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第5話 『女神降臨in教室』

 おいおいおいおい。

 なんだこれは。現実か?


 なぜか一昨日のあの最高神(仮)がそこにいるんだが。


 なるべく表情には出さないようにしてはいるが内心混乱のサラダボウルだ。


 そんなことは露知らずあいつは自己紹介を始めた。


(てらし)ソラじゃ! 訳あってこの学校に来ることになった。分からんことも多いが仲良くしてくれると嬉しいの! よろしくなのじゃ!」


 こいつ、猫を通り越してサーバルキャットかぶってやがるな。


 話し終えると同時にあいつがニコっとクラスに向かって笑いかけるとクラス全体が再びざわつき始める。


 元が美少女ってのもあるだろうが、今の破壊力抜群の笑顔にクラスの大半のやつがハートを撃ち抜かれただろうな。


 その証拠に担任に一番後ろの窓際の席に座るよう言われたあいつが自席に向かう間ほとんどのやつがあいつを見つめていて、某海外の有名ファッションショーみたいになっていた。


 ざわめきが収まらない中ホームルームの終わりを告げる予鈴が鳴ると、一限まで五分しかないにも関わらず昼休みに購買に向かう時と同等、もしくはそれ以上の速度で我先にとクラスメイトが一気にあいつのもとへ向かっていった。


 すると案の定目をギラつかせて興奮気味の本田とそれと対照的にいつもと何も変わらない坂倉がこちらにやってきた。


「やっぱ美少女だっただろ? しかも予想をはるかに超えてやがる!」


「まさか本当に来るなんてね。驚いたよ」


「ああ、そうだな。驚いた」


 別の意味でだが。


「なんだよ、お前らもっとテンション上げてけよ! あんな美少女なんだぞ!」


 本田は声を荒げかなり興奮している様子。


「クソッ、もう輪ができてやがる! 呑気に話してる場合じゃねえ! 作戦決行だ、急げ!」


 そういって腕を掴まれ反論の余地もなく団子状態のクラスメイトの中に強制連行される。


 本田が手筈通りに作戦を決行しろと言ってきたが、群衆の鉄壁の守りに阻まれてあいつの顔すら拝めない位置にいるのに加えて内容をほぼ聞いていないため決行のしようもない。


 そのままバーゲンセール中のおばちゃん軍団に入りあぐねているか弱き少女のように立ちすくんでいると、授業開始を告げるチャイムが鳴り本田の作戦は始まることもなくあっけなく失敗に終わった。


 てか自分で話しかけろ。




 その後も休み時間になるたびに俺たち(主に本田)はあいつに話しかけようとしたが、クラスメイトの鉄壁ディフェンスに阻まれあっさり撤収。


 何の成果も得ることもできずに一日を終えた。


 ちなみに放課後になってもあいつの周りにはクラスメイトと転校生の噂を聞きつけた他クラスのやつがいた。


 この調子だと話しかけるにはまた機会を伺うしかなさそうだ。


 というか別に俺は話したいというわけでもないしな。


 特にこれと言った用もないのでまっすぐ家に帰ることにしよう。




 しかし狙った獲物は逃さないのがあいつのポリシーなのだろうか?


 駐輪場に着くとどこかの豪邸の門番のようにあいつが俺の自転車のそばに腕を組んで立っていた。


 なんで自転車止めた位置知ってんだよ。


「何逃げようとしとんじゃ?」


 子どもに説教する母親のような目を向けてくる。


 もともと瞳が大きいのも相まって意外に目力がすごい。


「別にそういうわけではない。周りにお友達がたくさんいたからお前が会話を心から楽しむことができるように配慮しただけだがどこか問題でも?」


「ふん、口が達者なことじゃの。でも今回は特別じゃ、そう言うことにしておいてやろうかの、感謝するんじゃぞ」


「はいはい、ありがとうございます。それよりもお前、俺の方が早く教室出たのにどうやって先回りしたんだ? まさか瞬間移動なんて言わないよな」


「瞬間移動じゃが何か問題でも?」


 生命の息吹が感じられる原生林の中の小川のようにさらっと言われてもどう反応すればいいのか困るのですけど。


「わざわざここまで来てまで俺になんの用事があるんだ? できれば刹那でも早く家に帰りたいのだが」


「そうじゃな、ここでは話しにくいからの……」


 こいつは俺の真ん前まで距離を詰めて来た。


 そして透き通る蒼い瞳でこちらをまっすぐに見て一段低いトーンでこう言った。


「ちょっと面貸してもらうぞ?」


 俺、今からボコられんのかな?

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