。白髪碧眼ナイス! 次にスタイル。スラっとしてるんだがちゃんとメリハリ効いてて高評価だな。それと方言なのか『じゃ』とか『おぬし』とかいうだろ? 見た目的に外国人かなーって思わせといてからの日本人でもほぼ使わない『じゃ』! 方言萌え! もうダントツでSSランク!」


 主観度MAXファイヤーである。


「あとああいうタイプの子は性格も絶対いい! 優しくて人を傷つけるなんて絶対にしない! 断言する!」


 お前の言葉が仮に正しいとすれば昨日人に雷を落とそうとしていたことはどう説明すればいいのだろう。


「付き合ってみてーなー」


「でも本田この間まで奈良(なら)さんと付き合いたいとか言ってなかった? もう心変わりしちゃったの?」


「そうなんだよな、奈良もめちゃくちゃいいんだよな。頭いいし性格いいし可愛いし。でもなー、俺はどっちかって言うと照派なんだよなー」


 傍から見ればさもこいつがその二人に告白されてどっちと付き合うべきか苦渋の決断を迫られているような答えであるが、そんなことはたとえ天地が逆さまになったとしてもありえないだろう。


 ちなみに今話題に出た奈良というのは奈良京子(ならきょうこ)という女子のことだ。


 成績は学年トップであり、十人すれ違えば十人振り向くであろうほどの長い黒髪の映える美人、おまけに優しくクラスの人気者。


 容姿端麗、文武両道、才色兼備。


 人を称える全ての言葉は奈良のためにあるのではないかと思わせられるほどの完璧超人がその奈良という女子だ。


 つい一週間前まで学年全体どころか学校全体でいろんな意味でとんでもない逸材が入学してきたと話題沸騰だった。


 ほとんどの男子のハートを一瞬にして射止め、完璧すぎるあまり妬みも買う可能性はあったと思われるが、本人の人格の良さに女子すら陥落し今ではクラスのみならず学校中の人気者だ。


 冗談じゃなく本当に友達百人いるんじゃないか?



 その後しばらくはソラと奈良の話題で持ちきりだった昼食兼雑談会だったが特にこれと言った結論が出るわけでもなくお開きとなったのであった。

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